【中国の教育】競争に揉まれるからこそ揺るがない学力

【中国の教育】競争に揉まれるからこそ揺るがない学力

さまざまな歴史や風土をもつ世界の国々では、子どもはどんなふうに育つのでしょうか。この連載では、各国の教育や子育てで大切にされている価値観を、現地から紹介。今回は、中国・海南島に住み、大学で日本語講師をされている林由恵さんに話を聞きました。

<連載企画>世界の教育と子育て

プロセスより結果重視の教育

子どもの教育投資ニーズが高く、“学力こそが子どもの将来を決める”という価値観の中国は、子どもたちの学力の高さで名を馳せる世界の大国。

その学力レベルは、2018年のOECDの国際的な学習到達度調査をはかるPISAテスト(Programme for International Student AssessmentProgramme for International Student Assessment)の結果においても顕著で、語学、科学リテラシー、数学リテラシーの3分野ともに首位の中国は、2位のシンガポールと熾烈な学力競合を繰り広げています。

中国の海南島の大学で日本語講師をしている林由恵さんは、競争が激しく結果重視の教育が、この国のエリート主義を体現していると話します。

「中国では、何よりも学校の成績が一番大事。勉学に対して日本よりも遥かにストイックに取り組み、時間をつぎ込むことも惜しみません。

トップダウン式の知識を詰め込む教育が徹底されているので、子どもたちは暗記がとても得意。その学力の高さは、PISAテストの結果をみてもわかるように、世界トップレベルにまで達しています」
林さんプロフ
林由恵/2008年より、ハワイと同じ緯度にあるリゾートの島、中国、海南島へ移住。海南島の温暖な気候、おいしい果物、食事、そして地元島民の明るく暖かい人柄と中国の文化の面白さに魅せられ、自身のブログやさまざまなメディアで海南島を紹介。中国ヨガの会社にて通訳・翻訳の仕事をした後、現在は大学で日本語教師をしている。

命を懸ける高考(ガオカオ)テスト

「中国の教育システムは、日本と同じ6・3・3制ですが、日本と大きく違うのは、大学別に実施する受験がなく、高考(ガオカオ)という18歳で受けるテストによって進む道が決まるということ。
テスト
※写真はイメージです(stock.adobe.com/xy)
ガオカオは、中国古代から続いている官僚登用試験『科挙(かきょ)』の現代版。学力があれば身分に関係なく出世できるこのテストは、貧富の差が激しく不公平な社会で唯一公平なもの。国民全員が受験資格を持っています。

中国の格差社会のなかで這い上がるには、唯一テストで勝ち抜くしかありません。ですから、毎年6月7日と8日の2日間に渡って実施されるガオカオは、“テストに人生のすべてをかける"というほど中国の人々にとって重要なテストなのです。

暗黒の6月とも呼ばれるこの時期は、中国全土の1000万人の18歳が、あふれるほどのペーパーテストを受けて勉強を追い込んでいますが、なぜ、これほどまでにガオカオに懸命に取り組むかというと、全ては、『国家重点大学』と呼ばれる北京大学、清華大学、中国人民大学、復旦大学といった政府認定の超難関校に入ることが目的にあるから。

日本のセンター試験の志願者は、平成31年が約57万人に対し、ガオカオはおよそ1031万人。そうすると大学は決まっているので、人口を加味しても凄まじい倍率。ですから、子どもたちは、1点でも高い点数を取ろうと、勉強、勉強、勉強の日々を送っています」
マークテスト
※写真はイメージです(iStock.com/smolaw11)
テスト内容は、全員が強制受験をする「国語・数学・外国語」の3科目(150点×3)と、文理選択で「文科総合(歴史、地理、政治の総合問題)」あるいは「理科総合(物理、化学、生物の総合問題)」(各300点)の合計750点で構成されています。

さらに、国語の古文は、丸暗記できているのが前提だと林さん。BtoBのECサイト運営でアマゾンと並ぶ企業、アリババ創始者のジャック・マーでさえ3回受験したことから、ガオカオの難易度が私たちの想像を遥かに超えていることがわかります。

「安定志向が強い中国で、子どもたちに一番人気の職業は公務員。よい大学に入り、よい会社に入って高いお給料をもらうことがいいという価値観は、日本と通じる部分もあるのではないでしょうか」

個性を伸ばすより勉強の時間を積み重ねる

中国の学校では、個性を伸ばすというよりも、詰め込み型の暗記方式の授業がスタンダード。小学校の授業は夕方くらいまでしかありませんが、放課後も学校に残って勉強をするため、中国の子どもたちは夜10時頃まで自習をしています。

「3日に1回小テスト、週に1回大きなテストというように、テスト回数が多いのも大きな特徴ではないでしょうか。テストの結果を一番重要視する中国では、『考えてみましょう』『なぜそう思うのですか』というグループワークやディスカッションといった授業は行いません。

教師は、子どもに対して『試験に受かるためにはこうやるといい』『がんばりなさい』という関わり方をします。先生も親も、1番気になるのは子どものテストの点数。ですから、中国では、“偏差値が高い学校=いい学校”であり、“いい先生=テストでよい点が取れるようにしてくれる先生”という考え方をします。

個性を伸ばすという概念がほとんどなく、学習量を重視する中国では、宿題の量は、日本と比べると圧倒的に多いんですよ。中国では、リュックを背負った子どもたちが、バスの中で宿題をする光景をよく目にしますが、何も珍しいことではありません。
バスに乗る子ども
※写真はイメージです(Monkey Business Images/Shutterstock.com)
暗記力に長け、教科書もあっという間に覚えてしまう子どもたちは、教科においては、数学と理科が、時間をかけて詰め込んでいる分、特に強いですね。なかには、全世界数学コンテストや、数学オリンピックで上位という実績を持つ子もいますし、それを目指すという子も。

高校からは寮に入って、寝泊りしながら勉強をする日々が始まります。宿舎には帰って寝るだけ、それ以外はほぼ勉強という生活ですから、平日には塾には行かず、土日に塾通いをしています」

海外留学でグローバルエリートを目指す道も

中国では、重点大学を目指す一方、海外留学をする選択肢もあると林さん。毎年多くの学生が海外留学をしていて、早いと小学生から留学するという家庭も。

「海外留学は、特に富裕層の家庭が多いですね。行き先は、アメリカやオーストラリア、イギリスやニュージーランドなどさまざま。もちろん日本に留学する子もいます。
卒業
※写真はイメージです(iStock.com/f11photo)
中国の教育で暗記は得意になるものの、個性や創造性を育むことが難しい。そのために中国の教育で得られない非認知能力や、創造性を求めて海外留学に行くのです。

また一方では、高考(ガオカオ)を受けるより、海外に行く方が楽だという考え方も。成績がミドルクラス以下の子どもたちが、日本の難関大学にポンポン合格していく姿を見ると、いかに中国の学力が高いかを感じさせられます」

海外での留学後、中国に戻ってきた若者には、政府が用意するインセンティブや起業の支援を受けることができます。

アメリカと中国の貿易戦争にも登場する通信機器メーカー・ファーウェイや、「ウィーチャット」に代表されるSNSの開発・運営などを手がけるテンセントなどが拠点を構える“アジアのシリコンバレー”と呼ばれる広東省深圳市(深セン)で成功を収める若者も。
深セン
深圳(iStock.com/stockinasia)
「子どもたちは、そのような競争社会に揉まれながら、厳しい実力社会で生き抜くために、国内においても、海外においても、勉強にかける努力を惜しみません。そうした過程で得た揺るがない学力という武器を手に、トップエリートまで登り詰めていくのです」
<取材・執筆>KIDSNA編集部
<連載企画>世界の教育と子育て バックナンバー

2020年07月10日

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