「酒飲み」は認知症になりやすいのか…臨床脳研究の第一人者に聞いた「アルコールと認知症の複雑な関係」
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酒を飲む人は認知症になりやすいのか。臨床脳研究の第一人者で自然科学研究機構生理学研究所名誉教授の柿木隆介さんは「飲酒が直接的に認知症に結びつくわけではない。ただし、ムチャな飲酒はリスクを上げる」という――。 ※本稿は、葉石かおり著、浅部伸一監修『なぜ酔っ払うと酒がうまいのか』(日経BP)の一部を再編集したものです。
「ほどほど」の飲酒でも脳が萎縮する可能性
飲み過ぎて記憶がなくなった翌日、「あれ、昨日の飲み会でお金払ったっけ?」などと心配になる酒飲みは多い。コロナ禍が一段落し、久しぶりに会った方と深酒をした翌朝は、案の定そんな感じでスタートした。
リビングから玄関へ、点々と置き去りにしたアクセサリーや時計などを拾いながら、玄関を見てハッとした。昨日、履いていた靴がないのだ。
そして、ドアを開けてみると、そこにはなぜか脱いできれいにそろえられた靴が置いてあった。
久々のやらかしに自分でも大爆笑。しかし、その一方で、「靴を玄関の外に置き去りにしたことを覚えていないなんて、長年の飲酒で脳にダメージがあるのではないか」と不安になった。
臨床脳研究の第一人者で自然科学研究機構生理学研究所の名誉教授である柿木隆介氏によると、「ほどほど」の飲酒でも習慣的に続けると脳が萎縮する可能性があるという研究結果(※1)が発表された。もしそれが本当なら、やはり筆者の脳も飲酒の影響で何らかのダメージを受けているのかもしれない……。
※1 "Associations between alcohol consumption and gray and white matter volumes in the UK Biobank" Nat Commun. 2022 Mar 4;13(1):1175.
肉眼で見てもほとんどわからない程度の萎縮
この研究では、英国の中高年3万6678人を対象に、脳のMRI(核磁気共鳴画像法)の画像を解析した結果、少量の飲酒、つまり1日に純アルコール換算で8~16g程度でも、習慣的な飲酒により脳が萎縮し、悪影響がある可能性が示唆されている。ビール1缶(350mL)が純アルコール換算14g程度であり、日本では1日20g程度が健康を害さない「適量」の飲酒だと言われているから、酒飲みにとって8~16gというのは、本当に「ほんの少し」の量なのだ。
「この研究の論文によると、確かに少量の飲酒を継続した人でも脳が萎縮していますが、肉眼で見てもほとんど分からない程度で、解剖学的には非常にわずかな萎縮です。研究方法は正しいと思います。しかし、ソフトウエアで解析した結果、萎縮していることが明らかになっているものの、認知機能にどの程度影響があったのかについては言及されていません」(柿木氏)
「肉眼では分からない程度の萎縮」と聞いて、ほんの少しだけ心が軽くなる。だが、わずかでも萎縮していることには変わりない。それにより、認知症のリスクが上がるのではないかと心配してしまう。