無駄な行動をすればするほどワクワクの芽が育つ?【脳神経科学で解き明かす】

無駄な行動をすればするほどワクワクの芽が育つ?【脳神経科学で解き明かす】

予測不能な時代を生き抜くためには、これまでの常識とは異なる「〇〇力」が重要になってくるだろう。そんな「〇〇力」を子どもが身につけるためには、親はなにをしてあげられるだろうか。今回は、ワクワクして新しいことに取り組んだり、好きなことに夢中になる力に注目し、脳神経科学者の青砥瑞人先生に話を聞いた。

青砥 瑞人
「うちの子は、友だちと遊んだりゲームをすることは好きだけど、何かにワクワクしたり夢中になったりすることが少ないのでは」「〇〇博士などと呼ばれるほど、好きなことを極める子ってすごいなと思う」そんなことを感じたことがある親もいるでしょう。

今回は、「ワクワク」「夢中」をテーマに、脳神経科学者の青砥瑞人先生にインタビューをしました。
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子どもは誰でもワクワクする力を持っているけれど・・・

ーー「楽しい」「ワクワクする」ことをどんどん見つけて挑戦できる子と、なんだかあまり好奇心を示さず、なんとなくテレビばっかり見ている子。脳の仕組みではどのような違いがあり、ワクワクや好奇心を引き出すために親はどのようなことができるのでしょうか?

青砥先生:分かりやすくワクワクの反応を示す子もいれば、あまり表情や態度に出ない子もいますよね。ワクワクしている時の脳内を見てみると「VTA」と呼ばれる部分が働いていて、ここがドーパミンという神経伝達物質を作ります。

「ご飯を食べたい」「ゲームがやりたい」などの欲求も、勉強やスポーツに対して「面白そう」「やってみたい」という欲求も、VTAが働きドーパミンを作るという点では同じ構造なんです。

どんな子でも「ご飯が食べたい」「ゲームがやりたい」などの欲求はありますよね。であれば、それはしっかりとドーパミンを作ることができる脳を持っているということ。もし分かりやすい反応がなかったとしても、ワクワクする力は持っているのです。
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ーーたしかに表情や態度に出やすい子どもと、そうではない子どもがいますよね。では、「うちの子はワクワクしていることが少ないように見えるけど、好奇心がないのかな」という心配は不要なのですか?

青砥先生:もちろん気を付けたいことはあって、脳は日々使っていることが重要です。脳の神経回路は使っていなくても持っているだけでエネルギーを消費します。そのためエネルギーの無駄遣いをしないように、使っていない神経回路はどんどんと無くなっていくし、逆に使っている神経回路はどんどん育まれていくのです。

だから、脳の欠損などがない限りどんな子もワクワクする力を持っているけれど、普段からその神経回路を使っていなかったら、ワクワクしづらい子になってしまう。筋トレと同じように、日々ワクワクを体験する中で、ワクワクする力が育まれると考えられます。
maruco
※写真はイメージ(iStock.com/maruco)

意味のないような行動から生まれる「あ!」が脳を鍛える

ーーなるほど。いつもワクワクしている子は、もっとワクワクするのが得意になるということですね!では、ワクワクする力を引き出すような具体的な方法はあるのでしょうか?

青砥先生:はい。何かにワクワクしたりしてドーパミンが出ると、モチベーションが高まり行動を引き起こす、ということは聞いたことがあるかもしれません。最新の研究では、ドーパミンが作られるVTAという脳の部位に働きかける「SuM」というネットワークが大切だということが分かっています。

我々人間は、常にどんなときでもワクワクしたり、何事に対してもモチベーションがあって行動したりしているわけではないですよね。ただなんとなく「あっちに行ってみよう」と動いてみたり、先生の話を聞いているときに手元でなにかをいじっていたり、特に意味のないことをしていることもありますね。このような「なにか意味のないことをしていたくなる脳のシステム」に寄与するひとつの仕組みとしてSuMがあります。

なにか危険やリスクがあるときには、このような意味のないような行動はしないような脳の仕組みが備わっています。一方で、心理的に安全だったり危機感が少ないような状態においては、SuMの働きによって無作為的な行動が行われやすくなる。

面白いのは、なにか目的があるわけでもなく、ただなんとなく無作為的な行動をしているときに、「あ!」となにかを感じたり興味がわくような瞬間が芽生えやすいということ。そして、その「あ!」と感じた瞬間にVTAからドーパミンが出るのです。
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だけど、親や先生によって「あそこに行くよ」「こうしましょう」と行動が決められていると、子ども自身の無作為的な行動が起こりにくいですよね。その結果、本人が「あ!」となる瞬間に出会うことが少なくなってしまう。子どもたちの「あ!」と興味が現れる瞬間を大切にしていくためには、自由に無作為的な行動をさせることを意識するとよいです。

そして無作為探索中は、色々なところに注意がホッピングして、大人目線では「大丈夫かしら」となりやすいのですが、大丈夫です。色々なことに注意を向け、取り込む世界の表面積を広げるから、そんな中から、「あ!」が芽生える瞬間を得られる可能性を高めていると言えるのです。

好奇心は誰かに与えられるものではなく、本人ひとりひとりが内側から生み出すもの。大人はそれをサポートし、邪魔をしないことがとても大切だと思います。

目的志向はダメなこと?

ーー意味のないように感じられる行動の中からワクワクの芽が生まれるということですね!

青砥先生:そうですね。ただ今の社会では、ゴールや目的の大切さがうたわれることが多く、意味のないように思える行動はすぐにネガティブに捉えられることが多いんですよね……。

たとえばお散歩をしているときに、子どもが道端に落ちている葉っぱや石ころに「あ!」と興味を持ったときに「そんなもの拾って何になるの?」と言ってしまったり、子どもが本屋さんで「あ!これ読んでみたい」と言ったときに「それ読んで何の意味があるの?」などという反応をしてしまうことってありませんか?
※写真はイメージ(iStock.com/Satoshi-K)
※写真はイメージ(iStock.com/Satoshi-K)
たしかに葉っぱや石ころを集めたことが将来仕事に繋がるなんてことはめったにないかもしれない。けれど、脳の観点でいうと、「あ!」とワクワクすることによってVTAを育んでいることはたしかです。繰り返しになりますが、脳はよく使うことによって育まれますから。

ーーなるほど。葉っぱや石ころ自体に意味があるかどうかは分からないけれど、そこに興味を持った時の脳の働きそのものに意味があるということですね。

青砥先生:そうです。モチベーションには二種類あって、前頭葉でゴールや目的を設定することによって生まれるトップダウン型がひとつ。もうひとつがVTAのワクワクが起点となるボトムアップ型。

ゴールや目的から始まるトップダウン型も大事なモチベーションではあるけれど、ボトムアップ型のVTAが普段から活用され育まれていないと、全然ワクワクしていない。なぜなら、トップダウン型も、いくつかの脳を経由して、最終的にはVTAを活性化してはじめてモチベーションになるからです。
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トップダウン型では前頭葉からVTAに届くまでに脳の色々な部位を経由するために、だんだんとシグナルが弱くなってしまう可能性がある。どんなに立派なゴールや目的を設定したとしても、VTAが普段から育まれていなければワクワクしないゴールなんですね。ワクワクしないゴールに向かうのってけっこうしんどいですよね。

ですが、大人でもゴールや目標は設定したものの表面だけで、心からワクワクできていないことって結構あると思うんですよね。それは、普段からボトムアップ型のモチベーションを大切していないことが一因といえるでしょう。

公園で楽しそうに遊んでる子に「目的は?」って聞く人ってあまりいないですよね(笑)。ただ楽しいから遊んでいるに決まってる。今この瞬間に自分がやりたいと思ったことに臨んでいくことで、VTAを使い、育んでいる。この積み重ねで、「これだ!」ということが見つかった時にワクワクのドライブがかかり、成長しやすい脳になっていくのです。

目的が悪いわけではないんです。目的や目標をもつことも重要なモチベーションの一部です。それをうまく活用するためには、ボトムアップ型の好奇心などを高めておかないと、せっかく目的や目標をもっても、うまく機能しないということです。

何歳からでも遅いことはない。ハッピーな脳を育もう

青砥先生:VTAからドーパミンが出ることにはさらにメリットがあって、記憶の中枢として知られる海馬や扁桃体にドーパミンが直接働きかけている状態なのです。すなわち、ワクワクしているときは、脳が効率よく情報を自分の中に取り込もうとしているんです。

逆にワクワクしないことを学ぼうとしても、脳はその情報を取り込む状態にはありません。だから、もし次から次に「あ!」と興味が移ったとしても、その一瞬一瞬に好奇心が向いたテーマは効率よく自分の中に取り込まれていくし、入ってくる情報がより色彩豊かになると思うんですよね。

私たちは注意を向けた情報が、五感を通じて脳の中に入ってきて、それが記憶となり自分の一部として脳に書き込まれていく。世の中にはネガティブな情報が多いけれど、はたして自分の中にどんな情報を取り込んでいきたいですか。

※写真はイメージ(iStock.com/Choreograph)
※写真はイメージ(iStock.com/Choreograph)
ポジティブな情報を取り込んでポジティブな脳を育みたいのか、ネガティブなことを取り込んでネガティブな脳になるのがよいのか。これは完全に科学されているわけではないけど、ハッピーな脳を持っている人は、周りの人もハッピーにさせるような気がします。

意識をすることで何歳からだって脳は変わることができます。子どもと一緒に大人もハッピーな脳を育んでいけたらいいんじゃないかなと思っています。

ーーありがとうございました!脳は日々使うことがとにかく大事だということがよく分かりました。第二回では、興味を持ったことに対して夢中になったり、ブレーキをかけずに突き進む力についてお話いただきます。
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青砥 瑞人

青砥 瑞人

応用神経科学者。DAncing Einstein代表。小中高は野球漬け。高校は中退。

しかし、脳の不思議さに誘引され米国大学UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の神経科学学部を飛び級卒業。空間デザイン、アート、健康、スポーツ、文化づくりと、神経科学の知見を応用し、垣根を超えた活動を展開している。また、AI技術も駆使し、NeuroEdTech/NeuroHRTechという新分野も開拓。

著書:『HAPPY STRESS ストレスがあなたの脳を進化させる』(SBクリエイティブ)、『4 Focus 脳が冴えわたる4つの集中』(KADOKAWA)、『BRAIN DRIVEN パフォーマンスが高まる脳の状態とは』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『最新の脳研究でわかった! 自律する子の育て方』(SBクリエイティブ)など

2023年01月13日

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