トランプにとって日本ほど重要な国はない…米大統領と会談した男が見る「関税15%」よりも大事なディールとは
安倍総理が見せた「自立して相応の責任を負う姿勢」
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ドナルド・トランプとは何者か。『国家安全保障とインテリジェンス』(中央公論新社)を書いた元国家安全保障局長の北村滋さんは「話してみると気質が明るく、安倍総理と相性が良い理由がわかった。ただ2人の関係だけで、今に続く日米の国家間の強固な関係性がつくられたわけではない」という。ライターの梶原麻衣子さんが聞いた――。
私がトランプ関税問題を悲観していないワケ
――関税交渉や防衛費増額要請など、日米関係ではシビアな話題が続いています。
【北村】特に関税に関しては「国難だ」といった声もありますが、私はそれほど悲観してはいません。
日米関係を下支えするのは経済産業面での協力です。日本製鉄によるUSスチールの買収はもちろん、造船業においても日米協力が進んでいます。さらには防衛産業、宇宙、量子、デジタル・インフラ、暗号資産など、多くの分野において日米の利益は重なっており、克服すべき課題も共有しています。
こうした幅広い日米協力のアジェンダに共通するのは、まさに「経済安全保障」の視点です。日本も近年、経済安全保障推進法、重要経済安保情報保護法、能動的サイバー防御法制を整備し、技術流出などが起こらない形で連携できるよう、体制を整えてきました。
さらに言えば、トランプ大統領が大統領選のさなかから「掘りまくるぞ(drill, baby, drill)」と繰り返していたエネルギー戦略についても、長期的に見れば日本の国益と合致します。アラスカLNGパイプライン構想は採算面の心配はないではありませんが、実現すれば日本にとってもエネルギー供給の多角化に寄与します。
日米関係を揺るがすほどの問題ではない
【北村】また、経済安全保障が重視されるのは、先端技術が軍事・防衛に直結する面があるからです。その点から考えても、アメリカにとっても、技術流出などを心配することなく産業面で連携できる、投資を受けられる国として、日本ほど重要な国はないはずです。
こうした双方の利益が合致するポイントを押さえていけば、関税交渉においても税率引き上げをオフセット(相殺)できる材料も探し当てられる可能性があります。お互いの国益を背負っているため交渉はシビアですが、それが日米関係を根底から揺るがすほどの問題なのか。私はそうは思いません。
――トランプ大統領の関心は通商・産業に寄せられています。
【北村】かつては「通商・産業と国防・安全保障は別」とみられてきましたが、現在はそうではありません。
例えば宇宙開発ではアメリカとの技術連携や人材育成協力を進めるとともに、ミサイル早期警戒や衛星通信の相互運用も進めています。民間産業や大学での研究などが、軍事・安全保障に直結する時代になっていることに加え、現在は経済的にも軍事的にも台頭してきた中国と対峙しなければならない時代でもあります。
だからこそ経済安全保障という視点が重要になってきたのです。