なぜ伝説の動物写真家はヒグマに命を奪われたのか…星野道夫さんの悲劇を呼んだ「餌付けされたクマ」の怖ろしさ

なぜ伝説の動物写真家はヒグマに命を奪われたのか…星野道夫さんの悲劇を呼んだ「餌付けされたクマ」の怖ろしさ

2025年度クマに襲われて死亡した人は13人にのぼり、過去最多の被害となっている(環境省まとめ)。クマ問題を取材するライターの中野タツヤさんは「クマの生態を熟知したプロでさえ、被害に遭うケースがある。その代表例が、動物写真家の星野道夫さんの悲劇だろう」という――。

動物写真家・星野道夫さんの悲劇

前回、とある観光客がSNSへの投稿を目的にヒグマに接近し、自撮り写真を撮影して命を落とした事件をご紹介したところ、思わぬ反響があった(参照〈TikTokで子グマへの餌付けを撮影中に、母グマが後ろから現れ…自然をナメた「迷惑観光客」が辿った末路〉)。

ヒグマに限らず、野生動物が自然の中で見せる愛らしい姿を見てつい撮影したくなる気持ちは理解できるが、実際には大きな危険がともなう行為であり、動物の生態を熟知したプロの写真家でさえ、被害に遭うこともある。

その代表例と言えるのが、動物写真家の星野道夫さんの悲劇だろう。

TBSの人気番組「どうぶつ奇想天外!」の撮影チームがヒグマ撮影のためにロシアのカムチャツカ半島を訪れたのは1996年7月だった。

一行の内訳は、動物写真家の星野道夫さんと、ロシア人ガイド2人、TBSのディレクター、カメラマン、アシスタントの3人の計6人。

星野さんは慶應義塾大学に進学しながら、神田の古書店で手に取ったアラスカの写真集に魅せられて単身渡航。アラスカでの体験をレポートにして提出しギリギリ卒業したというエピソードも残っている。

大学卒業後はカメラマン助手を経てアラスカ大学フェアバンクス校に入学。以降、グリズリーをはじめとするアラスカの野生動物たちの写真を次々に発表。1990年(1989年度)には『アラスカ:極北・生命の地図』(朝日新聞出版)で写真家の登竜門ともいえる「木村伊兵衛写真賞」を受賞。また、大自然の中での体験をつづったエッセイも高く評価されていた。

世界の「食害事件」との共通点

「どうぶつ奇想天外!」のカムチャツカロケは星野さんの持ち込み企画で、「ヒグマと鮭」がテーマだったという。

カムチャツカ半島には手つかずの自然が豊富に残されていて、エサとなる鮭もたくさん遡上してくる。そんなカムチャツカで、鮭を追うヒグマの姿をカメラに収めようという企画だった。

TBSの一行が目指したのはカムチャツカ半島南部に位置する「クリル湖」のほとりだった。クリル湖は直径約7キロの巨大なカルデラ湖で、カムチャツカ半島の中でも特にヒグマの生息数が多い地域として知られている。

この時、TBS側のスタッフ3人とロシア人ガイド2人は木造の小屋に宿泊していた。だが、星野さんだけは小屋から3メートルほど離れた場所に自分のテントを張って泊まっていたという。

万が一ヒグマが襲ってきた場合、薄い布製のテントでは攻撃を防ぎようがない。

以前ご紹介した環境活動家のティモシー・トレッドウェル氏の死亡事故でもヒグマはテント内にやすやすと侵入し、同行のガールフレンドとともに食害している(参照〈現場には「時計をつけた腕」だけが残っていた…米国版「ムツゴロウさん」が巨大野生グマと戯れた後に起きたこと〉)。

日本国内でも1970年に発生したいわゆる「福岡大ワンダーフォーゲル部ヒグマ事件」では、人間が宿泊するテントをヒグマが襲い、倒壊させて3人を食害している。

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日高山脈山岳センターに展示される加害羆の剥製(写真=Koda6029/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

ヒグマが多数生息する地域において、あえてテントに宿泊するのは危険な行動だったはずだ。

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