「腎臓のために水分を控える」は逆効果…心筋梗塞や認知症を招く「慢性腎臓病」を防ぐためにやるべきこと
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「尿の色」や「泡立ち」でも腎臓の働きはわかる
日本で慢性腎臓病の患者さんは約2000万人。日本人の6人に1人が腎臓に不安を抱えながら生きている計算になります。にもかかわらず、いまだに「腎機能が落ちたら水分を制限すべき」という間違った通説を信じる人は少なくありません。
確かに、昔は腎機能が悪化すると、腎臓に負担をかけないよう水分を控えなければならないといわれていました。血液中の老廃物や塩分をこしとって、尿をつくる腎臓の負担を減らすために、水分を制限したほうがいいと考えられていたのです。
約60%が水分でできている人間の身体を維持するために、腎臓はなくてはならない臓器です。
体重60キログラムの人なら、そのうちの約36キログラムが水分(細胞外液+細胞内液)ですが、そのうち細胞外液はナトリウムやカリウムがとけ込んだ0.9%ほどの生理食塩水です。このナトリウムとカリウムのバランスは、腎臓の働きによって正確に保たれています。腎臓が尿として出すべき水分の量と塩分や老廃物などを日々調節しているおかげで、身体の内部環境が一定に維持されているのです。
人間の体内には120〜200グラムほどのカリウムが含まれ、血中濃度の基準値は男女とも約3.5〜5.0mEq/L。腎臓が正常に機能しているときは、余分なカリウムを尿と一緒に体外に排出して正常値を保ちます。そうした腎臓の働きが一目でわかるのが、尿の色。濃縮された老廃物が出た日は濃くなりますし、水分をたくさん摂取すると色が薄くなって量が増えます。
そうして体内を循環する水分の精緻なバランスが崩れるのが、腎臓が異常をきたしたとき。カリウム濃度が7.0mEq/Lほどに上がっただけで心臓が止まることもあります。
尿として老廃物や塩分を排出する以外にも腎臓は、赤血球を産生するエリスロポエチンというホルモンや、カルシウムの吸収を促す活性型ビタミンDをつくります。腎臓には貧血を防いだり、骨を丈夫にしたりする役割もあるのです。
また最近の研究によって、腎臓が寿命を左右することも明らかになりました。20年ほど前、ある医師が心筋梗塞や脳卒中の患者さんの共通点に着目しました。病院に運ばれてくる患者さんに、腎機能が低めだったり、尿にタンパク質が混じったりしていた、という共通点を見つけました。
心筋梗塞や脳卒中などの血管疾患と腎臓が、どのように関係しているのか。
腎臓には、心臓から全血液の約25%が流れ込んできます。その血液中の老廃物や塩分を濾過し、尿として身体から排出するのが、毛細血管の塊である糸球体です。「血管臓器」とも呼ばれるほど血管が集中する腎臓は、血管のコンディションの影響を多大に受ける臓器です。加えて、心臓と脳と腎臓は、血管で直接つながっています。
たとえば、腎臓の血管の壁が損傷すると尿にタンパク質が混じります。腎臓の血管が損傷しているということは、心臓や脳の血管も弱くなっている可能性が察知できます。また慢性的に腎機能が低下していると血圧が上がることもわかっています。高血圧は血管疾患を引き起こす恐れがあります。慢性腎臓病の患者さんは、心筋梗塞や脳卒中のリスクが、約3倍、認知症のリスクが約1.7〜2.6倍になるといわれます。
医師も勘違いしている血液検査の落とし穴
では、腎臓の不調を早期発見するにはどうすればいいのでしょうか。
腎臓病の大きな特徴が、自覚症状がないこと。残念ながら、自分で不調の兆候に気づく方法はありません。食欲の低下、顔や手足のむくみ……そうした症状が出てしまったら人工透析を受けなければならないほど腎臓の状態が悪化している可能性もあります。そうなる前に、できるだけ早く発見して生活習慣を改善したり、治療したりするしかありません。
健康診断で、腎臓の状態を確かめるポイントは2つ。一つが、尿検査でタンパク尿や血尿が出ているか否か。もう一つが、eGFR(推算糸球体濾過量)が正常値の60ml/分/1.73m2以上か。
もしも尿検査でタンパク質が出なかったとしても安心できません。尿検査で、腎機能の低下を検知できるのは50%程度。その点でも、腎機能の状態を知るには、eGFRの数値が重要になります。
eGFRは、血液検査で測定したクレアチニンの値や年齢などを計算式に当てはめて導き出すのですが、注意しなければならない点があります。
一般特定健診に入っている尿検査に対し、クレアチニン値の測定は必ずしも健診の必須項目に入っているとは限りません。クレアチニンやeGFRの値がわからなければ、かかりつけ医に相談して検査を受けてください。