意味がないどころか、むしろ害…「早期発見」を信じて検査を受ける人に認知症の専門医が伝えたいこと
不安だけが増幅される実は効果のない"予防医療の種類"
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健康寿命を延ばすためにはどうすればいいのか。米マウントサイナイ医科大学老年医学科の山田悠史医師は「早期発見が大切と言われるが、認知症に関しては注意が必要だ。予防のために受けた検査が、効果がないどころか、かえって害になる可能性もある」という――。 ※本稿は、山田悠史『認知症になる人 ならない人 全米トップ病院の医師が教える真実』(講談社)の一部を抜粋・再編集したものです。
「高額な検査」はお金と時間の無駄かも
インターネットで検索していると、自由診療を行うクリニックのウェブサイトで、手軽に受けられる認知症の血液検査や、高額なPET検査が宣伝されています。
こうした検査は一見すると、早期発見や予防のために有効な手段のように思えるでしょう。まして医師がそのように伝えているなら、なおさらそう思えてしまうかもしれません。
しかし、実際には多くの場合これらの検査は受ける価値が低く、特に症状がない場合には、受けることでかえって害を被る可能性すらあるものです。
それがなぜなのか考えてみましょう。
アルツハイマー型認知症の検査では、アミロイドベータやタウタンパク質といった異常なタンパク質が脳内にたまっているかどうかを評価します(1、2)。
この異常なタンパク質はアルツハイマー病患者の脳の中で認知症の症状が出る前から増え始め、症状が出た時には目立って見られるという特徴があります。
そして、これらの異常なタンパク質は、PET検査や血液検査で測定することができます。
PET検査にはあまり馴染みがない方もいるかもしれないので補足しておくと、PET検査とは、体内の生物学的な機能や代謝活動の変化を可視化してくれる画像検査の一つです。ある薬剤を体内に注射し、その薬剤の分布を特殊なカメラで撮影することで、組織や臓器の機能を可視化することができます。
例えば、アルツハイマー病をターゲットにしたPET検査であれば、アミロイドベータのあるところに薬剤が集まる仕組みになっており、特殊なカメラを使うとアミロイドベータのある場所だけ光るようになります。こうして異常なタンパク質の蓄積を直接検出できるようになるのです。
陽性でも、認知症になるとは限らない
そう聞くと、症状が出る前からこうした検査を受ければ、早期発見ができると思われるかもしれません。確かにそういう側面がないわけではありません。しかし、これらの異常タンパク質が陽性であることは、必ずしも認知症を発症している、あるいは将来発症することを意味しません。
なぜなら、アルツハイマー病の有無にかかわらず、年齢とともにアミロイドベータを持つ人は増加するからです。アミロイドベータは脳内で作られ、排出されるタンパク質断片で、通常は過剰に蓄積しないよう働く仕組みが備わっています。
とはいえ、70歳以上の20%以上、80歳以上では30%以上にアミロイドベータの蓄積が見られると報告されています(3)。
しかし、その中で実際に認知症を発症するのは一部です。
つまり、アミロイドベータが検出されたからといって、「将来必ず認知症になる」というわけではなく、多くの人が検査で認知症リスクが高いと言われながら実際には認知症を発症しないことになります。
例えば、認知機能の正常な60歳の男性にアミロイドベータが検出された場合の生涯のアルツハイマー型認知症発症リスクは23%と推定する報告があります(4)。
この数字は高いと感じるかもしれませんが、逆に言えば、検査が陽性と出ても、77%の確率で死ぬまで発症しないということです。
これは、庭に雑草が生えたからといって、すぐに庭全体が荒れ果てることにはならないのと似ています。雑草は年々少しずつ増えるかもしれませんが、適切に管理すれば庭全体に問題を起こすものにはなりません。
同様に、アミロイドベータの蓄積も加齢による変化の一つであり、それ自体が重大な問題を引き起こすとは限らないのです。