KIDSNA編集部の連載企画『天才の育て方』。#09は三橋優希にインタビュー。未踏ジュニアスーパークリエータに選ばれた彼女は、15歳にしてスマホ向けアプリを開発。プロ顔負けのアイデアとプログラミング技術が育まれた背景に迫る。
「開発のベースは、自分が使いたくて人の役に立てるもの」
「悔しがっていても仕方がない、私はとにかく手を動かすだけ」
2020年度から小学校でプログラミングが必修化される。それに先立つように子どもを対象としたプログラミングの教室やイベントは年々増えている。
彼女はその変化の中で、自身の才能を弱冠15歳という若さで開花させた。彼女をアプリ開発へと掻き立てたベースには何があるのだろうか。
ーーまず、開発中のアプリ「UTIPS」について、なぜそのサービスを思いついたのか教えてください。
優希「『UTIPS』は、家事のやり方を共有するアプリです。
うちは家族みんなで家事全般をやるのですが、知人の家でうちとは違う家事のやり方を見たのをきっかけに、いろいろな家事のやり方を知りたくなりました。でも、ネットで検索しても大掃除などの特別な家事はたくさん出てくるのに、日常的に活用できる家事のアイデアは見つけられなかったんです。
自分以外にも、ライフスタイルに合った家事の方法を知りたい人はいるはずだし、みんなでそれを共有できれば、困っている人も助かると思いました」
ーー今回のプロジェクトでは半年間開発を続けられていたそうですが、その間のモチベーションはどのように保ったのでしょう?
優希「毎週行われていた未踏のプロジェクトマネージャーさん(以下、PM)とのミーティングで、このサービスをどうしていきたいか、みんなにどのように使ってもらいたいかなど、さまざまな内容を話し合ってきました。その度に、きちんと開発しようという気持ちになるんです。
一人で進めていたら、途中でやめていたかもしれないけど、それがあったから続けられました」
ーーそもそもプログラミングに興味を持ったきっかけとは?
優希「小学6年の頃、父が『SCRATCHというものがあるらしいよ』と教えてくれたのが始まりです。
最初は興味がなかったのですが、私でも簡単に作品を作ることができると知って、自分で描いた絵のアニメーション作品を作り、SCRATCH上のSNSに上げていたら、たくさんの人が『いいね』をしてくれるようになったんです。
その頃、同じホームスクールの友だちはみんな熱中できる趣味を持っていました。でも私にはそういった趣味がその時なくて『何もしていない、どうしよう』と思う日々が続いていたんです。
その分、褒められたことが嬉しくてモチベーションが続いたのだと思います」
ーーアプリやゲームを作るときベースにある想いとは?
優希「便利で楽しい、みんなが笑顔になれることをコンセプトにしています。
でも、実は自分のためです(笑)。
自分が使いたくて、他の人の役に立てそうなもの、という想いをベースに作品を作っています」
ホームスクールを決めたとき、「自分のことは自分でする」を家庭方針として定めたという。今では優希さんの弟妹も一緒になって、時には好きな家事を取り合いながら、みんなで取り組んでいるそうだ。
その経験があるからこそ「UTIPS」は誕生した。
ホームスクールでは時間を効率よく使えるメリットがある一方で、勉強の進み具合や生活時間を常に管理する必要があり、親の協力や自己管理は欠かせない。
プログラミングや開発にも勉強時間が必要となる中で、どのような意識を持ち過ごしてきたのだろうか。
ーー学業と開発を両立させるために、タイムマネジメントで工夫していることは?
優希「できる限り、学業の時間を効率よく短縮したいと思っています。
早起きして、家事とその日分の学業を終わらせれば、朝ごはんを食べ終えてから夜眠るまでを自由時間に充てることができるんです」
母「プログラミングを始めてからは、親が口を出す前に家事も学業も終わらせるようになりました。
コンテストや開発が立て込んでいる時期は予定通り進まないこともありますが、1カ月の中で帳尻を合わせるように進めています」
ーー忙しい印象を受けますが、遊ぶ時間はどのように作られているのですか?
優希「プログラミングや開発は、いつまでに何をするかスケジュールを決め、それに合わせて調整していますが、開発と親しい人との交流、どちらを優先するかは悩むことも多いです。
友だちと今遊ばないまま成長してしまったら、遊ぶ機会が減ってしまう、遊び方が変わってしまうと思うし、弟や妹も大きくなったら一緒に遊んでくれなくなりそう。
なので、どちらを優先するかはその都度考えて、自分にとって大切な方を優先しています」
やりたいことをやるために、自らスケジュールを調整し時間を作る。大人顔負けの調整能力を身につけた優希さんだが、友だちや弟妹と遊ぶ時間を優先したい気持ちには中学生らしい一面も見られた。
学業とプログラミングの専門知識を同時進行で習得するには、強い動機とモチベーションが必要だろう。
彼女は“学ぶこと”に対し、どのような意識を持っているのだろうか。
ーープログラミングを書くうえで英語は必須だと思いますが、どのように勉強されていますか?
優希「英語はプログラミングのためというよりも、自分の世界を広げてくれるためのものと考えています。
SCRATCHでは英語でコメントのやり取りをするし、今年5月にアイルランドで開催されたCoolest Projectsという作品展示会に参加した時も、英語ができれば自分の作品をもっと伝えられると改めて思いました。
もちろん、プログラミング関係は英語の解説が圧倒的に多いし、英語で検索したほうが情報も出てきやすいので、英語が話せたら楽しそう、必要だと感じています」
ーー英語を学ぶために特別な勉強はしていますか?
優希「ラジオ英会話を毎日聞いています。もともと英語はあまり得意ではなかったし、ホームスクールの科目とラジオ英会話しかやっていませんが、今ではテストで一番点数が取れる科目になりました」
「つくりたい」想いに忠実に向き合い、そのための情報を自ら集め才能へと変換する。その力はどのような教育のもと身に着いたのだろうか。
学業スタイルが特異である分、両親からの教えや関わり方が大きく影響するように思えるが、母としてどのような意識をもって子育てに向き合っていたのだろうか。
ーープログラミングは独学で勉強されているそうですが、習い事はしていましたか?
母「体力をつけるために水泳には通っていましたが、それ以外は習わせようと思ったこと自体ありませんでした。幼い頃からお絵描きが好きでしたが、絵画教室に通わせようと考えたこともなかったですね。
基礎など身に着かなくてもよいから、好きなように、自由に描いてくれれば、と思っていました」
ーー何事においても自由にやらせよう、というスタンスですか?
母「そうですね。なるべく『ノー』と言いたくないと思っています。
実は以前、大人がやったほうが早いという理由で子どもの『やりたい』を抑えてしまっていた時期がありました。自分の都合を押し付けていると反省して、優希が7歳の頃からは、本当に危険なこと以外は、なるべく『いいよ』と言うように意識してきました。
ただ、今では行動範囲が広がり、何でも『いいよ』と言えないのが正直なところです。
なので、やりたいと言われたら『どうやったらできるか調べてみて』という風に自分で考えるように促しています」
ーーお互いの意見が合わないときは、どのように解決されているのですか?
母「とにかく話を聞きます。やりたいことに対してどれくらい強い想いを持っているのか。何のためなのか、他に方法はないのか。
説得ではなく、どちらかが納得するまで、あるいはお互いに譲り合った真ん中で折り合いをつけられるまで話し合い、解決しています」
優希「時間がかかっても、とことん話し合います。表向きだけ納得してみせることもないし、理不尽な想いもしたことはないですね」
母「最終的には父親の判断にゆだねることもありますが、そこでもお互いが納得することを大切にしています。考えを整理するために5W1Hで考えてみようと、紙に書き出したり。マインドマップを持ち出して話し合うこともありますよ(笑)」
優希「父からは、問題を解決するときだけでなく、やりたいことはなんでも書き出すように教えられています。
なので、私はアイデアを思いついたら、すぐにデザインを描きます。すべてを形にすることはできませんが、ボツにしたアイデアもしばらく経ってから見返すと面白いこともあるので、とにかく書き出すし、すぐに作り出すようにしています」
母「ダメな理由を考えて諦めるのではなく、とにかく何でも、やりたいと思うことは全部書き出してごらん、と教えています」
優希「私はCoderDojoというプログラミングクラブでメンター(サポーター)をしていますが、ニンジャ(参加者)をサポートする時にも『一度考えを整理してみよう』と、紙に一緒に書き出すようにしています。
技術的なやり方を教えるのは簡単ですが、それをしすぎてしまったら、その子の作品ではなくなってしまいます。だから、自分がやってきた方法を使いながらサポートに徹するようにしています」
優希さんは弟妹に対しても「姉弟というより、仲間」と考えているという。それは、「弟妹が自分より優れている部分がいっぱいあるから」。
この想いを持てるのは、両親からの教えの中で、相手を尊重する気持ちを育んできたからこそだろう。
夢中になれることを見つけてからアプリを開発するまでは、わずか1年。この短い期間の中で自らタイムマネジメントを行い、学業と専門知識の習得を両立し、イベントへの参加や遊びの時間も確保して、やりたいすべてのことを自ら叶えてきた。
若き天才クリエータは、自分自身をどのように捉えているのだろうか。
ーー優希さんが「この人は天才!」と思う人はいますか?
優希「天才というか、憧れの人は、未踏ジュニアPMの安川さんです。Ruby on Rails公式ドキュメントの日本語訳をした方で、プロジェクトでは私の担当をしてくれていました。
安川さんはとにかく仕事が早くて、すごく優しいんです。相手のことをとても考えているし、気配りもしてくれました。
安川さんが学生の頃に作った災害用アプリがあるのですが、思いついてから一日も経たずに完成されたと聞いて、驚きました。技術ももちろんですが、人としてもすごく尊敬しています。
いつか私も安川さんのようになりたくて、まずは目の前のことを一つずつこなしているところです」
ーー優希さんよりも年下で高い技術を持った子もいると思いますが、焦りやライバル心を持ったことは?
優希「ないですね。みんなそれぞれの個性を持っていて、得意分野もある。誰かにライバル心を燃やすよりも、過去の自分より今日の自分が成長しているといいな、と思っています。
それに、悔しがっていてもどうしようもないんですよね。とにかく手を動かすしかないので。
すごい人のことは、ただ単純に尊敬したい。その方が気持ちの上でも楽です。年齢などに関わらず、素直に『すごい』と思いたいですね。
ただ、憧れの人が他の子を褒めているのを見ると、自分も褒められたいな、とは思います(笑)」
ーー優希さん自身はなぜ天才なのだと思いますか?
優希「自分のことを「天才」とは思っていませんが、そう評価していただけることは嬉しいです。
今の自分があるのは好きなことができる環境があったからです。それは、自分で好きなことを見つけられるように、時間と機会を与えてくれた両親のおかげだと思っています」
ーー好きなことをやるため、形にするために論理的に考えられる力は、大人顔負けに感じます。
「物事を筋道立てて考え、やりたいことを解決するためにどうすればよいかを考えるのは、やりたいことがあってこその思考だと私は思っています。
自分が特別に持っているものではなく、誰もが持っていて、それぞれの分野で活かしている力だと思います」
取材中、まだあどけなさの残る柔らかな雰囲気とは対照的に、母親の説明を制し「自分の言葉で伝えたい」と主張できる意思の強さを見せてくれた。
「すべての経験が今に通じている」と語ってくれたとおり、彼女はさまざまな想いと出会い、出来事を吸収してきた。それによって身につけた論理的思考とプラスへと舵をきる力は、今後も私たちの生活に役立つアイデアを開発へと繋げていくことだろう。
<取材・執筆・撮影>KIDSNA編集部
2018年12月07日
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