【産婦人科医監修】妊娠中は貧血に注意が必要?鉄欠乏性貧血の治療法について

鉄剤の副作用と対処法について

【産婦人科医監修】妊娠中は貧血に注意が必要?鉄欠乏性貧血の治療法について

妊娠中に貧血になったときはどのような治療が必要なのでしょうか。妊婦さんがなりやすい「鉄欠乏性貧血」について、注意が必要な症状や治療法と治療薬の副作用について解説します。また、吐き気などつわりの症状があり食事や飲み薬を摂れない場合の対処法についてご紹介します。

妊婦さんの貧血

貧血気味の妊婦さん
iStock.com/baona

妊娠中、血液はお腹の赤ちゃんに栄養と酸素を届ける重要な役割を果たします。

妊娠すると、ママの身体や赤ちゃんを育てるために必要となる血液量や鉄分の量が増えますが、鉄分は身体の中で自然と増えたり、作られることはないので、食べ物や飲み物から摂取する必要があります。

妊婦さんは、鉄分不足が原因の「鉄欠乏性貧血」になりやすいです。


貧血の初期症状

鉄分が不足すると、以下のような症状が現れます。


  • めまい
  • 立ちくらみ
  • 動悸
  • 息切れ
  • 疲れやすい
  • 顔色が悪い
  • 頭痛
  • 耳鳴り
  • 首や肩がこる
  • 寝起きがつらい

鉄分が不足すると体内の酸素量が減り、めまいや立ちくらみ、頭痛などの症状が起こります。

また、心臓はたくさんの血液を流して酸素不足を解消しようと鼓動を早くするため、動悸や息切れ、疲れやすいなどの症状が現れます。


鉄欠乏性貧血が進行したときの症状

鉄欠乏性貧血が進むと以下のような症状が現れることもあります。


  • 肌が乾燥する
  • 爪の割れや反り
  • 口角が切れる
  • 舌が荒れる
  • 髪が抜ける
  • 枝毛が増える
  • クマができる

鉄分不足が続くと、血液が酸素を十分に補給できないため、肌や髪の状態にも影響がでたり、目の下にクマができることがあります。

貧血の症状の起こり方や感じ方には個人差があり、つわりの症状と見分けがつきにくいこともあるかもしれません。

鉄欠乏性貧血はゆっくり進行する場合もあり、初期は自覚症状がないことも多いです。妊婦健診の際、血液検査で初めて貧血に気づく妊婦さんも少なくありません。

貧血は、身体全体に負担をかけるため、上記の症状があるときは、1度かかりつけの産婦人科を受診しましょう。

妊娠中の貧血検査

妊娠中は初期に1回、後期に2回、全期を通じて3回~4回程度、採血による貧血検査を行います。


【妊娠貧血と診断される基準値】


  • ヘモグロビン濃度11g/㎗未満
  • ヘマトクリット値33%未満

貧血の診断は、一般的に上記の数値を目安とし診断されますが、妊婦さんが貧血になりやすい妊娠30週前後はヘモグロビン濃度が9.6~10.5 g/㎗未満に設定されることもあります。

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妊娠中に貧血になったときの治療法

妊娠中の貧血の治療は血液検査の結果や自覚症状に応じて、食事療法と薬物療法で行います。


食事療法

果物
iStock.com/ansonmiao

軽度の貧血の場合は、できるだけ鉄分の多い食事を摂るように食生活の改善が指導されます。

鉄分は、体内への吸収率があまりよくない栄養素のひとつです。貧血の食事療法を行う場合は、鉄分が多い食材を意識して摂ることも大切ですが、鉄の吸収率が良くなるように、タンパク質やビタミンCなど、他の栄養素と合わせて摂取することが大事です。

【鉄分が多く含まれている食材】


  • 赤身肉
  • あさり
  • しじみ
  • 煮干し
  • 小松菜やほうれん草などの青菜類
  • 青のりやひじきなどの海藻類
  • 切り干しだいこん

【鉄分の吸収を助ける食材】


  • 大豆製品
  • 乳製品
  • 緑黄色野菜
  • 柑橘類
  • いちご
  • キウイ

貧血を改善するためには、栄養バランスが整った食事を心掛けましょう。


薬物療法

貧血が食事だけでは改善できないときや医師が必要と判断したときは、鉄剤の内服薬が処方されます。処方された鉄剤は用法用量を守り正しく飲むことが大切です。

鉄剤の服用と合わせて食事療法を続けると症状が改善する場合が多いです。


鉄剤に副作用はある?

妊娠中に処方される鉄剤には副作用があり、飲みにくかったり、身体に合わないという妊婦さんもいるようです。

【鉄剤の主な副作用】


  • 胃のムカつき
  • 吐き気
  • 下痢や便秘
  • 便が黒くなる

鉄剤の成分がお腹の赤ちゃんに影響することはありませんが、副作用があり飲むのがつらいときは、かかりつけ医に相談するようにしましょう。


注射・点滴

吐き気や下痢などの症状が続き、鉄剤を飲むのが難しい場合や貧血の症状が進行しているときは、注射や点滴で鉄剤を投与します。

また、貧血の症状が重い場合は入院して貧血の治療を進めることもありますが、鉄剤の注射や点滴、貧血による入院治療はとても稀なケースです。

一般的に鉄剤の副作用がある場合は、薬を飲む時間を変えたり、薬の種類の変更などで対処します。

妊娠中の貧血予防・改善方法

妊娠中の貧血を予防・改善するためには、普段からどのようなことに気をつけたらよいのでしょうか。


栄養バランスのよい食事

貧血を予防するためには、栄養バランスが偏らないようにしっかり食事を摂ることが大切です。鉄分が多い食材や鉄分の吸収がよい食材を組み合わせて1日3食を規則正しく食べましょう。


十分な睡眠

睡眠不足は、鉄分の吸収を妨げる原因になりやすいです。夜更かしは控えて、十分な睡眠をとりましょう。


タンニンを含む飲み物の摂取に気をつける

コーヒーや紅茶、緑茶に含まれているタンニンは、鉄分の吸収を阻害することがあります。

タンニンを含む飲み物は、食事の1時間前後と鉄剤服用の30分~1時間前後は飲むのを避けましょう。

妊娠中の貧血は正しい治療をしましょう

医師に相談する妊婦さん
iStock.com/Chinnapong

妊娠中の貧血の多くは、鉄分不足が原因で起こることが多いです。貧血を予防するためには、日々の食事に鉄分が多い食べ物を多く取り入れるように意識しましょう。

貧血の症状をそのままにしておくと、ママの身体だけではなく赤ちゃんの発育不良や早産のリスクが高まったり、お産時や出産後の母乳育児に影響を与えることもあるので、早めに治療を開始することが大切です。

貧血は、食生活の改善で治ることが多いですが、症状によっては薬の服用が必要になることがあります。鉄剤を飲みにくいと感じるときは、我慢せずに医師に相談しましょう。

正しい治療や予防で妊娠中の貧血を防ぎたいですね。


監修:杉山太朗(田園調布オリーブレディースクリニック)

Profile

杉山太朗(田園調布オリーブレディースクリニック)

杉山太朗(田園調布オリーブレディースクリニック)

信州大学医学部卒業。東海大学医学部客員講師、日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医。長年、大学病院で婦人科がん治療、腹腔鏡下手術を中心に産婦人科全般を診療。2017年田園調布オリーブレディースクリニック院長に就任。 患者さんのニーズに答えられる婦人科医療を目指し、最新の知識や技術を取り入れています。気軽に相談できる優しい診療を心がけています。

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