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ゲームに夢中の子ども、これって熱中?中毒?【脳神経科学で解き明かす】
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応用神経科学者/DAncing Einstein代表
応用神経科学者/DAncing Einstein代表
応用神経科学者。DAncing Einstein代表。小中高は野球漬け。高校は中退。 しかし、脳の不思議さに誘引され米国大学UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の神経科学学部を飛び級卒業。空間デザイン、アート、健康、スポーツ、文化づくりと、神経科学の知見を応用し、垣根を超えた活動を展開している。また、AI技術も駆使し、NeuroEdTech/NeuroHRTechという新分野も開拓。 著書:『HAPPY STRESS ストレスがあなたの脳を進化させる』(SBクリエイティブ)、『4 Focus 脳が冴えわたる4つの集中』(KADOKAWA)、『BRAIN DRIVEN パフォーマンスが高まる脳の状態とは』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『最新の脳研究でわかった! 自律する子の育て方』(SBクリエイティブ)など
予測不能な時代を生き抜くために必要な「〇〇力」。これまでの回では、ワクワクする力、夢中になる力について、脳神経科学者の青砥瑞人先生に教えてもらった。では、夢中になる状態と、それが行き過ぎて中毒のような状態とでは何が違うのか。また、動画やテレビゲームに夢中になる子どもに対して、親は何に気を付けるべきか
第二回では、子どもが興味を持ったことに対してブレーキをかけずに突き進んだり、未知のことに対して怖がらずにワクワクする脳の仕組みを教えていただきました。
第三回のテーマは、夢中と中毒の違い。また、子どもが動画やテレビゲームなどの、親が望まないことに対して夢中になっているときのコミュニケーションについて。
今回も脳神経科学者の青砥瑞人先生にお話を聞きました。
刺激がないと楽しくない。夢中ではなく「中毒」になる子どもたち
ーーKIDSNA STYLE読者の悩みで、「子どもが何かに夢中になることはとても素晴らしいけれど、その対象が動画やテレビゲームだったらそれは止めるべきなのか。」という質問がありました。これについてはどうでしょうか。
:たしかにドーパミンが出てワクワクすることは、行き過ぎると中毒の症状につながります。動画やテレビゲームなども使い方によってはもちろん学習にもなるし、それ自体が悪いものだとは思いません。ただ、動画やテレビゲームは我々の注意をひくために作られているので、刺激が強すぎるという点ではやはり気を付けないといけません。
その強いシグナルばかりに慣れてしまい、本来ささやかなことの中にも見つけられるはずのワクワクを見つけにくくなっている子もいるでしょう。それは、中毒のひとつの症状とも言えるかもしれません。
ーーそう考えるとやはり行き過ぎは止めた方がいいですよね……。いくら「やめなさい」と言ってもやめられないような子どもに対して、効果的にやめさせる方法はありますか?
:僕は子育てのモットーとして娘に怒ることはほとんどないのですが、「つまんない」と言われたときだけは別だと思っています。なぜなら、おもちゃや遊ぶものなんかがなくても、たとえば紙一枚あれば、絵を描いたり折り紙にしたりなんでもできますよね。
だから「つまらないなんてことはないんだよ。例えばこうやって遊んでみるのはどう?」と、最初の気付きの一歩だけは与える。子どもってその少しの気付きで色々なことに興味を示して、そこからは自分でどんどん新しい遊び方を思いついたりしますよね。
そのようなサポートをせずに、「動画見るのをやめなさい」「ゲームばかりしてないで他のことをしなさい」などと言うのは効果が薄いのではないでしょうか。動画やテレビゲームをどうやってやめさせるかということではなく、どうしたらシグナルが弱いことでも楽しめるようになるか。そこに頭を悩ませることが重要だと思います。
子育てをして特に感じるのは、大人が思う「面白いこと」「楽しいこと」だけが、子どもの喜ぶことではないんですよね。今年、家族旅行で沖縄に行き、首里城を見に行ったんです。多くの大人は「お城を見に行くなんて、子どもは退屈だよなぁ……」と思い込んでしまうかもしれません。
でも実際、娘は首里城で石の階段を登ったり下りたりすることが楽しかったようで、夢中になって何十往復もするんです。炎天下の中で付き合うのは大人のほうが大変でした(笑)。「楽しくない」「面白くない」と大人が勝手に決めつけないで、まずは自分自身が楽しむ姿を見せること、子どもが見つけた楽しみを一緒に楽しむことも大事だなとあらためて感じましたね。
当たり前の幸せを感じられる脳に
ーー分かる気がします。うちの5歳の息子は普段は動画ばかり見たがりますが、些細なきっかけを与えるだけで素朴な遊びに夢中になることもあります。私自身が下の子のお世話で構ってあげられなくて、動画を見せてしまっていたという反省もあります……。
:子どもが騒がないように親がスマートフォンを与えちゃう、外食をしている時なんかもよく見かける光景ですよね。道具がなくても楽しめるゲームをその場で作ったり、食事の空間そのものを一緒に楽しむことだってできるんじゃないかなと、僕は思います。そこで子どもが大きい声を出しちゃって他の人から怒られることがあるかもしれないけど、そこは親が謝ったらいいことかなと思うので(笑)。
すごく優秀だと言われている私立小学校に通う子どもたちと接する機会がありますが、「自由に遊んでいいよ」と言うと「何したらいいんですか」と聞いてくることが多いんです。自由をうまく楽しめないんですよね。だけど訓練したら、ささやかなことでもドーパミンが出たり、楽しむことが得意な脳を作っていくこともできる。
時に強いシグナルを浴びることも悪くはないけれど、「今日は天気がよくて気持ちがいいね」「いつもと同じお茶だけど、今日も美味しいね」とすごく当たり前の文脈にも幸せを感じられるか。自分や子どもにとってどちらが幸せなのかを考えてみるとよいかもしれません。
刺激の強い魅惑的なものを与えて続けて子どもに幸せを感じてもらいたいのか、ささやかな中にも幸せを見出し、自分で幸せを引き出せる力を育みたいのか、そんな問いと言えるかもしれません。
取れなかった90点より、取れた10点に目を向ける
ーーこれまでのお話に何度か出てきましたが、人間はどうしてもネガティブな情報に意識を向けやすいんですね。
:その通りです。もちろん、できなかったことや失敗したことなどネガティブな情報から得る学びもたくさんあります。でも、ネガティブな情報には注意が向きやすい脳のシステムがあるからこそ、意識的に成功したことへ注意を向けることが重要です。
もしテストで10点しか取れなかったら、多くの人は90点分の足りていないところに注意を向けますよね。でも逆に、取れた10点はなんで取れたのか、ということに注意を向けることがすごく大事。「すごいね!10点取れたのはなんで?どうやってできたの?」と、成功した部分を掘り下げることによって、気付くことも多いからです。
ーーたしかに、子どもが10点のテストを持って帰ってきたら、取れた10点のほうに注意を向けられる自信が全くないです……。でも意識したら変えられると思うので、やってみようと思います。取れた10点のほうにも注目してコミュニケーションを取ってあげられたら、子どもの自己肯定感にも繋がるかもしれませんね。
:そうですね。そして、さらに注意が向きにくいのは、そこに至るまでのプロセスです。結果ばかりが評価される社会で、いかにプロセスに重きを置けるか。特に「進路に悩んでいる」といったようなモヤモヤや葛藤のプロセスはとても大事です。
葛藤している脳の状態は、色々な情報を張り巡らせて引き出して、脳の中で戦わせているような状態なんです。葛藤した上で自分で意思決定をし行動にうつすことは、たとえうまくいかなかったとしても、脳に記憶される情報が濃く、精密なものとなるのです。
悩んでいる子どもを見ると、親は答えを導いてあげたくなるかもしれない。しかし、あまりにすぐに手を差し伸べてしまうと、葛藤を通して得られるはずだった情報を持てなくなってしまいます。親としてできることは、葛藤から逃げ出したくなるときに、支えてあげること。答えを示すのではなく「大変だよね」と共感したり、「そばにいるからね」と寄り添うことでしょう。
ーー子どもが自分の脳を使って考え、葛藤することによって、得られるものが大きいということなんですね。青砥先生、ありがとうございました!
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青砥 瑞人
応用神経科学者。DAncing Einstein代表。小中高は野球漬け。高校は中退。
しかし、脳の不思議さに誘引され米国大学UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の神経科学学部を飛び級卒業。空間デザイン、アート、健康、スポーツ、文化づくりと、神経科学の知見を応用し、垣根を超えた活動を展開している。また、AI技術も駆使し、NeuroEdTech/NeuroHRTechという新分野も開拓。
著書:『HAPPY STRESS ストレスがあなたの脳を進化させる』(SBクリエイティブ)、『4 Focus 脳が冴えわたる4つの集中』(KADOKAWA)、『BRAIN DRIVEN パフォーマンスが高まる脳の状態とは』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『最新の脳研究でわかった! 自律する子の育て方』(SBクリエイティブ)など