スピーチで心をつかむ人は「沈黙」が抜群にうまい…『ZIP!』お天気キャスターが心がける「聞きやすい」の3条件
その日の天気によって「前髪を変える」徹底ぶり
Profile
プレゼンやスピーチを成功させるにはどうすればいいのか。解説のわかりやすさに定評がある朝の情報番組『ZIP!』(日本テレビ系)のお天気キャスターを務める小林正寿さんは、事前練習もしなければ、トーク原稿も用意しないという。話す上で大切にしているという「たったひとつのこと」を聞いた――。(第2回/第3回)
心の病を経験しながら、なぜ自然体でいられるのか
前回は平日朝の情報番組『ZIP!』(日本テレビ系)のお天気コーナーに出演する気象予報士、小林正寿さんが心の病から回復していく道のりをお伝えした。今回は、小林さんの“伝えるテクニック”を盗みたい。私はさまざまな天気予報を見聞きしているが、『ZIP!』の小林さんの解説が抜群にわかりやすく、聞きやすいと感じている。それは日頃から発声の練習をしている、アナウンサーのような滑らかな話し方とはまた違う。例えば小林さんは話す時に噛んでしまう時もあるが、「失敗した」という顔をしない。良い意味で仕事っぽさがないのだ。どうしたらそんなふうに人前で自然体でいられるのだろう。
「僕はテレビでも視聴者の方と会話しているつもりでいるんです」
と、小林さんが言う。
「日常会話でまったく噛まないことってないじゃないですか。同様に、人前で言い間違えても気にする必要はないと思います」
その日の天気を“物語”のように話す
そう言われても、人前で話すことを忘れてしまったり、また練習通りに進行できないと、普通は慌てふためく。
「そうですね……。練習はしないかもしれません。実は本番でも原稿を読んでいないのです。気象予報士の中には原稿を読んだり、文章を丸暗記して本番に臨むタイプの方もいらっしゃいますが、僕には合わなくて。そうすると『型』ができてしまい、生放送の中で臨機応変に対応できなくなってしまう気がするんです。天気予報の『持ち時間』は本番の直前まで決まらず、また本番の最中も前のコーナーが押して変わってしまうことが多々あります」
CM中に「天気、×秒ね」と急に時間が決まったり、30秒あると思っていた尺が急遽15秒になってしまったり、話している最中に「残り30秒」が2回(=「伸ばして」の意)出たり。
「だから僕は頭の中でその日の天気を物語のようにしてまとめているんです。あらかじめ思い描いていたお天気物語を、与えられた尺(持ち時間)で短編物語にするか、長編物語にするか、瞬時に判断して話している感じですね」
スピーチする内容を物語風に思い描いて覚え、その場の雰囲気や、与えられた時間に合わせて話す――そんな芸当は私にはできない。
「いやいや、みんなできますよ。難しく考えすぎなのだと思います」と、小林さんが笑いながらも真剣な口調で話す。
「誰かと会話する時に文章を暗記して話す人、いないですよね。大切なことは、相手のことを考えて“どう伝えるか”です」