「夢中」が怖い?自分でブレーキをかけないためには【脳神経科学で解き明かす】

「夢中」が怖い?自分でブレーキをかけないためには【脳神経科学で解き明かす】

予測不能な時代を生き抜くために必要な「〇〇力」。前回はどんな子どももワクワクする力を持っていること、ゴールや目的に捉われずに自由に行動することが好奇心を引き出すことを、脳神経科学者の青砥瑞人先生に教えてもらった。では、子どもがワクワクに対し夢中になって突き進むために、親はどのように接するのがよいのか

青砥 瑞人
第一回では、ゴールや目的に捉われずに、子どもが自由に無作為的な行動をすることによって、「あ!」と興味が芽生える瞬間に出会いやすくなるというお話を聞きました。

今回のテーマは、子どもが「芽生えた興味」に対してワクワクを継続したり夢中になるためには、親としてどのようなことができるのか。

引き続き、脳神経科学者の青砥瑞人先生に教えていただきました。

「自分はやったらできる、変われる」そう思えることがアクセルに

ーーKIDSNA STYLE読者からのお悩みです。「8歳の娘はなにかに夢中になる前に自分でブレーキをかけてしまいます。ピアノが好きな様子だから「習ってみる?」と言うと、「それはやりたくない」と答えるのです。その心理には「自分より前から習っている子のほうが上手だから、後から始めるのは嫌だ」「先生が怖いんじゃないか不安」などのネガティブな感情があるようです」。

青砥先生:ああ、自分でブレーキをかけちゃう子って多いのかもしれません。今の子どもたちって、小さい頃から色々な場面で他人と比べられたり、評価をされたりしていますよね。その評価って、実は親や先生が決めた狭い世界での尺度でしかないのですが。

でも、そのような環境で育つと、その評価が自分の価値だと思い込んでしまいます。その結果として、新しいことに挑戦するのをためらってしまったり、夢中になる前に自分でブレーキをかけてしまうような行動が起こるのかもしれません。
※写真はイメージ(iStock.com/Nattakorn Maneerat)
※写真はイメージ(iStock.com/Nattakorn Maneerat)
親や先生はもちろん褒めることもあるでしょうけど、人間はどうしてもできていないことのほうに注意が向いてしまうものなので。そしてネガティブな指摘ばかりをされていると「私はできない、ダメだ」という情報がどんどん自分の中に溜まっていってしまいます。よく日本人は自己肯定感が低いと言われますが、ネガティブな評価情報ばかり浴びていたら仕方ないですよね。

そうではなくて、その子自身の成長にフォーカスすること。たとえばピアノを弾くときにミスをしちゃったかもしれないけれど、前よりは長く弾けるようになったかもしれないし、きれいに音を出せるようになったかもしれない。外部との比較ではなく、過去の本人との比較で、どれだけ成長できているかに注意を向けましょう。

そして、「私、やったらできるようになるじゃん!」という気づきをどれだけ得られるか、ということがとても大切です。このように自分の成長に自分で気付くことができる人は「Growthマインドセット」があると言われています。

しかし、「できる人は生まれつき才能があるだけ。自分はそうはなれない、変われない」と思う「Fixedマインドセット」を持っている子どもが多く、それだけ周りからネガティブな声かけやラベルを張られてしまっている、というのが現状です。
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人の脳は自他ともに粗探しが得意ですから、少し意識をしないとすぐに他者と比べてネガティブな評価をしてしまいやすい。今なんてネット社会で、スーパーキッズの情報もいっぱい見かけて、親も子も比較し嘆きやすい。他者と比較し、ネガティブに感じやすい脳だけど、それをしていたらキリがないし、成長を鈍化させる可能性もあります。

そのことを理解し自己の成長に注目し、自分の可能性に気づけるようにしていくことが、まずは重要に思います。もちろん競争や評価が悪いというわけではなく、しかしそれは自分の可能性に気づけた子が向き合っていくことだと感じます。

できたときに、できなかったときの自分を動画で見てみよう

ーー残念なことですが、日本ではFixedマインドセットの子どもが多いのは想像できます。Growthマインドセットを持てるようになるために、親としてどのようなことができるのでしょうか?

青砥先生:できなかったときと、できるようになったときを結び付けて記憶することが大切です。僕の3歳の娘の例ですが、パズルがうまくできなくてイライラして「ギャー!」と泣いている様子を動画におさめておいたんです。そして、できるようになった時にその動画を一緒に見て、過去の「ギャー!」となっている自分をケラケラ笑うんです(笑)。

多くの人は「うまくできなかった」もしくは「うまくできるようになった」というどちらか片方だけの時間軸の中で、それぞれが単体の記憶として残ります。そうではなく、両方を同時に記憶することで、「できなかったことが、できるようになるんだ」と結び付けた学習をすることができるのです。

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このようにふたつの事柄を同時に思い浮かべて紐づけることをヘッブの法則といって、次にできないことがあらわれても「私ならきっとできるようになる」と考えられるようになります。そして最終的なゴールは、自分自身で「あ、わたし成長できてる」と感じることができること。でも、すぐにその域に達することはできないので、まずは大人が一緒に向き合い、成長できていることに気付けるようにサポートするとよいと思います。

ーーなるほど。できるようになったことに意識を向けるだけではなく、できなかったときの記憶とセットで記憶する、というのは是非やってみたいと思います。青砥先生も子育て中とのことで、お子さんは新しいことにワクワクしていますか?

青砥先生:そうですね!3歳の娘はフラダンスを習っていて、先日初めてお客さんの前で披露する機会があったんです。しかし、いざ舞台に立って曲が始まると極度の緊張から微動だにしなくて、ただただ観客席にいる僕のことをじーっと見ているんです。緊張状態の中で安心材料である僕を見ることで、なんとか適応していたんですね。

でも、すごくありがたかったのは、舞台を降りた娘に対して先生や周りの大人たちが「すごい!ずっと立っていられたね!」と声をかけてくれて。そして、午後の部もあったのですが「また出てみる?踊りたいように踊ってもいいし、出たくなかったら出なくてもいいよ」と言ってくれたので、娘も「もう一回やってみる」と自分で決意して。

そしたらなんと、午後の部では180度変わって、楽しさ全開で踊っちゃったんです。終わってからは満面の笑顔で「楽しかったー!」と降りてきて。最初に微動だにしなかったときに「なんでやらなかったの」「だめじゃない」などと言っていたら、おそらく午後の部でも踊れなかっただろうし、舞台に立つことだってできなかったかもしれない。
※写真はイメージ(iStock.com/Portra)
※写真はイメージ(iStock.com/Portra)
だけど、この経験を通して娘は「できるようになる」と学習をしました。できないことじゃなくて、できたことに注意を向けることで、子どもの新しい挑戦を促すことを目の当たりにしましたね。あらさがしをすることは簡単だけどそうではなくて、成長できていることを一緒に共有しながら次につなげていくことが、ワクワク・夢中にも繋がっていくんだろうなと思いました。

未知のことは怖い?ワクワクする?

ーーありがとうございます。その他にも、子どもが好奇心に対してブレーキをかけちゃう要因はありますか?

青砥先生:ドーパミン性の情動は「Want」と「Seek」という2つのパターンに分類することができます。Wantは、好きなお菓子を食べたいときなど、脳が既に「快」だと分かっているからしたくなる情動。Seekは好奇心を持って、未だ体験したことがないことをしてみたいという情動。
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実は私たちは、SeekよりもWantで動いていることがとても多いのです。なぜかというと、太古の狩猟時代から、未知なものは自分にとってリスクである可能性があったため、脳が警戒的な反応をしてしまうから。だから、本能的にSeekの情動が使われにくいのも当然といえば当然のこと。

けれど、後天的にもSeekを使わないような子育てをしてしまっているとしたら問題です。たとえば子どもが「知らない」「分からない」と言ったときに、「なんでそんなことも知らないの」などという言葉を浴びせてしまっているかもしれない。子どもはそういう経験をしてしまうと、新しいことに向き合うときにブレーキを踏んでしまう可能性が高くなりますよね。

本来は無知の知という言葉があるように、「知らないことを分かっている状態」は学びのきっかけになるはずなのに。「知らないことを知っていることは素晴らしい」と声をかけることで、Seekの情動がもっと活用され、子どもたちが未知なものに対してワクワクしやすい環境になるといいなと思います。

チョコレートを食べずに見るだけでモチベーションが上がる?

ーーワクワクして何か行動を始めても、それを持続することって難しい気がしています。子どもを見ているとそうだし、自分自身を思い返しても、モチベーションを継続することってなかなかできないなあと思います。

青砥先生:我々のモチベーションはふたつの神経伝達物質が寄与していて、ひとつがドーパミン型で、もうひとつがノルアドレナリン型と言われています。

ドーパミンはこれまでにも何度も出てきていますが、ワクワクしたり脳がそれをやりたいと望んでいるときに出るものです。一方でノルアドレナリンは「やらなきゃいけない」「やらされている」ようなときに出る物質。最もパフォーマンスが高まるのは、ドーパミンとノルアドレナリンの両方が出ている状態です。
※写真はイメージ(iStock.com/kohei_hara)
※写真はイメージ(iStock.com/kohei_hara)
ただ、日常生活を思い返してみても、使命感や義務感で仕方なくやっている行動、すなわちノルアドレリンによってモチベートされている行動が多いとは思いませんか?ノルアドレナリン型のモチベーションは即効性がある一方で、ストレスホルモンを出す特徴があります。つまりモチベーションが継続できない大きな要因には、仕方なくやっている、やらされているような感覚でやっていることがあるのです。

ーー例えば自分が好きで始めた習い事でもいつしかそれが義務感に変わってしまうと、脳がストレス反応を出して、その結果モチベーションが続かないということなんですね……。

青砥先生:その通りです。かつ、ノルアドレナリンは注意を分散する特徴もあるんですね。僕も経験があるのですが、自分がやりたくて本を出版することになったのに、締め切りが近づいてくると義務感で動いている側面が大きくなってしまいます。そういう時、普段なら気にならない家族の生活音がやたらと気になってしまうことがありました。

これがまさに、ノルアドレナリンによって注意が分散している証拠。こういう時は、あらためてドーパミンの力を借りることが効果的です。ドーパミンはノルアドレナリンと反対で、分散した注意を一点に集中させる特徴があるからです。

モチベーションを取り戻すためには、脳がワクワクしてドーパミンが出ている状態を再度作ればいいのです。たとえばピアノの習い事であれば、やりたかった当初の気持ちを思い出したり、憧れの人の動画を見るなどすると、ドーパミンが働き雑念がなくなることもあるでしょう。ただ、そうは言っても難しいと感じるときには、以下の方法がおすすめです。

前回のお話でも説明したことですが、VTAがドーパミンを出す働きは、対象が何であっても同じなんです。だから、たとえばピアノの練習をしているときに、好きなチョコレートを見える場所に置いておく。こうすることで、チョコレートによってドーパミンが出され、そのモチベーションはピアノに向けることができるのです。
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人間のドーパミンは「求めているとき」に最も作られます。チョコレートを食べてしまうとドーパミンは作られなくなり減っていきますので、我慢して見える位置に置いておくことがポイントです。もちろんチョコレートがあまりに気になってそこばかり見てしまうと当然だめなので、注意の対象をコントロールすることに少し訓練は必要ですが。是非やってみてください。

ーーありがとうございます!子どもにはもちろん、私もやってみたいと思いました。

第三回では、夢中になることと中毒のような状態ではなにが違うのか。動画やテレビゲームばかりに夢中になる子どもに対して、親はどのように対応するのがよいのかを、教えていただきます。

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青砥 瑞人

青砥 瑞人

応用神経科学者。DAncing Einstein代表。小中高は野球漬け。高校は中退。

しかし、脳の不思議さに誘引され米国大学UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の神経科学学部を飛び級卒業。空間デザイン、アート、健康、スポーツ、文化づくりと、神経科学の知見を応用し、垣根を超えた活動を展開している。また、AI技術も駆使し、NeuroEdTech/NeuroHRTechという新分野も開拓。

著書:『HAPPY STRESS ストレスがあなたの脳を進化させる』(SBクリエイティブ)、『4 Focus 脳が冴えわたる4つの集中』(KADOKAWA)、『BRAIN DRIVEN パフォーマンスが高まる脳の状態とは』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『最新の脳研究でわかった! 自律する子の育て方』(SBクリエイティブ)など

2023年01月25日

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