【ブラジルの子育て】“信頼できる大人は先生”変化する家族のあり方

【ブラジルの子育て】“信頼できる大人は先生”変化する家族のあり方

さまざまな歴史や風土をもつ世界の国々では、子どもはどんなふうに育つのでしょうか。この連載では、各国の教育や子育てで大切にされている価値観を、現地から紹介。今回は、ブラジルで保育園を運営する鈴木真由美さんに話を聞きました。

<連載企画>世界の教育と子育て
2000年にブラジルに渡り、北東部にある人口300人の農漁村、エステ―ヴァン村でカノア保育園の運営を始めた鈴木真由美さん。

ブラジルでふたりの子どもの出産を経験した鈴木さんは、ブラジルでは妊婦の数に対し医師や病床数が不足していることから、ほとんどが帝王切開による計画出産だと話します。

「WHOは帝王切開率を15%以下にと打ち出していますが、ブラジルでは2019年でも約80%。中流階級以上の人で自然分娩している人はほとんどいないと思います。計画妊娠、計画出産が基本ですね。

上流階級の人は、自分のスケジュールで妊娠して出産します。だから不妊治療のような治療を、自然妊娠できる人でもやっているんです。

保険医療は無償なので、公立の病院で出産する場合はお金がかからない代わりに、劣悪な環境だったり、医師が不足しているのが現状です」

ブラジルと日本、両方の環境で子育てを続け、両方の学校へ娘さんを通わせてきたからこそ見えてきたそれぞれの違いについて聞きました。
鈴木真由美/保育園の資格を有し2000年にブラジルへ渡り、セアラ州アラカチ市のエステーヴァン村にカノア保育園を作り園長として運営を開始。2006年には子どもたちへの教育支援と地域住民の生活安定・向上を目指し、日本とブラジルの相互理解や国際交流の発展に寄与することを目的とした「光の子どもたちの会」を設立。子どもの権利条約の委員としても活動している。
鈴木真由美/保育園の資格を有し2000年にブラジルへ渡り、セアラ州アラカチ市のエステーヴァン村にカノア保育園を作り園長として運営を開始。2006年には子どもたちへの教育支援と地域住民の生活安定・向上を目指し、日本とブラジルの相互理解や国際交流の発展に寄与することを目的とした「光の子どもたちの会」を設立。子どもの権利条約の委員としても活動している。

少しずつ変化する家族のあり方

「私は日本とブラジル、どちらで出産するかすごく迷って、当時、私がブラジルで住んでいた州で国際協力機構JICAの自然分娩を推奨するプロジェクトが行われることを知りました。ちょうど出産予定だった病院がそのプロジェクトを2001年まで実践していて、その名残ですごくいい環境で2004年に長女を自然分娩で出産しました。

産婦人科と小児科しかない専門病院でしたが、リラクゼーションルームがあったり、アロマテラピーができたり。医師は男性でしたが、シスターが看護師をやっていました。カトリック系の病院だったので、男性の立ち合いが禁止だったのですが、私は日本から来ていて日本の家族もそばにいなかったので、相談したらその病院で初めての立ち合い出産がかないました。
※写真はイメージです(iStock.com/molka)
その後は病院の方針も変わって、必要な方は立ち合いができるようになったそうですが、ブラジル人からするとこれはすごいことだったようです。

というのも、私の住んでいるセアラ州ではファシズムが強くお父さんは絶対的君主的な存在。男性が育児に参加することはありませんでした。私たち夫婦では、できることをできる方がしようと決めていたので、パートナーが家を掃除したり買い物に行くことも日常的にありましたが、当時は村の人々にとって異様な光景に映っていたようです。

最近では『そういう家庭があってもいい』という風潮になり、私の住む村では、休日にお母さんが家事をするためにお父さんが子どもを遊びに連れていく光景も見られるようになりました。

一方、このように家族のあり方が変化したことで、お父さんが子どもたちに尊敬されなくなり、反発し家を出た子どもたちがストリートチルドレンになる問題も表面化してきています。

以前は村全体で子どもを育てていた風潮もなくなりつつあり、孤立した子育てが目立つようになりました。年上のお母さんたちが若いお母さんに育児のやり方を教える地域の繋がりが薄れたことで、子どもとの時間をどう過ごせばよいのかわからないお母さんが増えています」

一方、都市部の中流階級以上の家庭では、家政婦とベビーシッターが一人ずついる生活スタイルが普通だと鈴木さん。そのため、子どもたちを集めて預かる施設の必要性がなく、これがブラジル全土で保育園や幼稚園が普及しなかった一因かもしれないと話します。

「ただ、シッターさんに預けていると家の中で一対一で過ごすことが大半で、子どもはとてもわがままに育つ傾向にあります。その状態で学校に入ると環境に順応するまでがとても大変になる。学校の先生も躾は教えてくれないので、幼児期に集団で過ごし社会で生きていくために必要なことを身に着ける場として、保育園はとても重宝されています」

生活様式の変化による子どもたちの問題

鈴木さんが住んでいるセアラ州の州都であるフォルタレザは、数十年前から都市化が進み今では観光地としてたくさんの人が訪れる場所。それにより、地域の人々の生活スタイルが変わり、夫婦の働き方にも変化があったといいます。
ブラジル、フォルタレザ(iStock.com/Zelio Freire)
ブラジル、フォルタレザ(iStock.com/Zelio Freire)
「観光業なので、土日祝日に仕事をしなければいけない。だからそこを考慮して、平日と休日でお父さんとお母さんの休みをずらしたり、週末、学校や保育園がやっていないときは祖父母が預かってくれます。

ブラジルには両親揃っている家庭の方が少なく、シングルマザーが非常に多いこともあり、祖父母や叔父叔母に育てられている子どもはとても多いです。

ただここにも問題があり、預かる先がいくつもあると帰る場所が安定せず、子どもが落ち着ついて休むことができません。両親が離婚していると余計に、たとえば月火水はお父さんの家、木金はお母さんと過ごし、土日は祖父母と一緒にいるといったスケジュール。

ジプシー(迷子)のようで、どこが本当の自分の家なのかと揺らいでしまう子どもたちが最近多くなりました。

子どもが親のライフスタイルに沿って生活を整える必要がある。小学校の中学年くらいになると『行きたくない』『振り回されたくない』と言い出すケースもあります。

大企業では、育児休暇は市によって違いますが基本は6カ月。ですが、日本と同じで取得するのはほぼ女性で、男性の育児休暇を認めようという動きもあります。

また、セアラ州は赤道直下で暑いので、以前は11時から14時くらいまで休める『シエスタ』がありましたが、今はなくなっており、最近またそれを復活させようという動きがあります。フレックスという形にすることによって、お父さんとお母さんがうまく育児のやりくりをできるようにと進んでいますね」

協調性よりも自分の良いところを伸ばす

「ブラジルは欧米と同じく、非常に個性を重視しています。日本は協調性を重んじますが、ブラジルでは『自分の良いところをどんどん出しなさい』と子どもたちに教えます。

多民族国家なので、肌や髪の色の違い、姿かたちが統一していないのが当たり前として育っていくからです。そういう環境では、”自分は自分”という価値観を受け入れないと生きていくことができない。だから自己主張も強く、親子でも意見がぶつかり合うこともよくあります」
※写真はイメージです(iStock.com/skynesher)
※写真はイメージです(iStock.com/skynesher)
鈴木さんの長女は、ブラジルで9年生(日本の中学3年生)まで日本と行き来しながら学校に通いました。そこで、国同士の違いを感じることもあったといいます。

「娘二人ともブラジルと日本を行き来しながら、小学校の頃は年間の2/3をブラジル、1/3を日本で生活していたのですが、やはり友だち一人ひとりの個性を受け入れる姿勢は日本のクラスでは目立っていましたね。

女の子同士の『〇〇ちゃん嫌いだから無視しよう』と言われても『私は嫌いじゃないから』とその誘いを断り、『それぞれ違っていて当たり前だから好きにならなくてもいい。ただ受け入れればいいんだよね』と私に話していました。

特に印象的だったのが、娘が小学5年生のときの学級会でのことです。クラスの議題に対し、みんなが良いという意見とは異なる発言を娘がしたところ、他の子たちもどんどん意見を言うようになり、普段は10分で終わる学級会が45分の授業内に収まらないほど活発になったことがありました。

40人のクラスメイトがいれば40人分の意見がある。担任の先生から、娘の発言が『違う意見も言ってもいいんだ』『自分の意見も受け入れてもらえるんだ』という雰囲気を作り、みんなで意見を言い合えたことはとても良かったと言ってもらえたときは、娘のベースにブラジルでの生活が息づいていると感じました」

「信頼できる大人は学校の先生」が8割

「ブラジルの親子は、基本的に国民性としてスキンシップが大好きなので、挨拶もハグをして頬を寄せ合うのが普通です。肌感覚でつながり合うことをとても大切にしていて、子どもへの愛情もギュッと抱きしめることで表現しています。

ただ、親子のコミュニケーションが近年減少傾向にあり、公立学校6年生のライフスキルトレーニングという総合科目での『信頼できる人はいますか』という質問に対し、約8割の生徒が『学校の先生』と答えました。とても衝撃的でしたね。
※写真はイメージです(iStock.com/sturti)
※写真はイメージです(iStock.com/sturti)
くわしく話を聞いてみると『親が自分たちの疑問に答えてくれるとは思えない』『自分は望まれて生まれてきていない』という理由が挙がりました。公立学校に通わせている家庭は裕福ではないケースが多く、親の教育レベルが高くないんです。

そうした状況から、子どもたちは自分の立ち位置を敏感に感じとっています。スキンシップはしっかりしているので傍から見るとコミュニケーションがとれているように見えますが、実際には会話がないということも。

実際に、私がブラジルに初めて渡ったとき、人がとても温かい国だと感じました。声を掛ければすぐに返してくれたり、子連れを見かければみんなで子どもをあやしてくれたり。でもブラジルで生活し人々と接していくうちに、ブラジルの人は心の扉が2枚あると感じるようになりました。

すぐに友だちになれたり困っていると助けてくれる1枚目の扉はすぐに開くんです。でも、本当に困っていることや、本当に助けてほしいことはなかなか話してくれない。6年生の子どもたちも親が本心を話してくれない、表面的な答えしか返ってこないと分かっているんです。彼らは携帯で検索すれば出てくる答えではなく、目の前の”僕”や“私”に対する答えを教えてほしいのに。

だから、子どもたちの約8割の『信頼できる人』は学校の先生なんです。学校の先生が自分を理解してくれると親以上の信頼関係ができ、学びを深め将来を見据えた自分の道を歩み出せる。一方で、先生が自分を理解してくれない、自分とは合わない場合もあります。

いじめや家庭内暴力、ネグレクトなどの家庭の問題が学校に集約するケースが多いため、子どもたちの反発に負けないよう指導しなければいけない先生としては、厳しくせざるを得ない側面もあるんです。

学校の先生との信頼関係が子どもたちの“最後の砦”。まだまだ教育や子育ての環境には課題がありますが、私たちが見ているカノア保育園の子どもたちは、とてもピュアで本当に擦れていないんです。目をキラキラと輝かせ、毎日を楽しみ、生きている。

子どもたちがこれから先、自分のやりたいことを見つけ希望を持って生活できるようにしていきたいです」
<取材・執筆>KIDSNA編集部
<連載企画>世界の教育と子育て バックナンバー

2020年08月31日

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