リニアの国家プロジェクトが「たった3%の土砂」で止まっている…JR東海が頭を抱える「静岡の土問題」の隘路
「一難去ってまた一難」とはまさにこのこと
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地下水の流出問題に一区切りつけたJR東海が、今度はトンネル工事で出る「土問題」に悩まされている。ジャーナリストの小林一哉さんは「2021年の熱海土石流災害を教訓にできた県条例が、リニアの工事に引っかかる事態になってしまっている」という――。
「水問題」が終わったと思ったら「土問題」
前回の記事で、静岡県とJR東海との間でかねて懸念になっていた地下水の流出問題がようやく節目を迎えたことを紹介した。
だが、問題はほかにも残されている。
静岡工区のリニアトンネル工事の影響を話し合う6月2日の県地質構造・水資源専門部会で、トンネル掘削工事で発生する自然由来の重金属を含む「要対策土」の取り扱いについて初めてテーマとなった。
静岡県は2024年2月、JR東海との対話を要する28項目のなかの一つに、要対策土を処理する「藤島残土置き場」計画を盛り込んだ。
そこにはただ「現在のJR東海の計画は条例上、認められない」とある。
工事が熱海の災害でできた条例に抵触する
藤島残土置き場計画が認められないのは、2021年7月に発生し28人の死者を出した熱海土石流災害を踏まえ、22年7月に施行された静岡県の盛り土等に関する規制条例で、重金属など要対策土の盛り土を原則禁止したからである。
だから、川勝前知事の時代に県はJR東海に計画そのものの見直しを求めてきた。
川勝氏は「藤島残土置き場について、リニア計画時にこのような厳しい条例は制定されていなかったが、新たな条例に書かれている通り、要対策土の盛り土は認められない。適用除外にならないこともはっきりしている」と何度も述べていた。
しかし、それでもJR東海は県に条例の適用除外として藤島残土置き場計画を認めてもらえるよう働き掛け続けている。藤島残土置き場以外の方法はハードルが非常に高く、これから対応するのでは長い時間が掛かってしまうからだ。
2日の専門部会で、JR東海は要対策土処理の他の選択肢が非常に困難であることを強調しただけで、藤島残土置き場についての説明を避けた。
会議後の囲み取材で、平木省副知事は適用除外となる要件について、「国交省(鉄道局)に法解釈を求めている」ことを明らかにした。
要は、静岡県だけでは手に余るとして、リニア事業を推進する立場の国に、法解釈で何とかならないのか下駄を預けるかっこうとなったのだ。
ただし、国がどのような法解釈をしようが、条例に基づいて藤島残土置き場を認めるのかどうかを判断するのは県である。
となれば、国の見解を待つまでもなく、現在のままでは適用除外とするのは極めて難しいのだ。
残土置き場が決まらなければ、トンネル工事に入ることはできない。川勝氏の残した“難問”を解決できなければ、リニア開業がさらに遅れるのは必至だ。