無限大の価値を生む「無駄」という好奇心のかたまり【無駄づくり 藤原麻里菜×脳神経科学者 青砥瑞人】

無限大の価値を生む「無駄」という好奇心のかたまり【無駄づくり 藤原麻里菜×脳神経科学者 青砥瑞人】

あえて無駄なものを発明し、世の中に発信する株式会社無駄の藤原麻里菜さんと、人間の脳の可能性を探究する応用神経科学者の青砥瑞人先生の対談記事。「無駄」ということを脳の観点から分析することで、有用性だけでは測れない価値観や生き方を考えます。

「無駄」というのは「役に立たない」ことを意味する言葉。しかし、役に立たないことは、私たちが生きていくうえで本当に必要がないものなのでしょうか?

「無駄づくり」の活動を行う藤原麻里菜さんは、「オンライン飲み会緊急脱出マシーン」や「帰って4秒で就寝装置」など、日々の生活のなかで感じる感覚や疑問に対してさまざまなアイディアでモノづくりにつなげ、くすりと笑える動画コンテンツは国内外に多くのファンを集めています。

本記事では、以前KIDSNA STYLEの記事で「無駄に思える行動が子どものワクワクしたり夢中になる力を育てる」と語っていただいた応用神経科学者の青砥瑞人先生とともに、藤原さんの無駄づくりを分析します。

役に立つことばかりではなく、無駄のなかから生まれる価値とはどのようなことなのでしょうか。

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株式会社無駄代表取締役。発明家。コンテンツクリエイター。文筆家。「無駄づくり」として発明を行い、YouTubeで人気を得る。YouTube NextUp 2016入賞者。2019年度総務省「異能(Inno)vation」最終選考通過者。2021年、Forbesの「世界を変える30歳未満の30歳」にも選出される。著作に『無駄なことを続けるために―ほどほどに暮らせる稼ぎ方―』( (ヨシモトブックス) など
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応用神経科学者。DAncing Einstein代表。小中高は野球漬け。高校は中退。 しかし、脳の不思議さに誘引され米国大学UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の神経科学学部を飛び級卒業。空間デザイン、アート、健康、スポーツ、文化づくりと、神経科学の知見を応用し、垣根を超えた活動を展開している。また、AI技術も駆使し、NeuroEdTech/NeuroHRTechという新分野も開拓。同分野にて、いくつもの特許を保有する「ニューロベース発明家」の顔ももつ。 著書:『HAPPY STRESS ストレスがあなたの脳を進化させる』(SBクリエイティブ)など

子どもは無駄を楽しめない?

ーー青砥先生は藤原さんの無駄づくりを見たことがありますか?

青砥先生:実は今回の対談のお話をいただき初めて拝見したのですが、「無駄づくり......、なんだそれは!」とものすごく興味を持ちました。なぜなら、脳のはたらきから見ると「無駄」と「作る」という言葉は正反対の言葉だから。どうして無駄づくりが生まれたのでしょうか?

藤原さん:私は子どものときからモノづくりがとても好きでした。ただ、大人になるにつれて、キレイなものとかカッコいいもの、人の役に立つものを作らないといけないという風潮を感じて。私もカッコいいものを作りたかったけれど、技術力がなかったり性格が大雑把だったりして、納得いくように作れなかったんです。


札束で頬をなでられるマシーン
藤原さんの作品「札束で頬をなでられるマシーン」

自分の作るものが社会の基準に及ばないと勝手に挫折を感じてしまい、一時期はモノづくりからは遠ざかっていました。でも、ある時期に「無駄」という言葉をつけることで、失敗も成功になるんじゃないかなと気が付いたんです。

青砥先生:それはどういう意味でしょうか?

藤原さん:モノづくりとしては失敗だと感じるものでも、「無駄」をつけることで無駄づくりとしては成功だし、人の役に立つものができたとしたらそれはそれで「自分ってすごい」と嬉しく思えるんです。

無駄づくりだからといって細かく「これは無駄」「これは無駄じゃない」と定義付けることではなくて、「なんでも作っていいんだよ」という寛容な広い心を持った言葉が、「無駄」なんだと思っています。


青砥先生:なるほど。いまお話を聞きながら、無駄というのが寛容さを持った言葉なのであれば、人の器とも似ているなと感じました。

ーー人の器ですか?

青砥先生:そうです。子どもは大きな器を持って生まれてくるけれども、周りの大人によって「こうあるべき」という価値基準が作られていく過程で、器がどんどん小さくなってしまうように思います。

小さな器では受け入れられる容量が少ないから、脳は「無駄」のラベルを貼ってそれ以上入れないようになる。一方で、大人でも子どもでも価値基準にあまり縛られない、大きい器を持っている人もいます。そのような人は、無駄を感じることが少なく「こういう考えもあるよね」と感じ取ることができる。


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※写真はイメージ(iStock.com/yukihipo)

ーーつまり器が大きければ大きいほど、無駄とラベルを貼ることが少なく、許容できる範囲が広くなるということですね。

青砥先生:はい。そして生真面目であればあるほど、外からの圧力によって器が小さくなってしまう可能性が高いのかもしれません反対に他人の言うことをある程度聞き流したり、何を言われてもあまり気にしない人は外圧の影響が少ないので、器が大きいまま保てるように思います。

藤原さん:それでいうと子どもは思考が柔軟な感じがするけれど、意外に小学生や中学生くらいの子は「なんで無駄なものを作ってるの?」みたいに、既成概念にとらわれている子が多い印象はあります。後天的に広い器が育っている大人ほど「いいじゃん、面白いね」と言ってくれますね。

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※写真はイメージ(iStock.com/Milatas)

青砥先生:すごくわかります。今の子どもたちは、自由に遊んでいいと言われると、何をしたらいいのか自分で決められないことがすごく多いです。与えられることに慣れすぎているから。

おそらくそのような子は親や先生から「無駄なことばっかりやってないで、宿題しなさい」というような言葉を日々浴びているのではないでしょうか。そうすると、一見して無駄なことには価値や面白味を感じにくくなっているし、素直だからこそそれが正解だと思い込んでしまっているのです。

しかし脳の観点から言うと、器は自分で作っていくことができるから、自分自身で大きく広げていくことだってできる。また、周りの人の声掛けが変われば器の大きさも変わっていく。つまり、内側と外側のそれぞれのあり方によって、器を大きく広げていくことはできると思います。

そして、なんとなく想像がつくと思いますが、器の大きさを変えていく柔軟度は子どものほうが高く、可能性は無限大です。

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※写真はイメージ(iStock.com/Chinnapong)

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「有用性という言葉を捨てて、人間の精神を解放せよ」

ーーそもそも脳が「これは必要」「これは無駄」と判断するのはなぜですか?

青砥先生:脳はエネルギーの大食漢と言われているくらいエネルギーを消費する臓器です。太古の昔は、今と違い食べ物からエネルギーを確保することがむずかしかったことを考えると、脳を使いすぎることは大きな問題でした。一方で脳が無駄と感じることは、その行動を抑制させることにつながります。

つまり、なぜ人間が物事を無駄かどうか仕分けるかというと、エネルギーの消費を抑え、生存確率を高めるために必要だったから、と考えられますだから、無駄を感じる脳を根本から否定する必要はありません。

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※写真はイメージ(iStock.com/Jolygon)

ーー生きるために必要なことだったんですね。ですが、そもそも無駄というのは人によって基準が違いますよね?

青砥先生:そのとおりで、たとえばアートを見てアートだと感じるかどうかと同じです。子どものときはピカソの絵を見てなにがいいのかわからないと思ったけれど、人生でいろいろ経験するうちにアートだと感じるようになったり。「美しいものは美しい」のではなくて、「美しいものを美しいと感じられる人が、美しい脳を持っている」という言い方をすることもありますよね。

藤原さん:私は無駄の捉え方をポジティブに変換することで、世界が変わって見えると思っています。化学者エイブラハム・フレクスナーの「有用性という言葉を捨てて、人間の精神を解放せよ」という言葉が好きなのですが、役に立つことだけではなく、好奇心のままになにかをやることが結果として価値になりやすいということを言っているんです。

「役に立つか立たないか」という社会の価値基準でなにかをふるい落としたりすることは、すごくもったいないこと。たとえば虫が好きで虫の研究をしたいけれど「それってなんの役に立つの?」と言われたら答えられなくて、答えられないからやめてしまうということが起きやすい社会ですよね。説明はできなくても「好きだから」の一言だけで続けられたらいいのに。

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※写真はイメージ(iStock.com/martinwimmer)

青砥先生:人間はもっと好奇心を大切にすべきですよね。僕自身も高校時代までは野球だけしかしていなくて、そのあとフリーターでフラフラしているときに偶然「脳」という人生のテーマに出会ったんです。本当に「これだ!」と思って、脳を学ぶことが面白くて仕方がなくて、アメリカの大学に渡り寝る間も惜しんで勉強して、それが今につながっています。

だから好奇心の偉大性は身をもって感じたし、脳科学的に見ても好奇心のパワーたるや、ものすごい。好奇心によって何かをしているとき、つまり脳がドーパミンを放出している状態は、我々に高い集中力をもたらし、記憶定着や学習効率、いわゆる物事を脳のなかにトレースさせようとするはたらきが高まります。

それは自然なことで、我々自身が「やりたい」「知りたい」と求めている脳モードだから、高い集中力や学習効率がもたらされるのは当然。

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※写真はイメージ(iStock.com/kohei_hara)

反対に、自分自身が求めてもいないのに義務感だけでなにかをやっている状態は、脳が学習や集中モードをとっていないので、いくら強制的に向き合わせようと、集中できないし学習効果も高まらないのも自然の摂理。脳自体が欲していない情報にまで、脳のエネルギーを割いて学習させようとはなかなかしてくれないのです。

ーー好奇心を持っていないけどやらなきゃいけない状態は、脳にとってもストレスで、だからこそ集中力が続かなかったり学習効率が上がらないということですね。

青砥先生:そうです。あのアインシュタインでも「僕には特別な才能があるわけじゃない。ただ情熱的な好奇心を持っているだけさ。」と言ったくらいに好奇心は重要。それなのに、好奇心を止めてしまう人が多いのは、先ほど藤原さんがおっしゃったように有用性や価値、意味、目的が重視されすぎているから。

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※写真はイメージ(iStock.com/francescoch)

以前もモチベーションのボトムアップ型とトップダウン型の話をしましたが、有用性や目的など既成概念として価値を持つものからドライブされるモチベーションもある一方で、目的はないけれど「やりたいから」「好きだから」で動く脳の仕組みも我々は持っています。その脳機能を普段から育んでいない人は、どんなにゴールや目標を掲げようとワクワクしない。

自分にとって価値があり、他者にとっても価値があることはどんどんやろうという風潮にあるけれども、ここはレッドオーシャンなんですよね。逆に、自分は価値があると思ってるけれども他者は価値がないと思っていることは、いろいろな可能性を秘めているかもしれない。

さらに、自分も他人も価値を感じていない部分にも、好奇心さえ持てたら面白いものが見つかる可能性もあります。自分も最初は「無駄かな?」と思うくらいのところに、新しさが生まれる余白が眠っているかもしれませんね。

すぐに有用性や目的・価値を考えるより、好きならとりあえずやってみる。ワクワクしながらやっているうちに見えてくることがたくさんあるから。「無駄を作る」という行為をとおして、そんな世界の入口に立つことができるのかなと思います。

ーーありがとうございます。後編では、SNSでの評価や他人の目を気にしてしまうことが多い現代で、どうしたら肩肘を張らずに自分のものさしを持つ子どもが育つのか、自分軸を大切に生きる藤原さんと青砥先生に教えていただきます。

脳が育まれる“自分軸”を大切にする子育て【無駄づくり 藤原麻里菜×脳神経科学者 青砥瑞人】

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