【専門家監修】子どもは忍耐力をどう学ぶ?保護者が注意したいポイント

【専門家監修】子どもは忍耐力をどう学ぶ?保護者が注意したいポイント

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井戸 ゆかり

井戸 ゆかり

東京都市大学人間科学部教授

東京都市大学人間科学部教授。 学術博士。 専門は発達臨床心理学。 とくに乳幼児期から青年期の心身の発達、親子関係の研究を行っている。渋谷区子ども・子育て会議会長、調布市障害児保育スーパーヴァイザー、ファミリーサポート研修、保育者研修講師等を務める。著書に『「気がね」する子ども達-「よい子」からの SOS』 、編著に『保育の心理学』『子どもの理解と方法』(いずれも萌文書林)などがある。

納得いかないことがあると、すぐに泣きだして癇癪を起こす。ご飯や歯磨きにすぐ飽きてしまう。子どもを育てていると「大きくなってもこのままだったら……」と不安を抱える方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで、非認知能力のうちの一つでもある忍耐力について、そしてその力を育てる方法などを解説します。

なぜ子どもに忍耐力が必要?

幼いうちは「嫌なことは嫌」と反応するのは自然ですが、そのまま成長してしまえば人生の困難に立ち向かうことがむずかしくなります。

忍耐力をもって何かに取り組んだとしても、それが必ずしも社会的な評価につながるとは限りません。ですが、そういった積み重ねのひとつひとつは、自分に自信を持つというなにより大切なことに繋がります。

逆に、忍耐力を身につけないまま大きくなると、下記のようなことが懸念されます。

・勉強に集中しない

・何事も続かない

・困難にぶつかるとすぐにあきらめてしまう

このように、忍耐力の欠如は生きにくさにも繋がることがあります。

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※写真はイメージ(gettyimages/artplus)

日本は忍耐力の自己評価最下位国

「忍耐は大事」という価値観は、日本では長く共有されているように思いますが、意外な調査結果があります。

2012年に実施された、経済協力開発機構(O E C D)による国際学習到達度調査(PISA)の調査にて、日本は「忍耐力」と「柔軟性」についての自己評価を尋ねたところ、参加した44ケ国・地域中、最下位でした。

「忍耐力」に関する質問は、「困難な問題に直面するとすぐにあきらめる」「難しい問題は後回しにする」に、「よくあてはまる」や「ほとんどあてはまる」と回答した割合が、日本は参加国・地域中でもっとも高かったと報じられています。

「あくまで自己評価なので、実際の忍耐力や柔軟性を客観的に示したものではない。控えめに回答する国民性が影響している可能性もある」と文部科学省がコメントしているように、忍耐力が重んじられる文化があるからこそ、簡単には自分を評価しない風潮があるのかもしれません。

忍耐力は何歳頃から身につく?

皆さんご存じの通り、もともと子どもに忍耐力が備わっているわけではありません。遊びや生活のなかで少しずつ我慢を覚え、そうすることで得られる喜びや報酬を学んでいきます。

個人差があるので必ずというわけではありませんが、忍耐力といった力が芽生えるのは、イヤイヤ期を迎える子が多い2~3歳ごろだと言われています。

2~3歳になると、保育所・幼稚園・認定こども園などに通ったり、公園など公共の場に出かけたりする機会も多くなります。そうすると保護者以外の人とも接することになり、自然と我慢を覚えることにも繋がっていきます。

ただし、そのくらいの年頃から忍耐力が芽生える子も多い、というだけなので、決して無理に我慢をさせようしないようにしましょう。

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子どもの忍耐力を育むには?

幼い子どもに無理な我慢を強いるのは避けるとして、ではどのように忍耐力を育てていけばよいのでしょうか。

まず、子どもが我慢できる時間を大人基準で考えるのはNGです。子どもが少しだけ頑張れば成し遂げられるよう、スモールステップで課題設定しましょう。

場面によっても異なるのであくまで目安ですが、2歳に求める我慢は1分 まで、と考えるのがいいでしょう。

たとえば、下の子の面倒をみている時に抱っこをせがまれる。みんなで「いただきます」をする前に食べようとする。そんな時に1分だけ我慢をしてもらうのがよいでしょう。

気を付けたいのは、子どもに我慢をしてもらう時、「みんなが来るまで待ってね」などと声かけすることです。保護者からの声がけがあれば、子どもは安心することができます。

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※写真はイメージ(gettyimages/kokoroyuki)

保護者が注意したいこと

子どもの忍耐力を育む際には、こんなことに注意をしましょう。度を越した我慢をさせると、その後の人生にも悪影響が生まれてしまいます。

①子どもの欲求を否定しない

我慢や忍耐は、子どもの欲求や要求を無視することとは違います。思いを無視し続けるとむしろ自己主張を苦手と感じるようになってしまいます。子どもの話には耳を傾け、我慢が必要な時にもその理由を説明しましょう。

②弱音は吐いていいと伝える

なんでも我慢するように教育すると、辛いことがあっても弱音を吐いてはいけないと考えてしまいます。そのまま大人になると、ひとりでは解決できない問題に直面した時、親や周りの人に相談することが出来ないようになってしまいます。

③大人の都合や価値観をおしつけない

余裕がある時には子どものしたいことを許すのに、忙しくてバタバタしている時にはつい「ダメ!」と言ってしまったことはありませんか? 親の勝手な都合で、甘やかしたり我慢させたりしてしまうと子どもは混乱します。

④生理的な我慢をさせない

排泄はもちろん、肌や目のかゆみ、疲労感などを我慢させると重大な疾病を引き起こす可能性があります。


体験談

2児の保護者
2児の保護者

3歳の長男はブランコが大好き。だけど、よく行く公園はブランコが人気なのですぐに乗れないことも多く、待つ時間が長くなるとイライラして泣き出してしまいます。ある日、5歳くらいの子が「待っていたら必ず乗れるよ」と話しかけてくれて、その時はいったん泣くのを止めて自分の順番を待つことができました。公園でいろんな子どもと接しながら、社会のルールや我慢を学ぶのかもしれません。

1児の保護者
1児の保護者

4歳の娘と一緒に買い物に行くと、「これ買って!」と目についたお菓子を何個もせがみ、「買わない」と言うと泣いて大きな声を出してその場を離れようとしません。困り果てたわたしは対処策をネットで調べたところ、子どもが買える予算を決める、予算に収められたら褒める、などの解決策を発見。それらを試してみて、少しずつではありますが改善が見られてきました。子どもには、大きな声を出せば要求が通る、という安易な方法に逃げず、時には我慢もしながら買いたいものを買う、という経験を通し、忍耐を学んでほしいと思っています。

無理なく忍耐力を育てる

子どもが自分の欲求に素直なこと自体は、悪いことではありません。ほしいものがあること、したいことがあることそのものは肯定しつつ、人と折り合いをつける方法を学んでもらうという意識が重要です。

欲求そのものを否定せず、のびのびと自分のしたいことを実現しながら、他人のことも尊重できる子どもに成長できるよう、見守っていきましょう。

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※写真はイメージ(iStock.com/maruco)

監修

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井戸 ゆかり

井戸 ゆかり

東京都市大学人間科学部教授。 学術博士。 専門は発達臨床心理学。 とくに乳幼児期から青年期の心身の発達、親子関係の研究を行っている。渋谷区子ども・子育て会議会長、調布市障害児保育スーパーヴァイザー、ファミリーサポート研修、保育者研修講師等を務める。著書に『「気がね」する子ども達-「よい子」からの SOS』 、編著に『保育の心理学』『子どもの理解と方法』(いずれも萌文書林)などがある。

2024.07.31

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