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「友人の妊娠・出産報告が辛い」不妊治療の疲れを癒す”支え”の存在【大山加奈さん#3】
不妊治療の助成拡充に続き、2022年4月から、保険適用が決定。子を持つための選択肢が広がった今、終わりの見えない不妊治療の日々を過ごした大山加奈さんに、ご自身の不妊治療についてお話いただきました。
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不妊治療を一旦お休み。私を「お母さん」にしてくれただいずの大きな存在
――3年間続けていた不妊治療を、一度お休みされました。その時期についてうかがえますでしょうか。
自然な形で授かりたいという気持ちや、心身への影響、経済面など、いろいろな葛藤があった中で、勇気を出して体外受精に治療をステップアップをしたのですが、自分の中で、これで妊娠できるかもしれないという期待を持ってしまったんですよね。
でも見事に期待を裏切られた。しかも採卵でいくつか取れた卵が、全て使えない卵、破棄しなければならない卵だったんですね。その中で唯一、ギリギリいけるかどうかという卵を、当時通院していたクリニックならば試せるとのことだったので、すがるような気持ちで子宮に戻してみましたが、やっぱりだめで。
採卵していくつも卵が取れたのに、使える卵がなかったということがすごくショックでした。もうこのまま治療を継続しても、結局またいい卵はとれないんじゃないか、だったらやる意味ないんじゃないか、と。
また、長年治療を続けてきて、期待した分だけ、心が疲れてしまった部分もありました。東京オリンピック開催が決まって、ありがたいことに仕事もすごく増えたので、仕事に生きよう、治療はお休みしよう、と決めました。
――お休みの間に、柴犬のだいずくんを飼い始めたんですよね。
治療を休んだ月、すぐに飼い始めました。私はもともと犬が怖くて苦手で、これまでの人生で触ったこともなかったんですが、ずっと夫が「犬飼いたい、小さいころからの夢だった」と言っていて。夢だったのなら叶えてあげなきゃと思う自分がいたので(笑)
毎日のように可愛い柴犬の写真や動画を見せられ、「かわいいかもしれない……」と思い始めたときに、たまたまブリーダーさんの所に行ったらだいずに出会ってしまって。私が「この子をすぐに連れて帰る!」と決めました。
――だいずくんとご夫婦での生活を経て、2人と1匹の家族で生きていく、というビジョンも見え始めたのでしょうか。
そうですね。なんならもう一匹迎えようかという感じでした。
それまではすごく子どもが欲しいと思っていましたし、仕事上の親子教室などで親子に会う分には全然気にならなかったものの、やっぱり街中で親子を見ると心がざわざわしたり、友達の妊娠出産を喜べなかったりする、嫌な自分を感じてしまっていたんです。
でも、だいずを迎えてからは、「私にはだいずがいる、だいずが私の子どもになって、私をお母さんにしてくれた」と思えるようになって、友達の妊娠や出産も、心から喜べるようになりました。そういう面ではとても心が楽になりましたね。
夫婦そろって同じ熱量で歩めないもどかしさと、夫の隠れた優しさ
――治療中やお休み期間、パートナーとの関係性に変化はありましたか。
夫の方にはもともと結婚願望がなく、子どもが欲しいというのも一切なかったんですね。
なので治療に関してもずっと、「加奈がやりたかったらやればいいんじゃない」くらいのスタンスだったんです。
現役時代に私がすごく苦しい時間を過ごしてきたことを知っているので、「現役を引退してまで、また苦しい思いをする必要はないんじゃないか」って思ってくれている部分もあったみたいなのですが、口下手なのであまりそういうことをちゃんと言ってくれないんです(笑)
なので、こちらとしては不妊治療に対して同じ温度感でいてくれないことに関して、「なんで、どうして!?」という気持ちがずっとありました。
もうちょっと一緒にがんばって欲しいという気持ちから、わざと目の前で治療用の注射をしたりとか……これだけ大変なんだ!というのを、目の前でアピールしていました。口で言っても、「だったらやめれば?」って言われちゃうと思うんですよね。
不妊治療のことって、人にあまり話せることじゃないじゃないですか。私も最初の頃は、周りになかなか言えなかったんです。
そうなると話を聞いてもらえる場所がなく、唯一ちゃんと理解してくれている夫には、話を聞いて欲しかったかな、というのはありますね。
でも、後から思うと、それも優しさだったんだろうなと思います。相手もすごく子どもを欲しがるタイプであったら、逆に辛かっただろうなと思うんですよね。
実は、夫の方の検査結果はものすごく良かったんです。先生が笑っちゃうくらいの数値が出ていました。だから余計に、私のせいなんだ、私が悪いんだと思っていました。
もしもそれで夫が子どもを「欲しい欲しい!」と言っていたら、私はとても追い込まれていたな、と思うんです。
それも今、双子をしっかり授かることができたからそう思えるだけかもしれないんですが、結果的にはよかったのかなと思えます。……でももうちょっと、優しい言葉は欲しかったですね!
同じ境遇の仲間の心強さは、治療の支えだった
そんな中、すごく仲のいい先輩も途中から不妊治療で同じ病院に通い始めて、2、3時間お茶しながらおしゃべりをする時間ができたんです。それにはとても支えられたというか、励まされました。
わかってもらおうといろいろな方法で伝えてみても、どうしても男性には、本当にわからないことばかりだと思うんですよね。あの内診台の感じとか……体験してみて欲しいですけど!なので、同性で同じ境遇で、全く同じ悩みを共有できるという仲間がいるというのは、本当に精神面の支えとして大きかったと思います。
――長く、先の見えない治療の中で、心の支えをしっかりと持つことの重要性がわかりました。
大山加奈さんインタビュー、最終回となる次回(4月6日配信予定)は、不妊治療の末、ついに授かった双子のお子さんの育児についてお伝えします。
<取材・執筆・撮影>KIDSNA編集部
▼大山加奈さんインタビュー4回目 双子育児
2022.03.30