【助産師監修】「母性」とは何か?母性に影響する要素、育む方法、体験談

【助産師監修】「母性」とは何か?母性に影響する要素、育む方法、体験談

ちまたで聞かれる「母性」という言葉。妊娠、出産を経てもなお、「私には母性がないのでは」と気に病む女性もいるのではないでしょうか。たとえば、疲れてしまって子どもの面倒が億劫、子どもをかわいいと思えない。そんなとき、自分の「母性」の欠如を責める気持ちになってしまうかもしれません。今回は、令和の時代の母性観、父性との違い、母性に影響するとされる要素、母性が無いと感じたときに母性を育む方法、ママたちの体験談についてご紹介します。

現代の母性観とは

※写真はイメージ(iStock.com/takasuu)
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母親としての本能や性質をさす「母性」。自分の子どもを愛おしく思い、守り育てようとする愛情表現としてママであれば“あって当然”と思われることもあります。

実際に、女性はお腹の中で赤ちゃんを育てて分娩するという役割をもち、それを果たすために女性の体の形態や機能、心理は、男性とは違う特徴を備え、これらを総して「母性」と呼ぶこともあるでしょう。

しかし現代の母性観としては、「母性」という言葉は“育児は女性がするもの”という考え方を助長してしまう面があるという声があります。

家庭で育児がうまくいかない場合でも、「ママの母性が足りないから」と責めたりせず、夫婦で協力し合いながら育児に取り組むことが大切でしょう。

出典:看護 学入門 12 母子看護 母子看護を学ぶにあたって

http://medical-friend.co.jp/pdf/nyumon2013/nyumon12.pdf

母性と父性の違い

子どもを愛しく思い、守りたいと思う気持ちは、女性に限ったものではなくパパにももちろん芽生えるものです。

母性は一般に、子どもを受け入れ包み込むような愛情表現を指しますが、一方の父性は、善悪の判断やマナーを教えるなど、社会のルールや知恵を与えるものといわれています。

特に、子どもが成長して社会と接することが多くなってきた際に、父性が重要だとされてきました。その意味では、これまでに言われてきた母性と父性両方がバランスよく注がれることが、子どもの健やかな成長のために大切かもしれません。しかし、それは親の性別を限定するものではありません。

母性が無いと感じたとき

※写真はイメージ(iStock.com/kokouu)
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自分には母性が無いと感じ、悩むママもいるかもしれません。

特に、出産後子どもとずっと2人きりで過ごす時間が長く続いた場合に、子どもに対してネガティブな感情を抱いてしまい、母性の足りなさを感じてしまったというママの声もありました。

出産後は、否が応でも子ども中心の生活へと変わります。そのため、出産前は自分の好きなことが自由にできていたと感じるママは、産後に辛いと感じたりマイナス思考になりやすいかもしれません。

また、授乳している際に幸せを感じるママが多いなか、なかなか幸せに思えないことに罪悪感を抱いてしまうママも。

母性の感じ方は人によって異なり、妊娠前から子どもが好きな女性もいれば、今まで子どもが苦手だったのに出産後から子どもを愛おしく感じるママもいます。

先天的な「母性神話」を気にしすぎるあまり、ママが自分自身を苦しめてしまわないように気をつけたいですね。

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母性に影響するとされる要素

母性は、本能として備わっているほか、心身の成長や発達などさまざまなことが関係しあって育つとも考えられています。

母性の発達に影響する主な要素としては、人格の成熟や、あたたかい人間関係、自分の母親との関係性、育児経験などがあります。

また身体面としては、妊娠、分娩、育児が十分にできるほど体が健康か、生殖器系の形態機能の発達が順調かという点についても、母性の働きに影響します。

出典:看護 学入門 12 母子看護 健康な母性の発達に影響する因子

http://medical-friend.co.jp/pdf/nyumon2013/nyumon12.pdf

「母性」という言葉に苦しめられないために

母親が安定した気持ちで子どもを育てるための方法についてご紹介します。


世間の価値観にとらわれず、無理に子どもをかわいがらない

「女性やママなら、子どもをかわいがって当然」という世間の価値観や理想に合わせて、自分もそうしなければと思う方もいるのではないでしょうか。

しかし、そういった価値観に応え完璧なママを目指そうとすると、やがて無理が生じてしまうこともあるかもしれません。

子どもへの愛情の示し方は人それぞれです。「母親はもっとやさしくすべき」「母親はもっと自分を犠牲にしても子どもに尽くすべき」そんなふうにパートナーや家族に指摘される、あるいは自分自身がそう感じてしまうときは、受け入れられる部分は取り入れ、自分に合わない場合は無理せずマイペースに育児を進めていきましょう。

自分のペースを大切にしながら子どもへ関心を向けていれば、それは子どもにも伝わり親子のコミニュケーションがうまくいくこともあります。


イライラしたら子どもと距離を置く

※写真はイメージ(iStock.com/takasuu)
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子どもにイライラしてしまい、自己嫌悪に陥ることもあるでしょう。

その場合は、子どもと少し距離を置きましょう。そうすれば心に余裕ができ、その後子どもに会うと愛おしく思えることもあるかもしれません。

イライラを抱えた時は、子どもの様子がわかる程度で別の部屋などに移動して頭を冷やした、パパや両親、保育園に子どもを預けて自分ひとりの時間を作ったというママの声もありました。

子どもと向き合うことは、とてもエネルギーのいること。こまめに自分自身にご褒美をあげるなどして、子どもと接するための力を補給しましょう。

母性観についてママたちの体験談

※写真はイメージ(iStock.com/monzenmachi)
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母性観についてママたちに聞いてみました。

 
 

息子を妊娠したときは、仕事が軌道に乗っていて想定外だったこともあり、産むことを決めても妊娠した自分が情けなくて仕方ありませんでした。

そのため、当時は出産しても虐待してしまうのではないか……?と自分が怖くなり、マタニティスイミングに行くなど、自分の母性をなんとか確立しようと焦っていたのを覚えています

 
 

帝王切開で出産したせいか、その時は産まれても自分のお腹にいた子が出てきた実感がなく、抱っこするのも怖く感じるほどでした。

その後、病院で母乳をあげるようになって、小さなベッドで眠る息子を一人病室で見ていたとき、なんとも言えない気持ちになりました。今でもその光景を覚えており、それが母性が芽生えた瞬間だった気がしています。

母性が心身ともにどのように育まれるのかよくわかりませんが、自分の産んだ子さえも愛せない人はきっといると思います。愛せなくても無理しなくてもいいように思います

 
 

私は、4人子どもを産んでいますが、母性は弱めだと思います。

4人もいると構っていられず、我が子が転んで泣いてたりしていても『また転んでるー。また泣いてるー』と思ってしまい、冷徹な自分がたまにイヤだなと思うことはあります

 
 

一人目を産んだあとはとにかくしんどい、眠い、こんなの聞いてない、という気持ちが強く、我が子を本気で可愛いと思ったのはかなり先になってからだったように思います。しばらくは赤ちゃんもリアクションが薄いし、孤独感が強いです……

 
 

最近、世の中の風潮で『母性という言葉で女性側に負担を強いているだけでは?』と感じることがあります。

出産についても過剰に神秘的体験のように言ったり、母性や母体を神格化するようなものとは距離をおくようにしています

 
 

自分の母性を強く感じたのは、一人目の妊娠が分かったときです。バリバリ働いて遊んでという生活が楽しかった頃で、それまで子どもを産みたいと思ったこともなかったのですが、不思議と『産もう』と思えて衝撃が大きかったです。それは母性というか生物的な本能なのかなと思いました。

同様に40歳目前にして子ども三人がだいぶ手が離れてきて、『もう一度赤ちゃんを抱きたい』と思ったことが何度かあり、これも本能のなせるわざなのかなあと思いました

 
 

母性を無理に育む必要はないと思います。私は子ども時代、家庭環境が複雑だったので結婚や子どもを持つことに憧れを抱いたことは一度もなく、子どもを無条件にかわいいと言える人も理解できませんでした。

でも、母親を12年くらいやってようやく、自分の子だけじゃなく近所の子たちもかわいいと心から思えるようになりました。そのため、生育環境はあまり関係ないような気はしています

母性を気にしすぎずマイペースに子育てをしよう

※写真はイメージ(iStock.com/Yagi-Studio)
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母性の強さは人によって異なります。世間の価値観にとらわれず、自分なりの愛情を子どもに向けることが大切でしょう。

母親としての素質に心配を感じる場合は、妊娠中に胎教をする、出産後すぐの時期に親子の接触をする、母乳育児をする、子どもと積極的にスキンシップをとっていくことなどで改善することもあるかもしれません。

また、女性だけでなく男性も父性をもち、ママと同じくらい深い愛情をもって子育てに関わる方も多いでしょう。

育児ストレスが溜まった場合などは、パパにサポートしてもらったり、時には子どもと距離を置いたりしながらマイペースに子育てをしていくことができるとよいですね。


監修:

Profile

河井恵美(エミリオット助産院)

河井恵美(エミリオット助産院)

看護師・助産師の免許取得後、大学病院、市民病院、個人病院等、様々な診療科を経験し、助産師歴は25年。青年海外協力隊でコートジボアールとブルキナファソに赴任した後、国際保健を学ぶために兵庫県立大学看護学研究科修士課程に進学・修了。現在は、シンガポールの産婦人科クリニックに勤務し、日本人の妊産婦さん方のサポート。世界にいる親御さんを応援するため、インターネット上でエミリオット助産院も開設している。

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2022年06月01日

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