「キャリアと、母になりたいという望み」両方叶えて欲しい【大山加奈さん#2】
不妊治療の助成拡充に続き、2022年4月から、保険適用が決定。子を持つための選択肢が広がった今、終わりの見えない不妊治療の日々を過ごした大山加奈さんに、ご自身の不妊治療についてお話いただきました。
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仕事との両立は排卵のタイミングとの戦い
――採卵のための通院など、多忙な大山さんにとって、お仕事の調整はかなり難しかったかと思います。
幸いにも私の仕事は1日フルで、ということはほとんどないので、地方へ行く場合を除けば、合間合間で通うことができていました。
病院から急に「明日来てください」みたいに呼ばれることはなく、2、3日くらいの間に来れたら来てね、という風に言われることが多かったので、なんとか通院できていましたね。
でも、ちょっと通院が遅れただけで排卵してしまうと、その月のチャンスはおしまい……となってしまうので、「病院行くまで排卵しないで……」と祈りながらでした。年にチャンスはたった12回ですもんね。
仕事しながらだとこうした治療はほんとうに難しいですよね。職場環境によって言いづらかったり、「また休み?」と思われちゃう、という方もいたりするでしょうし。
それに仕事は、好きなことをしていてもストレスがかかるじゃないですか。私自身も、妊娠したのはコロナ禍で仕事が全然ないときだったんですよね。この環境だったからなのかなと思うこともあって。ストレスが大敵と言われていますが、本当にそうだなと思います。
とはいえ治療にはお金がかかるので、仕事をやめてしまうと治療が継続できないっていう事情もあると思うんですよね。いつもそのバランスはすごく難しいと感じています。
――仕事と両立していくうえで、どのようにして痛みとの戦いや精神面のケアをしてこられたんでしょうか。
当時はできることは何でもやってました。ちょっと怪しげなサロンにも高いお金をかけて通いましたし、鍼に漢方に……妊娠しやすい体にするために、良いとされることはほぼやったんじゃないかなっていうくらいやりましたね。
当時、治療のことはマネージャーにだけ言っていました。私の仕事は数カ月前から、早いときは2年前からスケジュールが決まっているので、調整ができないんですよね。治療を仕事に合わせる、という感じでした。
でもありがたいことに、お仕事にたくさん呼んでもらって、行ったら喜んでもらえるので、その間は治療の辛いことも忘れられるんです。その点はすごく恵まれていたなと思いますね。仕事で心が楽になるというか。
「子どもを笑顔にできる」自分の役割に気付き、気持ちが変化
――ご自身がお子さんを強く望まれ、治療されている中で、子どもや親子と向き合うことは辛くはありませんでしたか。
辛かったのは、子どもたちより、大人ですね……。仕事でご一緒した年配の男性から心無い言葉を浴びせられることが多くて、それが本当に辛かったです。
多分そういう方たちの頭の中には、不妊治療という概念がないんですよね。子どもが欲しくても、望んでもできない人がいるっていうことを知らないのかもしれません。しかもそれを、いじりのような笑いに変えてしまう。それにはすごく苦しめられました。
逆に、親子教室のような一緒に体を動かすっていう活動が一番好きで、全然辛くならなかったんです。
不妊治療中だとそういう教室が一番辛いのかな、と思っていたんですが、親子で楽しそうに体を動かしている姿にはとても幸せな気持ちにしてもらっていました。
自分の子どもを育てることも大事なことだけど、こうやってたくさんの親子を笑顔にしていくことが自分の役割なんじゃないか、という風に思えたこともあったので、親子や子どもと触れ合う仕事は、不思議とあまり辛くなかったんです。
――大山さんにしかできない仕事がある、大山さん自身を求めてくださる方が大勢いるということは、とても強い支えだったのですね。
そうですね。でも、自分も仕事との両立にはすごく苦しみました。今は、どちらかを犠牲にしないと、どちらかを得られない社会だと思うんです。
それでも、みなさんには両方掴みに行って欲しいなってと思いますし、両方とも得られる社会であってほしいと強く願いますね。
――4月からの保険適用で不妊治療が多くの人たちの関心を集め、周囲の理解やサポートが得やすい環境になることで、女性が自己実現しやすい社会になることが望まれますね。
大山加奈さんインタビュー、次回(3月30日配信予定)は、治療中の心のケアについてお伝えします。
<取材・執筆・撮影>KIDSNA編集部
▼大山加奈さんインタビュー3回目 不妊治療の支えと気づき
2022.03.23