【スウェーデンの子育て】自然を肌で感じ環境意識を高める

【スウェーデンの子育て】自然を肌で感じ環境意識を高める

さまざまな歴史や風土をもつ世界の国々では、子どもはどんなふうに育つのでしょうか。この連載では、各国の教育や子育てで大切にされている価値観を、現地から紹介。今回は、スウェーデンに住み、環境教育を推進する森のムッレ財団の理事を務める、高見幸子さんに話を聞きました。

<連載企画>世界の教育と子育て
持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)が発表したSDGs達成率ランキング「SUSTAINABLE DEVELOPMENT REPORT」で1位を獲得したスウェーデン。SDGsの目標である17項目の進捗率が最も高いとされています。

「健康と福祉」「ジェンダー平等」などの項目で高い達成率を得ている一方、ランキング1位のスウェーデンでも「気候変動対策」には苦戦しています。

そんななか、地球温暖化対策を訴え、2019年にノーベル平和賞の候補として世界中から注目が集まったグレタ・トゥーンベリさんの生まれ育った国もスウェーデンです。

スウェーデン野外生活推進協会の理事、幼児の環境教育を推進する森のムッレ財団の理事を務める高見幸子さんは、スウェーデンの人々の環境意識が高い理由は、地域的な点と、幼児期からの環境教育によるものが大きいと話します。

高見幸子/1974年よりスウェーデン在住。1995年から、スウェーデンへの環境視察のコーディネートや執筆活動等を通じてスウェーデンの環境保護などを日本に紹介。元国際環境NGOナチュラル・ステップ・ジャパン代表。現在、ヨスタ・フロム森のムッレ財団理事、日本野外生活推進協会事務局長。幼児の自然環境教育「森のムッレ教室」の普及活動を支援している。訳書に『スウェーデンにおける野外保育のすべて: 「森のムッレ教室」を取り入れた保育』(新評論)がある。
高見幸子/1974年よりスウェーデン在住。1995年から、スウェーデンへの環境視察のコーディネートや執筆活動等を通じてスウェーデンの環境保護などを日本に紹介。元国際環境NGOナチュラル・ステップ・ジャパン代表。現在、ヨスタ・フロム森のムッレ財団理事、日本野外生活推進協会事務局長。幼児の自然環境教育「森のムッレ教室」の普及活動を支援している。訳書に『スウェーデンにおける野外保育のすべて: 「森のムッレ教室」を取り入れた保育』(新評論)がある。

環境変化を身近に感じるからこそ問題意識が育まれる

「まず、スウェーデンは自然が豊かな国で、国土の70%は森林です。約7人に1人は夏のバケーションのためのコテージ、いわゆる別荘を持っており、首都ストックホルムでは約4人に1人がボートかヨットを所持。1カ月間の夏休みを自然で過ごすのが伝統です。

そして、スウェーデンの人々の環境意識が高いのは、国の位置も関係しています。北極に近いほど温暖化の変化を受けやすいとされているため、国民はふだんから自然の変化を肌で感じているのです。

たとえば2018年に起こった山火事は、長期間にわたり平年より気温が高く、降水が少なかったためにスウェーデン近代史上最悪の山火事になったと言われています。

国民的スポーツであるスキーも、ここ数年は気候変動によって雪が積もらないことで話題になりました。環境問題についてメディアも危機感を持って発信しています。
 
※写真はイメージです(iStock.com/LordRunar)
けれど、スウェーデンだけでなく世界中で天災は起こっていますよね。日本でも毎年のように起きる記録的な台風や豪雨を深刻な問題として受け止め関心を持っている人は多いはずです。けれど、日本の場合はその問題意識をどこにぶつけていいのかわからない。

問題を訴えるルートがはっきりしていないせいで、不安に思っているし危機感はあるのに行動できないのかもしれません。

その点スウェーデンは未就学児のころから『あなたはどう思う?』と意見を求められたり、何かを決めるときに、大人が子どもたちの意見を聞いたり、学校内での模擬選挙といった民主主義教育を受け、声を上げるルートがはっきりしています。

知識だけがあって、共通の概念として持っていたとしても実生活の中で使えなければ、問題を解決することは難しい。

そうすると、グレタのように、気候変動について言及せず、逃げている責任を政治家に持っていき、声を上げます。政治家たちは未来のことが眼中になかったとしても、彼女たちは、これから50年60年と生きる当事者だから」

野外で過ごすスウェーデンの伝統

「自然が身近にあるスウェーデンでは、酸性雨やオゾン層の破壊といった環境問題をメディアでも多く報道していました。

私がスウェーデン男性と結婚し、スウェーデンで出産した後、日本に一時帰国したときのこと。ふるさとの兵庫県を訪れると、私の育った村の真ん中を高速道路が縦断していました。私が幼い頃から親しんでいた山も池もなくなってしまった。
 
※写真はイメージです(iStock.com/Ed-Ni-Photo)
スウェーデンだったら、道路ひとつ作るときもものすごく自然に配慮します。たとえば森に絶滅危惧種の甲虫がいたら、その森を大きく迂回して道路を作ります。私のふるさとでは誰も反対しなかったのだろうか、と悶々としながらスウェーデンに戻りました。

そんなとき、当時5歳の娘が『ムッレ教室に行きたい!』と言うようになりました。スウェーデンでは5歳になると、ボランティアのリーダーか、保育園の先生が、子ども達を森に連れていって自然を観察し、遊ぶ教室が人気がありました。

ムッレというのはスウェーデンの森の妖精で自然保護のシンボルです。ファンタジーの世界が好きな5・6歳児の子どもたちを対象にした教室で、自然の中に出かけて、遊び、発見しながら、自然の循環を学び、自然を好きになるようにします。好きなものは誰でも大切にするからです。

残念ながら娘の保育園ではムッレ教室をやっていませんでしたが、先生に勧められ、主宰団体である野外生活推進協会のリーダー養成講座を私自身が受け、私がボランティアリーダーになって娘を連れてムッレ教室を開催したのです。

そして、スウェーデンでは、このように幼児の頃から自然・環境教育をするから自然保護が進んでいることに気がつき、日本にも必要だと思い、日本に森のムッレ教室を広げる活動をはじめました。

スウェーデンの人々の環境意識が高い理由は、この伝統的に行なわれている森のムッレなど自然と触れ合う機会が多いことが関係していると思います。遊びながら自然に興味を持ち、自然が好きになる。自然感覚を育みながら、エコロジーの理解の基盤を築いていくのです」
 
※写真はイメージです(iStock.com/jacoblund)
スウェーデン野外生活推進協会の活動として、1957年に発足したのが”森のムッレ教室”。現在ではヨーロッパのほか日本や韓国でも活動が行なわれていて、スウェーデンだけでも、これまでに200万人以上の子どもたちが参加しました。

しかし現代では、子どもたちがゲームやスマートフォンに触れる機会が増えたことや、都市化したことが原因となり、以前よりも自然が遠くなってしまいました。また、共働きの保護者が休みの日に自然の中へ繰り出すことが難しいケースもあります。

「熱心な大人がいなければ子どもたちを森に連れていくことが難しくなっている時代です。だからこそ、野外生活推進協会は、森のムッレ教室のリーダー養成講座を開催し、できるだけ多くのボランティアのリーダーや保育園・こども園の先生たちが、自然に子どもたちを誘うことができるように活動をしています」

自然の中で「人が自然に支えられていること」を知る

「野外で過ごすといろいろなメリットがあります。たとえば、子ども同士のケンカが少ない。室内だと数に限りのあるおもちゃの取り合いになることがありますが、野外だと松ぼっくりや木の枝は無数にあるので、取り合いになることはありません。

野外で過ごすことでジェンダー教育にもよい影響があります。車やお人形といったおもちゃがありませんから、男女関係なく同じ遊びをしますし、森の中でスカートでは過ごせませんよね。女の子も男の子と同じような動きやすい服装で木登りをしています。
 
※写真はイメージです(iStock.com/Imgorthand)
何より、子どもたちは自然の中での体験を通して、人間が自然に依存しているということを感じ取っています。そこに自然があり、私たち人間が支えられていることを知らなければ、なくなっても寂しく思うことはありません。自然の中に身を置くことで自然の素晴らしさに気づき、同時に守りたいという気持ちが芽生えるのです。

私の8歳の孫は、私が電気自動車に乗っている理由を知っているので『ガソリン車やディーゼル車がなくならないと、北極の氷が溶けて、ホッキョクグマが住めなくなってしまう。みんな、電気自動車に乗って欲しい』と言います。

父親の友人がガソリン車に乗って家を訪問すると、『どうしてガソリン車に乗っているの?』と追求したりします。

また、自然公園に行くと落ちているゴミをすぐに見つけて、持ち帰ってゴミ箱に捨てるように頼んできます。これはムッレ教室に行っていた成果だと感じています」

女性の社会進出が進む“専業主婦のいない”国

「女性の就業率は79.7%。これはEUで最も高い数字です。スウェーデンに専業主婦はいません。働いていない女性は、育児休暇中か、学生か、求職中かのいずれかです。

初産は平均29.5歳、さらに首都であるストックホルムは31.4歳と比較的遅いのはキャリアを優先するため。けれど、合計特殊出生率は1.76人で、OECD諸国の中では最も子どもが生まれている国です。

驚かれるかもしれませんが、出産よりも結婚の方が遅いのがスウェーデンでは一般的。私の娘も、子どもが2歳になってから結婚しました。出産し、パートナーと子育てがうまくいくかどうかを試してから結婚するというプラクティカルな考え方がスウェーデンでは一般的です。
 
※写真はイメージです(iStock.com/LumiNola)
それでも働く女性を支える制度や法が充実しているため、安心して子どもを生むことができるのでしょう。育休後に元の職場に戻る権利や、正社員として勤務時間を75%に減らす権利があること。

子どもが病気や、体調が悪いときには看病を理由に休む権利があり、12歳まで年間120日間取得することができます。

育児休暇は480日あり、父親と母親で半分ずつ分けることができるのですが、1980年は男性の取得割合はわずか5%。なかなか男女平等が進まない実情があったため、今は3カ月ですが、男性しか取得できず、その日数を使わないと無効になってしまう制度を導入し、約40年後の2019年には男性の取得割合がやっと30%にまで増加しました」

1969年にパルメ首相が就任して以降、父親の育児における役割が注目され始め、諸外国と比較しても男女平等が進んでいるように見えるスウェーデン。しかし実感としては、まだまだ女性の負担が大きいと感じるのが正直なところだと高見さんはいいます。

「私が子育てをしていた頃に感じていたことであり、現在子育て中の娘も言っていることですが、もうひとり子どもがいるようなもの(笑)。

私の頃よりも、今のスウェーデンの男性の方が子どもの面倒を見るようになっていると感じますが、まだまだ『子育てを手伝っている』感覚。これではダメですよね。

だからいかに難しい問題か、ということです。男女格差を完璧になくすには、あと2世代くらい、または100年はかかるかもしれませんね。家庭、育児、仕事の両立はスウェーデンの夫婦にとっても挑み続けなければいけない課題です」

人格ではなく行動を褒めるかかわり

1979年、世界で最初にしつけのための体罰を禁止したスウェーデン。親の子どもとのかかわり方には、どんな価値観があるのでしょうか。

「今、スウェーデンで70代以上の人々に聞くと多くの人が体罰を経験しており、特に昔は男の子が父親にしつけのためと体罰を受けていたことが普通だったようです。

当時、この状況を憂い、社会や政治家に働きかけたのが『長くつ下のピッピ』を書いた児童作家アストリッド・リンドグレン女史。

『小さい時に、しつけのために児童虐待された人が大きくなって独裁者になっている。体罰はしてはならない』と、しつけのために体罰をすることを禁止する法律を作るように働きかけ、スウェーデンが世界で最初にしつけを禁止したのです。

そのため、親は子どもをしつけるときはとにかく話し合います。たとえば子ども同士の喧嘩でも、叩いた子も、叩かれた子もひとりずつ別に話をし、頭ごなしに怒るのではなく、お互いの言い分を聞いて悪かった方が謝る、ということを日常的に行います。
 
※写真はイメージです(iStock.com/fizkes)
また、スウェーデンのメディアやオープンプレスクールで伝えていることは、『あなたはよくできる子ね』と褒めないこと。

良くできる子として褒めると、常にできる子でいなければとプレッシャーを感じ難しいことに挑戦しなくなり、良くがんばったねと褒められた子の方が上達すると比較研究があるそうです。

そうではなく子どもを褒めるときは『よくがんばったね』と過程や行動を褒める。そういうかかわりを大事にして子どもの自主性を育みます」
<取材・執筆>KIDSNA編集部
<連載企画>世界の教育と子育て バックナンバー

2020年08月27日

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