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【松田悠介】グローバル人材を育む「オンライン教育の本質」とは
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子どもたちが刻一刻と変化していく世界を生き抜き、そしてリードしていくために必要な“グローバル教育”。今回はその本質を探るべく、オンラインのインターナショナルスクール Crimson Global Academy 日本代表の松田悠介氏にインタビュー。第1回はグローバル教育とオンライン教育の相関性について話を聞いた。
子どもたちの学びの環境を大きく変えた、コロナ禍での激動の数か月。日本では保育施設や学校の休園・休校にあたり、急遽オンライン授業を開始。自治体、学校、家庭環境によってさまざまな格差を生んだ子どもたちの自宅学習に、警鐘を鳴らす声も多数上がった。
これからの時代を生きる子どもたちのため、「1人1台環境」のICT活用計画をはじめとするGIGAスクール構想も前倒しで進んでいる今、オンライン教育は子どもたちの学びにとってどういった存在になるのだろうか。
「実は、オンライン教育は海外留学や海外大学進学をめざす子どもたちには親和性がある。ただ一方で、今の日本でオンライン教育と言われているものは、本当の意味でのオンライン教育ではないと思っています」と話すのは、Crimson Global Academy日本代表の松田悠介氏。
現状の子どもたちのオンライン教育を振り返りながら、世界で活躍するグローバル人材を育てるために今必要なこととは何か、紐解いていく。
松田悠介/大学を卒業後、体育教師として中学校に勤務。体育を英語で教える Sports English のカリキュラムを立案。その後、千葉県市川市教育委員会 教育政策課分析官を経て、ハーバード教育大学院(教育リーダーシップ専攻)へ進学し、修士号を取得。卒業後、PricewaterhouseCoopers Japan にて人材戦略に従事し、2010年7月に退職。退職後、全国で厳しい環境に置かれている子どもたちの学習支援を展開するLearning For All を設立し、2014年に独立法人化。2012年からはTeach For Japan の創設者として日本国内の教育課題の解決に取り組み、2016年6月にCEOを退任。2018年6月にはスタンフォードビジネススクールで修士号を取得。2018年7月にスタンフォード大学の客員研究員に着任し、あわせて日本人のアメリカやイギリスのトップスクールへの留学支援を展開するCrimson Education Japan の代表取締役社長、オンラインのインターナショナルスクールCrimson Global Academyの日本代表に就任する。著書に『グーグル、ディズニーよりも働きたい「教室」(ダイヤモンド社)』。
現状のオンライン教育は「オンライン教育ではない」
――現在日本で行われているオンライン教育と、松田さんの思う本来のオンライン教育とはどういった違いがあるのですか。
「特に今回のコロナ禍で行われているものは、学校という学びや福祉の場がストップした非常時におけるあくまでも緊急支援的なもの。そこに携わる人々へのリスペクトはもちろんあるのですが、僕が考えるオンライン教育の姿とは異なります。
日本で行われているオンライン教育のほとんどは、今までオフラインで行っていた授業をそのままインターネットに持ってきただけのものなので、まったく同じ内容の授業をするのであれば、インターネット上で行うより対面で行う方がエンゲージメントが高いはずです。
教師は生徒たちの生の反応を見ることができるし、生徒も緊張感をもって授業に臨むことができる。“伝わる”ということに関しては、絶対的に生の方がパフォーマンスが高いでしょう。
オンラインで単に授業を撮影したものを見せるだけでは、生徒の習熟度が十分な域に達しない。また、教室と同じ規模感のまま教師1人対生徒35人の双方向授業にチャレンジすると、生と比べて生徒ひとりひとりの意見が反映されにくく、結果、教育の質が下がります」
今年4月16日、文部科学省が発表した調査では、公立の小中高等学校と特別支援学校等の臨時休校中の学習指導の状況として、同時双方向型のオンライン指導を通じた家庭学習を行っていると回答した学校はわずか5%だった。
――リアルをITに持ち込んだだけでは、逆にポテンシャルを発揮できなくなると…。
「僕はこれまで公教育に携わってきて、今回とても危機感を覚えています。日本の教育の最大の問題は、とりあえずの慣習で、無目的・無意識的に朝から夕方まで子どもの時間を拘束しているということ。
子どもの可能性を広げることが教育の役割だと思うので、そのためにオンライン教育は上手に使えば役に立ちます」
双方向のアウトプット型授業で学びの効率を2倍にする
――グローバル教育をオンラインでやることでどんなメリットがありますか。
「Crimson Global Academyは、アメリカやイギリスのトップレベルの大学・大学院への進学や留学を目指す中学3年生から高校3年生をサポートしています。
進学や留学の準備を行う際に、利点のひとつとしてアクセシビリティがあります。日本の地方に住んでいても、東京の進学校や世界の一流大学で行われている授業にアクセスができる。
住んでいる場所に関わらず、質の高い授業を受けられるということは、オンラインならでは。教育の可能性を大きく広げます。
そして最も重要な点は、双方向のアウトプット型の授業を展開するオンライン授業です。
Crimson Global Academyでは学年で切り分けるということではなく、習熟度別でクラス編成をしています。日本は習熟度がバラバラでも年齢で切り分けて同じ教室で指導しないといけないため、非常に効率が下がります。当校では、高校3年生が高校1年生といっしょに学ぶこともありますが、習熟度がいっしょなので、先生も生徒のニーズに合った指導ができますし、子どもたちの知識ニーズに合った学びを提供することができます。
また、今は、Udemu(ユーデミー)やCoursera(コーセラ)、edX(エデックス)といった大規模公開オンライン講義で、国内外にあるトップレベルの大学の講義から、自分が学びたい領域のものを選んで受講することができる。日本のオンライン学習サービスでも、プロの講師のわかりやすい説明で苦手を克服できるなど、さまざまなオンライン教材があります。
こういった質の高い教材にアクセスすることができれば、知識のインプットは自分に合った習熟度で自分のペースで学ぶ事ができ、とても効率的になります。
さらに、テクノロジーを使えば個別最適化された学習が可能になる。これまで公教育で行われていた一斉型授業では、学習が進んでいる生徒も理解が追いついていない生徒も、つまらないと感じてしまいますよね。
たとえば海外の著名人を招いて100人に向けて対面で授業を行うとして、ほとんどの生徒は挙手や質問ができずに終わってしまう。どれだけ素晴らしい人の話を聞けても、それでは一方通行に近いものになってしまうところが、オンライン授業であれば、テクノロジーを駆使して機能を追加できるので、チャットやクイズなどを使ってさまざまなやり取りが可能になります。
そうすることで、たとえひとつの授業に30人生徒がいても、ひとりひとりが積極的に授業に参加でき、本来のエンゲージメントを引き出せます。
僕は、これらによって学びの効率を2倍にすることで学ぶ時間を半分に減らせると思っている。これがオンライン教育の大きな潜在能力だと思います。
最後に、オンライン教育の利点としてすごく重要なのが“データドリブン”であるということ。オンライン授業による生徒の習熟度や集中度など、学びのデータを徹底的に集め、それをもとに次のアクションを起こす。
教える側と教わる側の相性もすごく重要なので、Crimson Global Academyではマッチングアプリのアルゴリズムを使った性格診断テストをして、ハーバード大学やスタンフォード大学の学生である個別指導員と生徒の組み合わせを決めています。
みなさんも先生との相性が合わずに、その教科の事が嫌いになってしまった経験はないですか?逆に先生のことがすごく好きで、特定の教科が好きになったこととか。相性は学習効率を高めるためのカギと言えます。
そのほかには、授業中の生徒のエンゲージメントを測っているので、あまり参加できていないなという子がいたらすぐに介入できるし、授業後に即座に生徒からのフィードバックを受け取ることも可能。
これらは学習の個別最適化の精度を高めるだけでなく、教師に対するフィードバックにもなり、指導力の向上、ひいては授業の質の向上につながります」
余った時間で徹底的に“好き”の課外学習を
――先ほど、オンライン教育の最大の利点は学びの効率を2倍にすることで学習時間を半減できることにあるとお話されましたが、残った時間はどのように使うのですか?
「海外のトップクラスの大学は、ペーパーテストだけで合否が決まるわけではありません。特に課外活動が大切になってきます。そのほかに、エッセイ(小論文)やインタビュー(面接)で見られる、自己表現力や創造力なども重要です。
同時に、予測のできない10年後、20年後を子どもたちが生き抜くために、AIには取って代わられない人間ならではの感性を養い、課題を解決し、価値を生み出すリーダー、“人財”を育てなければいけない。
そのために、科目ごとに知識を詰め込むのを最小限にし、残った時間は徹底的に“好き”を追及する。プロジェクトベースの学びでも習い事でも、自分の興味のある内容を突き詰めて研究してもらいます。そこで自分の“好き”があればやり続けられるし、達成感も得られる。
弊社で展開している海外進学塾のCrimson Educationではこれまで270名のIVYリーグ合格者を輩出していますが、すべての生徒が最初から自分のやりたい事が明確だったわけではありません。ただ、行動を起こしながら自分の“好き”を見つける努力をしていたことは間違いありません。当校では、学習を効率化し、確保した時間に行動を通して自分の“好き”を探すお手伝いをしています。
――Crimson Global Academyでは実際にどんな風に“好き”を追求できるのですか。
「僕ももともと起業家としてやってきているので、何かプロジェクトをはじめたい学生がいたら、事業計画の作り方から、資金や仲間をどうやって集めるか、マーケティングはどうするかといったアドバイスにのります。
ほかにもコンピューターサイエンスがやりたい学生ならスタンフォード大学でコンピューターサイエンスを学んでいる大学院生とつなげてメンタリングをすることもできますし、音楽をつきつめたい学生ならジュリアード音楽院やバークリー音楽大学の学生を指導員として迎えたり、さまざまな形でその人がやりたいことを徹底的にサポートします。
日本ではまだ、机に座って知識を詰め込むのがメインストリームだけれど、グローバル人材の育成はそうではなく、知識の詰め込み以上にアウトプットの機会を増やしていかないと育ちません。そういう点では、オンライン教育によってその時間を担保できると思っています」
――オンライン教育だからこそ、グローバル人材に必要な教育を効率的に実践できるということですね。
「日本はまだまだ学歴至上主義な面がありますが、海外の大学を目指すうえでも、ただ単に偏差値の高いトップ・スクールに入るのではなく、“好き”を追及した上で、本人の適性や学びたい内容に応じたベスト・フィット・スクールを見定め、それに合った教育をすることが大切です。
そういう意味でも、オンライン教育の利点を最大限に活かせば、子どもの可能性を広げるという教育の役割を全うし、世界で活躍できるグローバル人材を育てることができると考えています」
松田悠介氏インタビュー第1回の今回は、オンライン教育におけるグローバル人材育成の可能性について語ってもらった。第2回となる次回は、海外大学への留学や進学における“教育投資”について話を聞く。
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<取材・執筆>KIDSNA編集部