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【学びのカタチ】“〇〇×テック”で革命を起こすプログラミング教室
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2020年の教育改革が始まり、親である私たちが受けてきた教育があたりまえでなくなる今、これからの子どもたちに必要なのはどのような教育なのか。この連載では、従来の評価軸では計ることのできない独自の視点で子どもの能力を伸ばす、新しい「学びのカタチ」について紹介していく。第6回は、本格的なプログラミング学習で次世代の人材を育てる「CA Tech Kids」代表、上野朝大さんに話を聞いた。
これからの子どもたちが創り出す“〇〇×テック”
インターネットやスマートフォンが、私たちの生活に欠かせない存在になっている現代。IT技術の進歩は目覚ましく、今の子どもたちが社会に出るころには、ITの重要性がさらに高まっていることは言うまでもない。
そして今年2020年の4月、ついにプログラミング教育が小学校ではじまる。それに伴い、これまでより一層、親世代に注目されるようになったのがプログラミング教室だ。
現代において、子どもがプログラミング技術を身につけることが将来にどう生きるのだろうか?
AmebaブログやAbemaTV、スマートフォン向けゲームなどのインターネットサービスを開発しているIT企業「サイバーエージェント」のグループ会社で、小学生のためのプログラミングスクール「Tech Kids School(テックキッズスクール)」を運営する株式会社CA Tech Kids(シーエーテックキッズ)代表の上野朝大さんに話を聞いた。
現代の子どもはテクノロジーのあり方を理解している
――テックキッズスクールは、どのような経緯でできたのですか。
「実は、プログラミング教室というアイデアは、サイバーエージェントの役員会議の中で生まれたものでした。
ちょうどサイバーエージェントの社長、藤田に子どもが生まれたタイミングだったんです。藤田を含め、役員会議でみんな口々に『自分の子どもには絶対にプログラミングを学ばせたい』と言っていて。
それはなぜかというと、IT企業にとっては優秀なエンジニアというのは非常に重要な人材なんです。当時は携帯やスマホで楽しめるゲームやアプリがちょうど勃興してきた時代で、海外でも開発者が憧れの職業と認知されだし、日本でも優秀なエンジニアの争奪戦が起きていたことも背景にあります。
その一方で、当時はプログラミング教室がないという話にもなったんです。当社はもともとIT企業ですので教育事業は専門外ですが、日本の学校ではIT教育があまりされていないということもあり、『民間でプログラミングの教育事業を始めてみよう』と始まったのがテックキッズスクールでした。
実際に開校してみると、同じような思いの保護者の方々が殺到しました。IT技術を使いこなせることがとても重要だとすでに分かっていて、『プログラミングを教えてくれる場を探していたんだ』と」
CA Tech Kidsは2013年に設立し、そのわずか1週間後に、小学校でプログラミング教育の必修化を検討することが安倍首相より発表され、2016年には、2020年度からの必修化が決定した。
2016年からの数年で、多くの保護者にプログラミング教育の認知が広まり、「世間の風が変わった」と上野さんは話す。
――プログラミングを学ぶ子どもたちは、やはりパソコンやゲームが好きな子が多いのでしょうか?
「スクールに通う子どもたちを見ていておもしろいなと思うのは、もともとゲームが大好きで、エンジニアやゲームクリエイターになりたいという子どもたちがいる一方で、将来は花屋やケーキ屋、イルカの調教師になりたいという子もいます。
たとえば、数年前にパティシエになりたいという子がいて、その子は3Dプリンターを使って何か新しいことをできないかと考えていました。つまり、テクノロジーを目的ではなく手段、ツールとして捉えていて、『使えれば便利なもの』という感覚を持っているんですよ。パティシエはふつう、手を動かしてスイーツを作る仕事だ、なんて考え方をしないんです。
他にも、文学が好きで、文章を解析して主人公の感情を波形に表す自然言語処理解析によって、ヒットする小説や映画のシナリオに共通性があるかということを研究している子や、医者になりたいけどプログラミングも好きという子もいました。
現代の子どもたちは、このように一見ITと関係なさそうな職業を志していても、その手段としてテクノロジーが有効であるということをナチュラルに理解しているんですよ。
そういう子たちが10年後どうなるかというと、ファイナンス×テクノロジーの“フィンテック”、エデュケーション×テクノロジーの“エドテック”のように、従来の分野にテクノロジーを掛け合わせた大きな変革が近年起きていますが、個人ベースで『〇〇テック』を皆がやりだすでしょう。
これまでであれば文学少女だったのが、テクノロジーを身につけたことで“文学テック少女”になった。医者を志すけれどもハイテク医者になれるかもしれないし、最先端パティシエになれるかもしれない。
私たちテックキッズスクールの理念であり、育てたいと思う人材は『テクノロジーを武器として自らのアイデアを実現し、社会に能動的に働きかける人』なんです。
“分野×テック”によって新しいものが生まれる、それを小さいころからできているとなれば、そういう子どもたちは次世代人類ですよね。そうなると、テクノロジーという武器を子どもに授けるということはまさに人類のレベルアップと言っても過言ではないと思います。
また、テクノロジーへの理解があるので、たとえ本職のエンジニアにならなくても新しいドアを開けることができる。ここから先はプロに、とつなぐこともできるし、そういうテック的観点を大なり小なり持っているということが、国全体の生産性を上げたり、新しいものを生み出したりするのだと思いますね」
テクノロジーという武器を持つ必要性
――今回の必修化で、「子どもが学校でプログラミングを習うなら教室にも通わせなきゃ」と思う親御さんも増えたのでしょうか?
「実は、小学校で必修になるプログラミングと、テックキッズスクールで学ぶプログラミングは学び方がちょっと違います。必修になるといっても、現段階ではプログラミングという教科が新しくできるというわけではなく、各学校ごとの判断で算数や理科などの各教科でプログラミングを取り入れるのです。成績表にプログラミングという項目ができるわけではありません。
――改訂された学習指導要領によると、思考力、判断力、表現力を使って自分が意図する一連の活動を実現するために何が必要かを論理的に考える“プログラミング的思考”を育むことがねらいのひとつに挙げられています。
「テックキッズスクールが実践しているのは、プログラミングのもっと本質的な部分。つまりテクノロジーの力を駆使して、自分で作りたいと思ったものが作れるようになるということです。
文部科学省によると、中学校では2021年、高校では2022年に必修化になります。その際に、試験に出るなら、もしくは受験で必要なら、ということになれば、対策として教室に通わせたいという保護者の方も増えるのかもしれませんが、プログラミングが受験科目に入るから大事なのではなく、大事だから受験科目に入るのであって、対策のためだけにやるのではあまり意味がない。
プログラミングの技術を持っているから、必然的にプログラミング的に物事を捉えられるようになるのであって、先にそれだけ抽出してゲットしようっていうのは難しい。プログラミングの技術を使ってひとりひとりが何を成し遂げるかが、一番大事だと考えています」
――今後の社会での自己実現において、やはりテクノロジーは必ず必要になってくるということなのでしょうか?
「おっしゃるとおりです。その時代に持っていたら便利な道具ってあるはずなんですね。
たとえば、弥生時代に遡ったときに、鉄を製錬する技術というのが大陸から伝わってきて、その技術を持っていると強い武器を作れますし、石器ではなくて鉄器にしたことで農耕の生産力も上がった。当時は、その技術を持っていることが強みになるわけですよね。
それと同じように、強みになる技術を持っているということが、その時代を勝ち抜く必勝法になるということです。そこで、今の時代は何がそういう技術にあたるの?というと、それはITだということは間違いがないと思うんです。
パソコン1台あれば何かシステムが作れて、海外の人とやりとりができたり、要するに個人のパワーが増幅される装置がITであり、インターネット。
個人単位で、技術としてのITを身につけておくと、非常に強い武器になります。その時代に則した強い武器を持っているのが、個人の人生を有利にするのだと思います」
本格的な道具でアプリやゲーム開発を行う
自分のペースで開発を進められる
取材当日、テックキッズスクールの授業を見学させてもらった。基本的には120分の授業の中で、子どもたちは1つの作品を完成させるのだという。習い事としては長く感じるが、実際に開発に取り組む子どもたちを見ていると、最初からすさまじい集中力でパソコンに向かっている。
パソコン操作に慣れていない小学校低学年の子どもたちは、最初からパソコンで作品を作るのではなく、配布されたプリントを広げ、見本の動画などを見ながら手書きで記入していくことで、どのようにして作るのか理解を深めているのだそう。
継続学習コースでは、最大3年間のカリキュラムの中で、1年目はオンラインの学習ツール「QUREO(キュレオ)」や「Scratch(スクラッチ)」を用いてゲーム開発を行いながら、簡単なマウス操作でプログラミングの基礎を学んでいく。
2年目以降は2つのコースに分かれて自らのアイディアを実現する力を身につけていく。Appleによって開発されたプログラミング言語「Swift」で、iPhoneアプリ開発を行うコースと、プログラミング言語「C#」とゲーム開発環境「Unity(ユニティ)」で、3Dゲーム開発を行うコースだ。
「だいたい皆例外なくゲームは大好きなんですが、パソコンを触ったことがないという子が8割くらいいる印象です。そのため、最初はマウスを使ってできるソフトでプログラミングを学びます。
タイピングも次第に練習していき、2年目、3年目にはみんなコードを打つようになりますよ」
――色とりどりのTシャツを着たお兄さんとお姉さんがたくさんいますが、この方々は?
「テックキッズスクールの特徴のひとつで、先生ではなく“メンター”が子どもたちをサポートするんです。主に理工学部や教育学部で学ぶ現役の大学生や大学院生で、プログラミング技術はもちろん、子どものやる気を引き出す力も兼ね備えています。
子どもたちに質問されても、すぐに答えを教えずヒントを与え、子ども自身の頭で考え、試行錯誤させます。プログラミングは失敗してもすぐにやり直しができますから、何度もトライアンドエラーを繰り返して、自分で考えられるようになってほしいからです」
子どもたちは興味や経験値、習熟度が違うことから、ひとりひとりの得意と苦手を記したカルテをつくり、メンター内で共有。それに合わせたサポートを行うことで、周りに合わせず、自分のペースでどんどん作品作りを進めることができるのだそう。
“自己満足”から“誰かのために”
――スクールに通ううちに、子どもたちのつくる作品は変わってくるのでしょうか?
「子どもが作るものには変化があります。まず低学年の子どもは、本当に自分の作りたいものを作る。たとえば敵が無限に登場するといったような誰もクリアできないようなゲームを作りたいという子が多いです。アートに近いですね。
もうちょっと大人になってくると、作ったゲームを周りの人に遊んでもらって、難しすぎるとか、もっとこうした方がおもしろいとか、他者のフィードバックを活かしたり意識したりするようになります。
さらにフェーズが進むとゲームというものだけでなく、身の回りのお父さんやお母さん、友達の課題解決みたいなところに目が向いてくるんです。
たとえば、刺繍好きなおばあちゃんのために、市販の図版でなく、オリジナルの図版を簡単に作れるようにしてあげたいと、刺繍図版を作成できるアプリを製作した女の子がいます。
スマホで写真を撮るなどしてアプリに取り込んだデータを画像処理して、刺繍用の図版を作成する、しかも刺繍糸のメーカーを選択すると必要な糸の色番号まで提案してくれるという完成度の高い作品です」
授業では、プロも使用しているAdobeのIllustratorやPhotoshopといったクリエイターツールを使ってデザイン面も学べるため、アプリのロゴやボタンのクオリティも高い。
――刺繍と組み合わせるなんて、大人ではなかなか思いつかないアイデアですね。
「技術の習得と並行して、単純に年齢を重ねて社会性が上がって、習得した技術の使い道が広がってくる。自己満足の作品作りから他人が楽しめるゲーム作り、ゲームに留まらず課題解決の手段としてどんどん広がっていくんです。
ゲームの技術を教えるだけだと使い道は限られますが、我々はその技術とともに、その使い道に気づかせたり、新たな観点を与えることもしています」
つくったものを発信するための場が必要
「テックキッズスクールは『テクノロジーを武器として自らのアイデアを実現し、社会に能動的に働きかける人』を育てることを目指しているので、社会に向けて能動的に発信していくことも早いうちから経験してほしいと考えています。
カリキュラムの中では、半年に一度のペースで、オリジナルの作品を紹介する発表会を開いています。子どもたちはスライドも自作し、プレゼンテーションの練習をして挑みます。
また、スクール生に限らず、プログラミングを学ぶ子どもたちを応援すべく、全国の小学生のためのプログラミングコンテスト「Tech Kids GrandPrix(テックキッズグランプリ)」を開催しています。昨年は1,400件を超えるエントリーがあり、決勝進出した10名のファイナリストたちは、作品もプレゼンも大人顔負けの素晴らしいものでした」
――新しいものを生み出すだけでなく、それを社会に向けて発信することもできるなんて、プログラミング教室の中でもスペシャルな特徴ですよね。
「子どもたちがプログラミングに継続的に取り組むにあたって、ひとつの目標とするところがあるのは大事ですよね。挑戦したくなるような目指すべき素敵なステージが必要だと思っています。
技術の習得だけを目的にしてしまうと、言われたことはできます、という人材が育っていく。自分の意志で何かを作っているけれども、作っているものが自己満足の世界だとちょっと惜しいなと思っていて。
自分の身の周りの課題に気づいて、持っている技術力を駆使して形にする。それを周りや世間に知ってもらい、使ってもらい、自分が社会とつながっている、子どもでも働きかけることができる、という経験をしてほしいと思っています」
未来のIT社会にはばたく子どもたち
未知な未来だからこそ、使える道具
――現代の子どもたちが大人になったとき、社会でどうなっていてほしいと思いますか?
「いわゆるSociety 5.0(ソサエティ5.0)※とか第四次産業革命と言われるような時代が到来するであろうと予想します。
そういう世界の中で何が重要か、勝ち抜くためにはどうしたらいいかというと、どんな社会になったとしても、テクノロジーが重要であるということは恐らく変わらないだろうとは思います。
英語などの語学が大事という話もありますが、今はもう自動翻訳機があって、当然のようにそれを実現してるのはやっぱりテクノロジーです。すべてに応用が利く一番汎用的なスキルがテクノロジーのはずなんですよね」
――イノベーションが生まれるのは、やはりテクノロジーがあってこそということですよね。
「無人島に放り出されたときに、道具があるとないでは全然違いますよね。工具箱を持った状態で流れついた人と手ぶらで流れついた人、どちらの生存確率が高いかは明らかな話。
プログラミングもものづくりの技術ですので、トンカチやのこぎりの使い方に等しいものだと思っています。
どういう社会に子どもたちが飛び出していくか分からないですけれども、逆にどういう時代であってもよいように道具の使い方を理解しておく必要があるということだと思います」
※Society 5.0…内閣府が提唱する、IoT(Internet of Things)、ロボット、人工知能(AI)、ビッグデータ等の新たな技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れてイノベーションを創出し、一人一人のニーズに合わせる形で社会的課題を解決する社会。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く新たな社会とされる。
テックキッズスクールの学びのカタチ
テクノロジーを武器として、自らのアイデアを実現し、社会に能動的に働きかける人。テックキッズスクールが育てるこの“テックキッズ”こそ、新世代の人材として増やしていきたいと上野さんは話す。
「生まれたときから、または物心ついたころからスマートフォンやインターネットが身近にあったデジタルネイティブ世代、この次の世代として、『テックキッズ』を提唱したいと思っています。
世の中の子どもの多くがテックキッズになれば、社会は大きく進歩するし、さまざまな課題も解決すると思うんです。テックキッズスクールは、プログラミング言語やスキルを身につけるだけではなく、時代を変えていくような子どもたちが育つ場所。
今まで子どもが使える手段は本当に限られていて、親の許可がないと使えない道具もたくさんあった。ですが現在、子どもにITをもたらすということは、無限の可能性をもたらすことだと思います」
テックキッズスクールの教室は東京、大阪、沖縄に5教室あり、また姉妹校である「QUREOプログラミング教室」が全国に1000教室以上と広がりを見せている。プログラミングができるということは、インターネットさえあれば場所による制約の無効化をすることができる、そのために地方に住む子どもたちにも、興味を示したときに学べる環境が近くにあるようにしたいと上野さんは言う。
すでに、プログラミング技術を持つ全国の子どもたちが、さまざまな分野とテクノロジーを組み合わせた新しいものを生み出して社会に発信している。近い将来、“テックキッズ”によって、日本に、世界に大きなイノベーションが次々と起こる時代がやってくるかもしれない。
※2020年4月15日現在はオンラインでの授業を実施しています。
<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部
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