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【岩本涼/後編】これからスタンダードになる世代の育ち方
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親がこれまで生きてきた社会と、今子どもの生きている社会には大きな違いがある。世代のギャップを超え、親自身の考え方をアップデートするため、これからの時代を切り拓く若者たち「Z世代」の価値観に迫る本連載。第3回は、株式会社TeaRoom代表取締役である茶道家の岩本涼氏に話を聞いた。
9歳から始めたお茶の魅力にとりつかれ、大学在学中に起業。
静岡県の日本茶工場を受け継ぎ、茶畑、工場の運営、生産から加工、販売までを一貫して内製化しお茶業界にスタートアップとして参入したのが、茶道歴14年の茶道家で株式会社TeaRoom代表取締役の岩本涼さん(以下、岩本さん)。
前編では、1995/1996年以降に生まれたZ世代として、SNSなどのソーシャルメディアが蔓延する比較社会の中で、自分と向き合う体験であるお茶の思想や価値が今の社会に必要だと語ってくれた。
後編では、伝統文化であるお茶の世界に感じた疑問点や、世代間のジェネレーションギャップについて思うことなどを聞いていく。
お茶の世界に疑問を感じてビジネスにつなげた
――そもそも岩本さんがお茶をビジネスにしようと思ったのはなぜだったのですか?
9歳の頃に東山紀之さんという俳優の方が和服を着ている姿をテレビで拝見して、茶人に興味を持ちました。
「お茶が好き」というスタートではなく、「着物ってカッコいい」という茶人の姿の凛々しさに憧れたところから始まりました。そうして、裏千家という流派に入門しました。
茶道でよくいわれる「茶の湯」は、喫茶という行為を様式化したもの。
私は、イギリスのアフタヌーンティーや北欧のフィーカ、トルコのトルココーヒーなども茶の湯だといえると考えています。日本の茶の湯といえば、抹茶を点てる形式が一番多いですよね。
さらに「茶道」と言われるのはそれを体系化したもの。協会によって組織化することで、思想を統一します。茶道は「道」とつくだけあって、進む先が存在します。進む先のトップに家元があり、それに対して門下生という形で人がついてくるといったイメージです。
私は9歳から裏千家に入門したのですが、続けていく中で、茶道の世界に違和感を覚えるようになったんです。
――どんな違和感だったのでしょうか。
最初は、「お茶の先生がお茶のことを知らない」ということでした。
茶の湯の文化を教える茶道の先生は「思想を伝えること」に重きを置いていることが多いため、「お茶」はその思想を伝える大切な手段でありながら、実際はこの手段に対して着目していない場合が多かったのです。
先生たちの中でお茶については「宇治産である」というところで知識が止まっていて、それがどういう品種で、どういう生産背景があって、なぜ宇治産は甘みが強いのかなどということは知らない人が多い。
だから、「茶道の思想」と「お茶」とが全然繋がっておらず、子どもながらにその事実を理解した時に悲しいなと思いました。
せっかく日本人の日常にこれだけお茶が浸透しているのだから、もっと喫茶という体験の中に茶の湯の思想を感じられる瞬間があったなら、世の中の人々がそこから思想を感じることができるのではないかと感じました。
だからこそ、少し難しい話にはなりますが、このような現状を課題と捉え、「日本茶という身近にあふれる有形材に茶の湯の文化性の高い思想を付与すること」に注力をしていくことにしたのです。
これをもっともっと社会に浸透させることが出来れば、文化の継承にも産業の拡大にもつながるだろうと思いました。
私たち世代が未来の「当たり前」をつくっている
――岩本さんがお茶業界に疑問を持ち、行動されたように、Z世代は社会に問題意識を持つ世代というイメージがあります。
それは私たちが社会に課題感を感じる世代かどうかという話ではなく、社会の大きな潮流があった中で私たちが生まれ、さまざまな選択を迫られる立場で育ったというだけだと思っています。
常に「課題がある」と言われて育てば、その課題を認知して行動に動く人が多くなるのではないでしょうか。
たとえば、私より5歳くらい年上の世代が東日本大震災によって意識や行動が変わったのと同じように、私たちはストローがプラスチックなのか紙なのかに対して「問題である」という認識せざるを得ない時代に生まれています。
よく若者は環境問題に関心があって偉いね、と言われますが、私たちはそうなるように育てられただけだと思うのです。
また、リモートワークについても思うことがあります。
オンラインでのコミュニケーションは、私の中だとコロナ前から当たり前のものでした。それがこの状況下になって、ようやく社会の当たり前になった。
つまり、さまざまな課題は常に社会にあって、誰がそれを課題として認識するかという話だけなんですね。
コロナ禍でのリモートワークについては、私たちの中では既にぬり変えられて当たり前だった価値観や行動が、やっと社会に浸透してきたなと思うのです。
これまでの文化にとらわれない私たちの世代は、僕らは僕らでこういう生活をしますよ、ということを明示しているだけで、上の世代を否定もしていなければ肯定もしていない。
世界の人口の3分の1がZ世代だといわれる中で、どんどん時間が経っていけば上の世代が抜けていき、Z世代がスタンダードになっていくのは明らかです。
だから、私たちとしては何を押し付けるでもなく、時間が経てば勝手にスタンダードになっていく自分たちの価値観を発信しているだけなのです。
私たち世代は「僕たちが未来のスタンダードになるだろう」という確固たる自信がある。ある意味、それは少し怖い世界かもしれませんね。
自立とは依存先を増やすこと
――岩本さんの幼少期、どんな風に育ちましたか?
私の親の教育方針は、基本放置だったんです。
「勉強は興味を持った時点からやればできるようになるから、今はやらなくていい。その代わり、今は興味を持ったものや何かやりたいと思った衝動に対して、絶対に行動しなさい」と教わりました。
だから、基本放置ではあるけれど「お茶をやりたい」といったらすぐやらせてくれたし、アメフトやサッカーも同じで、何をやりたいと言ってもまずは全部やらせてくれました。
そしてやってみたあとに継続するのか、しないのかは常に自分で考えなさいと。継続したいならば、そのために自分で対価を払いなさいというスタイルだったんです。
――対価というとどのようなものですか?
お茶を続けたいんだったら、月謝は自分で払えと。それが対価です。
対価があると、自分がそれを本当にやりたいのか、やりたくないのかということが明確になる。
「自分の財を使ってでもやりたいことなのか、惰性でやっているだけなのかはちゃんと判断しなさい」と言われていたんです。
それで自分がやりたいことはかなり明確にわかるようになって、やりたいことに対してはまず行動するし、やりたくなければそのまま選択肢から消すというのを繰り返すことが、人生の基本スタイルになりました。
自立とは依存先を増やすことだ、とよく言いますが、まさにそのような環境で育ちました。
小学校の前半はあまり学校に行かず、中学校では高校に行くための勉強しかしていないので、学校には友だちが全然いない状態だったんです。
結局は、学校も自分が多数持っている依存先の中のひとつでしかなかったので、仮になくなったとしても全然興味がなかったんですよね。
私は親から「非言語のコミュニケーションをできるようになりなさい」と言われて、3歳からバイオリンをやっていましたが、人生で親に決められたのはこれだけ。
5歳のときには極真空手を自分からやりたいと思って習い始めて、ものすごくハマった結果、9歳で黒帯をとったんです。
9歳にして大人も含めた150人くらいの後輩がいて、当時の写真を見ると、大人たちを従えた小さい子が一番前で黒帯絞めて写っている。不思議な感じですよね。
そして同じ頃に始めたお茶にも、猛烈にハマりました。
――小学生ながらに熱中できるものや人とのつながりが複数方向にあったのですね。
そうですね。学校がなくなったとしても僕は150人の代表者としてちゃんと空手の稽古をつけられているし、バイオリンはバイオリンでずっと仲がいい同世代の友達がいる。
たくさんのコミュニティに居場所があったから、「何に挑戦したとしても失敗したときの逃げ場はある」という意識がずっとあるんですよ。
だから、挑戦することや、目標を持って何かをするということを、怖がらずにごく自然にできる。
起業するときもリスクなんて全く考えなかったけれど、それは恐らく、私には逃げ場がずっといろいろな所にあったからなんですよね。そのどれを選んでも多分僕は生きていけるなと思っていました。
だから不安定な社会の中でも、茶道が自分や誰かと向き合う体験であるからこそ、自分を律して、目標を立てて人生を進めていくことを恐れないでいられるのだと思います。
不安定だからこそ安心を求める世代
――SNSとはどのように付き合っていますか。
SNSは底なし沼のように、スマホを開いただけで世の中のすべての人と相対評価になってしまいます。
SNSを開いた瞬間に一対何百、一対何千で比較されることになり得るので、それがしんどいと思って距離を置くこともあります。
それ以外でも、何も考えずに過ごせばスマホを見ながら無思考のまま時間が過ぎていくようなサービスが山ほどありますよね。
それから、人とのコミュニケーションという点においてのZ世代の特徴だと思うのは、結婚が早い人が多いということ。それも、事実婚より「契約婚」を望んでいるように感じています。
変化の激しく、正解のない、何もかもが不安定な時代に生きることが当たり前の世代です。
これから何がどう変わるかもわからない中で、みんな常にビビりながら生きているので、契約という形で婚姻関係を結んで、法律でゆるく縛ることで「この人だけは信用していいんだ」という確証が欲しいのだろう、と。
この人だけは何があっても味方でいてくれるという安心感を求めている世代なんだろうと思います。
<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部