KIDSNA編集部の連載企画『天才の育て方』。 #03は10歳で自身の本を出版した中島芭旺の母である弥生さんにインタビュー。後編では、自分で決断し行動できる子どもはどのように育てられたのか、弥生さんが言葉で伝えることに重きをおく理由や言語化するコミュニケーションの取り方について、その理由を紐解いていく。
悩んだとき、迷ったとき、自分で決断し実行する力を、中島芭旺(なかしま ばお)は小学校3年にして身につけていた。その能力はどのような環境のなかで育まれたのだろうか。
「もともと子どもたちは、小さな頃からやりたいことをすぐに見つけ、すぐに出来ていたと思うのです。出来なくなったのは、大人が止めてジャマしているだけ。私はとにかく、ジャマをしていないだけです」
ーージャマをしない、、具体的に言うと?
「子どもって、ティッシュがそこにあったらずっと出し続けますよね。芭旺もティッシュを出し続ける子どもでしたが、『これが好きなんだな、夢中になれるんだな、面白いなぁ』と思い家族の誰も止めることはありませんでした。触ってほしくないのであれば、手の届かないところに置けばいいだけ。
私たちはただただ彼が夢中になっていることをジャマしない、それだけですね」
ーー確かに、「やめて!」「ダメダメ!」と反射的に言ってしまいますね。
「なぜダメなのか、なぜイヤなのか、ティッシュを出すことに夢中になっている時期の子どもにはわからないと思うのです。『好きなことで生きてほしい』と望みつつ『ティッシュはやめて』って、矛盾していますよね。夢中になっていることを止められていると、子どもは自分は何が好きなのか、わからなくなると思うのです。
部屋が片付いていて嬉しい、物を無駄にしないでほしいと思うのは、大人ですよね。そうした大人の都合に、子どもたちはジャマをされているだけです」
ーー例えば「今はご飯の時間」などの場合、止めずに続けさせるのは現実的ではない気がしますが?
「私の場合は、『お先にいただいています、食べたくなったら食べてくださいね』と伝えていました。夕飯の時間がずれても、何の問題もないですよね。
幼稚園に通っていたときも、何かに夢中になっているときは『今これをやりたいからジャマをしないで』と先生に伝えていたようです。それを先生から聞いた時、非常に嬉しかったですね。望みを素直に伝えられるということは、芭旺が先生のことを信頼している、幼稚園が安心できる場所なのだと感じました」
子どもが夢中になっていることをジャマしなければ、子どもは安心や満足感を受け取り、想いを素直に伝えてくれるようになる。
子どもたちの「やりたい」という情熱に対し、可能な限りの応援をしているという彼女の考えは至ってシンプルだ。
子どもの決断を尊重し、夢中になっていることをジャマしない。このポリシーを土台として、彼女はどのように芭旺くんの才能を伸ばしてきたのだろうか。
ーー芭旺くんの「やりたい!」気持ちを、弥生さんはどのように汲み取っていたのでしょうか。
「汲み取ってはいません。希望していることを伝えてください、と言っています。私は超能力者ではないので、言葉で伝えてもらわないとわかりません。そして同じように、私も自分の希望を伝えるようにしています」
ーー希望や考えをお互いがアウトプットすることで意思疎通ができているのですね。
「そうですね。芭旺は、想いを言葉で伝える、ということをただただシンプルにやっています。本の出版も、自ら編集長にコンタクトをとり『自分の経験を本にしたい』と伝え、叶いました。
本を書いた時期は、自分の頭の中にある考えを言語化することに夢中になっていました。小学校に行かない選択をすると決めたときは、想いがまだ言葉にならずもどかしい想いをしていて、その時期を経て言語化できるようになったからこそ、あの本が出来たのだと思います」
ーー家庭の中で伝えることが当たり前になっていると、誰に対しても伝えられるようになりそうですね。
「目上の方でもストレートに伝えるので、大人の方からは可愛がってもらえますね。自分の想いを伝えて、相手の想いも伝えてもらって、じゃあ接点はここだね、という流れで話がすぐにまとまります。お互いが相手の考えを想像しなくてもよい分、簡単ですよね」
ーー芭旺くんがまだ言語化できずにいた時期は、どのように理解していたのでしょう?
「第一次感情で話すことをよくやっていましたし、今も続けています。
例えば怒っている時、怒りの下に隠れている第一次感情は何なのか掘り下げてみると、『寂しい』『悲しい』『不安』『心配』などという感情に気づきます。それを素直に『私は寂しかった』『悲しかった』『不安だった』と伝えています。芭旺も寂しいと感じたとき、怒るのではなく『寂しかった』と言います。自分の感情を伝えることは恥ずかしいことではないし、第一次感情は人を傷つけません」
ーー感情を掘り下げる、、自分自身の感情に気づくためにも、とても良い習慣ですね。
「想いや感情を伝えてくれる度に、『私はそれを教えてもえらえてとても嬉しい。芭旺がそうやって生きていたら、きっと彼女や奥さんにも愛される、それが私は何よりも一番嬉しい』と感じたままを芭旺に伝えています」
ーー弥生さんの子育ては、ご自身が育った環境と似ていますか?
「似ている部分も多いですが、子ども側の捉え方が大きく違っていると感じています。
私の父は全盲で働いていたので、母が父につきっきりだったこともあり、放任で育ちました。私も子どもたちを自由にさせている部分では、母と私の子育ては大きく変わることはないですね」
ーー子ども側の捉え方が違う、というのは?
「子どもが寂しいと思うか否かだと思っています。私は寂しい思いをした覚えがあるのですが、芭旺は『僕のことを信用してくれている』と思ってくれています。
コミュニケーションがとれていれば、受け手側がどう取るかが変わってきます」
子どもの望みを尊重する大切さは非常に理解できる。しかし実生活において「ダメダメ!」と止めに入ってしまうのも現実だ。子どもとの考えや価値観の違いに気づき戸惑うこともあるだろう。そういったとき、どのように解決してきたのだろうか。親子のコミュニケーションについて聞いた。
「何かをやめてほしい時、『それは私は嫌です』と伝えていました。それをやることがダメなのではなく『私が嫌だ』ということを伝える。私の取扱説明書を伝えているだけですね。これは『あなたが嫌なことは嫌と言っていいよ』というメッセージに繋がっていると思います」
ーー芭旺くんはその答えに対し、どのような返答をするのですか?
「『そうなんですね』と返してきます。子どもと考え方や意見が合うとはもともと考えていないので、違うことをお互いに面白がって生きています。お互いに『あなたはそう思うんですね』と受け止めている感じですね。
『私はこういうふうに感じます』と伝えるから、芭旺からも『僕はこうです』と教えてもらえる。一人の子どもというより、一人の対等なパートナーのような感じです」
お互いがあらゆる想いを伝えあっていれば、感情のすれ違いは生じないだろう。異なる考えや価値観を面白がり、本質的な部分で分かり合うことができるのかもしれない。
今回は芭旺くん本人ではなく、芭旺くんを産み育てた母・弥生さんから話を伺うことで、リアルな「天才の育て方」を聞くことができた。芭旺くんは子どもの持つ素直で柔軟な発想力と、母から身をもって教わった想いをアウトプットする技術が見事に調和し、決断力と実行力を身につけてきたのかもしれない。
<取材・執筆・撮影>KIDSNA編集部
2018年08月16日
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