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【天才の育て方】#15 緒方湊~「好き」と「責任」に向き合い野菜を普及する中学生[後編]
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KIDSNA編集部の連載企画『天才の育て方』。 #15は最年少の10歳で「野菜ソムリエプロ」に合格し、メディア出演やセミナーなどで野菜の魅力を広めながら、自宅の菜園で伝統野菜づくりにも取り組む緒方湊さんにインタビュー。なぜ「野菜」に着目し、プロと呼ばれるまでに至ったのか。その背景を紐解いていく。
幼少期に野菜に興味を持ち、小学1年生で野菜づくりを初め、最年少の10歳で野菜ソムリエプロの検定に合格した、緒方湊さん(以下、湊さん)。
魚や歴史などさまざまなことに興味を持ち知識を収集する中でも、特にのめり込んだのが「野菜」。収穫体験に始まり貸し農園での野菜づくりを経て、日本農業検定や野菜検定、野菜ソムリエプロの試験に挑戦。その知識欲はとどまるところを知らず、家庭菜園で伝統野菜の栽培も行っている。
前編では、幼少期に興味を持った出来事や、両親の教育方針について聞いた。後編では、野菜ソムリエプロとして活動する中で大切にしていることについて聞いていく。
一貫している「自分が好きなもの」への気持ち
家庭菜園「MINATO FARM」では、季節にあわせて20種類近くもの野菜を育てているという湊さん。
大好物であるヤーコンをはじめ、石川県の源助だいこん、山形県の温海かぶ、札幌市の札幌大球など、日本全国の伝統野菜が所狭しと並ぶ。
一方で、野菜ソムリエプロとしてメディアに出演したり、講演やインターネットサイトを通じて野菜の魅力を伝える活動にも励んでいる。
中学生として学業にも取り組み、さらに2020年12月には 合格率12.4%の日本さかな検定 (ととけん)1級に合格するなど、学びを止めない湊さんの原動力はどこにあるのだろうか。
その理由は、野菜について語るときの湊さんのキラキラとした表情を見れば伝わってくる。
湊さん:自分が好きなことはとことん知りたいし、周囲の方にも知ってほしいという気持ちが強いんです。
野菜や果物……特に野菜はほとんどの方が毎日食べるものだと思うのですが、実際にクイズの題材にしてみると、意外とみなさん知らないことが多かったりする。
普段食べている身近なものなので、もう少し興味を持ってほしい。ちょっとした知識があれば、よりその野菜を美味しく楽しく食べられると思うんです。
――意外と知らない野菜の知識をひとつ教えてください。
湊さん:たとえばピーマン。ピーマンは収穫しないでずっと放っておくと、パプリカのように赤くなるんです。もちろんパプリカも最初から赤いわけではなくて、最初はピーマンと同じ緑色。いつ収穫するかで色が変わるんです。
ピーマンとパプリカは形だけでなく、そういった成長過程にも共通点が多いんですね。
――パプリカは好きだけどピーマンは嫌いという子どもに聞かせたら、野菜の見方が変わりそうなお話ですね。湊さんが野菜ソムリエプロとして活動する中で、関わる方はどのくらいの年齢層が多いですか?
湊さん:平均年齢は高いですね。農業は60代で若手とよばれる世界ですから、そういった方たちと普段接しているので、僕は同世代との方がギャップを感じるくらいです。
父:湊はおじいちゃんおばあちゃんの方が話が合って、結構かわいがられています。「その野菜を育てるならこうした方がいいよ」と、どこの本にも載っていないような経験からの知識を教えてもらうこともあります。
逆に農家の方は自分で作っている野菜の種類の知識はあるけど、野菜全般に詳しいわけではない。湊の方が詳しい部分は湊の方が教えることもあって、お互いによい関係を築けていると思います。
――同年代のお友だちと遊んだりすることはありますか?
湊さん:友だちと遊ぶときは、基本的に家に呼びます。
家や菜園にいるのが好きなので、あまり外には遊びに行かないんです。せっかく学校が終わって家に帰ってこれたのに、なんで出かけなきゃいけないんだって思っちゃう(笑)。
携帯を持っていないからLINEもやっていないんです。全然興味がない。
父:けっこう芯がしっかりしているなと、父親ながらに思います。好きなことは好き。嫌いなことは嫌い。嫌いだけれどもしないといけないこと、やらなくていいことも湊の中で取捨選択ができている。芯がブレないなと感じます。
伝えることには責任が伴う
――現在はインターネットにおいてはTwitterと「みなとの野菜大辞典」というサイトで情報を発信されていますが、SNSは何歳から始めたのですか?
湊さん:Twitterは9歳の頃からしています。もとは祖父母への近況報告用だったのですが、メディアに出始めるようになってから本格的に投稿を始めました。
父:文字数が少ないからそんなに書かずに済んで楽だなという思いもあったのですが、今考えると140文字でいいたいことを端的に伝えるというのは、結果的にメディアで話す上でもいいトレーニングになったと思います。
――野菜の情報をプロとして発信しながら、感じていることはありますか?
湊さん:Twitterなどで『湊くんが美味しいっていっているから私もその野菜を食べてみた』とか、農家の人から『宣伝してくれてありがとう』というリアクションがあると、うれしいですね。
僕が好きな野菜が広まって、売れるようになれば、農家の方もたくさん作ってくれる。そうなれば結果的に僕が食べられる機会も増える。
難しいことや使命を背負ってやっているわけではなく、単純にそうなったらうれしいなという思いもあります。
父:野菜ソムリエプロを目指した動機のひとつにも、もしかしたら生産や流通が途絶えてしまうかもしれない美味しい野菜を残したいという気持ちがあって。
湊が昔から今も好きなのが、ヤーコンというマイナーな野菜。食べてみたらすごく美味しいし栄養もある。もっと広まったらいいのにという思いから、「誰もやらないなら僕が広めよう」という思いにつながったんです。
湊さん:そのときに、ただの野菜が好きな小学生ではなく、何か肩書きがあった方がみんな話を聞いてくれるんじゃないかと思ったんです。そういった理由で野菜ソムリエプロに挑戦しました。
――湊さんの「好き」が社会につながり、他の方や農家にもいい影響になっているんですね。
父:湊といっしょに農家の方に接していて感じるのは、彼らのノウハウのすごさ。そしてその後継者の少なさです。今は農業に参入するベンチャー企業も多いですが、なかなか続かないんですね。
でも湊の場合は根本に好きという気持ちがあるから続く。
「これからの農業を背負う」というほど大きなことは考えていませんが、結果的に業界全体に少しでもいい風が吹けばいいなと思います。
――智さんが湊さんと多くの行動をともにする中で、『これだけは守ろう』と決めていることはありますか?
父:社会に出るようになったら、言動ひとつひとつに自分で責任を持たないといけない。「自由と責任は表裏一体だよ」という話は、幼稚園のときからしていました。
「好きなことなら何してもいいよ」と自由にさせている分、「責任は自分で取るんだよ」と。
メディアで何かを発信するときも、湊がいった言葉には必ず責任がついてくる。なのでエビデンスを探すということは徹底するように伝えています。
世の中というのは責任の所在がはっきりしている。だからTwitterも何を発信してもいいけど、何か起こってからでは遅いので、最後に僕が確認をします。
天才に聞く天才
――湊さんが「この人、天才だな」と思う人や、尊敬する人・目標にしている人はいますか?
湊さん:尊敬する人物は二宮尊徳です。薪を背負って読書をしながら歩く少年の銅像、幼名の二宮金次郎として有名ですが、知ったきっかけは小学2年生の時、学校の図書室にあった二宮尊徳の本の表紙に「農業」という言葉があり、それに目がいって読んだことからでした。
実は彼は、多くの農村や藩政の復興に尽力し、勤勉で努力家で人々から尊敬されているということがそのとき分かり、素晴らしいなと思いました。
――ご自身では、最年少で野菜ソムリエプロになれたのはどうしてだと思いますか?
湊さん:たまたま僕が取ったタイミングが良かっただけだと思います。野菜ソムリエの資格を取得した後に、多くの人に野菜や果物の魅力を伝えるという、自分のやりたいことがはっきりしていたので、「好きなこと」の世界を広げることができました。
記録に関しては、抜かされるために記録があると僕は思っているので、執着はしていません。ただ、この記録のおかげでメディアなどに出させてもらっているので、記録に感謝はしています。
「野菜といえば湊くん」という存在になりたい
――将来はどのような大人になりたいと考えていますか?
湊さん:将来は農家になって、今にも途絶えそうな伝統野菜を作って、少しでも世の中に広める助けになればいいなと思っています。
――お父さんから見て、未来の湊さんはどのような大人になると思いますか?
父:よく湊と話すのは「昔何をやってたかよりも、今何をやってるかが大事」「いくつになっても過去より未来を向いて話をできる人の方がいいよね」ということ。
僕や妻から期待をかけていることは何もなくて、湊がそのとき好きなことができていればいいと思います」
湊さん:あと父には、自分が何屋かをパッと言えるのが大事とよくいわれます。
「天ぷら・焼肉・うなぎ・寿司」と書いてある店と、「お寿司」とだけ書いてあるお店のどちらに食べに行きたいと思うか。
なんでもやっているお店よりは、お寿司しか出せないけど「お寿司ならここ」といわれるお店に行きたいと思いますよね。
それと同じで「野菜だったら湊くんに聞こう」と思われる存在になりたい。
もちろん歴史も魚も好きですが、僕は野菜屋でありたいという思いが強いので、これからも野菜のことを一番に追及していきたいです。
編集後記
相手が話すときはじっと耳を傾け、絶妙なタイミングでフォローをしあいながら、笑顔でインタビューに答える湊さんとお父さんからは、お父さん自身が「親子というよりも同僚のように対等な立場」と話すように、たくさんのことをいっしょに経験してきた絆が見えた。
若干10歳で野菜ソムリエプロになったのは始まりでしかない。湊さんはこれからも貪欲に知識を吸収し経験を積みながら、農業の世界に新たな風を吹かせてくれるだろう。
<取材・撮影・執筆> KIDSNA編集部