注目される産後うつ。リスクが高まる心の変化にどう向き合うべきか

注目される産後うつ。リスクが高まる心の変化にどう向き合うべきか

出産後、誰でもなり得る産後うつ。新型コロナウイルスの流行が及ぼす産後うつへの影響も懸念されます。今回は、コロナ禍で産後うつが心配されている現状や、うつにかかりやすい人の特徴、夫婦で産後うつにどう向き合うかについて詳しく解説します。

笠井靖代(日本赤十字社医療センター)

産後のメンタル相談が増加傾向

ただでさえ大変な時期の産後。そこへ新型コロナウイルスという問題も重なり、妊娠中から不安を抱える方が増えています。産後うつの原因や日本周産期メンタルヘルス学会が実施した実態調査について紹介します。

産後はうつリスクが高まる

産後は、出産に伴う心身の変化、慣れない育児の開始、母親になることへの不安や大きな環境の変化により、うつのリスクが高まる時期と言われています。

産後の心の不調の原因としては、妊娠中に分泌量が増えるエストロゲンというホルモンが出産後に急激に低下することや、育児に伴う体力の消耗、睡眠不足、産後のサポートが十分でなく母親がひとりで育児の責任を負う環境などが影響すると考えられています。

産後うつでは、抑うつ的な気分に加えて、不安感や、母親としてうまく育児ができていないという自責の念、不眠や食欲低下などの身体症状や、なかには自分自身を傷つけるといった深刻な症状が現れることもあります。
iStock.com/Jelena Stanojkovic
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ところが、母親になったプレッシャーからうつ症状に気づかず、無理を重ねるうちに症状を悪化させてしまうことも少なくありません。また、産後は小さな命を守るために緊張感が伴うこともあり、神経質になりやすくなっています。子どものためとはいえ、自分を犠牲にしてまで無理をしないように注意が必要です。

本来のサポートが受けられない状況が課題

さらに現在は、コロナウイルスの影響で、不安を訴える母親が増えています。今年3月~6月に行われた日本周産期メンタルヘルス学会の調査では、医療関係者の約3/4が、妊婦や経産婦からメンタルの不調に関する相談を受けており、その中の8割がコロナ禍に関わる相談でした。

相談内容は、「本来のサポートを受けられない」、「感染が不安で外出受診ができない」、「不安で憂うつになった」が多く、「家庭内の不和」も注目されました。入院中の面会の禁止や外泊の禁止に準ずる措置をとった医療機関は9割以上で、このことによって3/4の患者は大きな心理的ストレスを感じていました。孤独を感じながら出産を迎えざるを得なかった母親が多い状況であることが伺えます。
iStock.com/fizkes
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令和元年の厚生労働省の統計データによると、今年8月の自殺者数の女性の割合が昨年に比べ4割増えているという結果も懸念されています。
出典:COVID19 の感染拡大にともなう妊産婦のメンタルヘルスに関する実態調査/日本周産期メンタルヘルス学会

出典:自殺の統計:最新の状況/厚生労働省

出典:妊産婦や乳幼児に向けた新型コロナウイルス対応関連情報

産後うつは他人事ではない

産後うつは誰でもかかってしまう可能性のある病気です。どのような人がかかりやすい傾向にあるのでしょうか。

まじめな人ほど注意が必要

一般的に、うつ病になりやすい人の特徴として、生真面目、几帳面、責任感が強く仕事熱心というのがあります。これらの性格の人は、体調を崩すほど無理をして赤ちゃんの面倒や家事・仕事をしてしまうなどの我慢強い傾向があり、知らず知らずのうちに心を疲弊させていきます。

また、心配をかけたくないという理由で、家族やママ友に相談できないことや、人間関係で人一倍悩んでしまいストレスを抱えやすいということも理由のひとつとして挙げられるでしょう。

さらに、生活リズムが乱れている人もうつになりやすい傾向が。規則正しい生活や、日中は太陽の光を浴びる、バランスのよい食事をとる、適度な運動をするといったことがうつ病予防になりますが、新生児期は外出しにくいため、ままならないことも多いのではないでしょうか。

まだまだ日本では、潜在的に母性神話が残っています。母親は自分のことよりも子どもを優先しなければならない、母親なのだから育児を完璧にこなさなければいけない、という考え方は危険です。子育てへの不安や疲労の蓄積で産後はうつ状態になりやすいため、こまめに休息を取る、赤ちゃんを誰かに頼んで短時間でも自由になれるひとりの時間を作るなど休む工夫をしましょう。

男性の産後うつも

産後うつは女性だけがなるものではありません。厚生労働省によると、すでに父親の約1割が産後うつの傾向にあるという結果も出ています。
iStock.com/Tzido
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近年、男性の子育てへの関わり方は変容しており、仕事と両立しながら積極的に育児にも参加したいという父親が増えつつあります。そうすると、父親も母親と同じように、無理をしすぎることで、産後うつになる可能性が。

父親が育児参加に協力的でないがゆえに、苦しむ母親が一定数いるのも事実ですが、産後うつは女性だけがなるものという認識を持つのは危険です。厚生労働省は現在、男性の産後うつについての実態調査も行っており、支援や対策などの検討をすすめています。
出典:父親の仕事と育児両立読本/厚生労働省

出典:厚生労働科学研究費補助金公募要(一次)/厚生労働省

産後うつはひとりで抱え込まない

産後うつの代表的なスクリーニングテストに、イギリスの精神科医が開発した「エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)」があります。このテストは、調査時1週間の状態を審査することができるだけでなく、そのときに抱えている問題点を発見する意味も兼ねています。

以下の10項目について、いつもと同様にできた(0点)/あまりできなかった(1点)/明らかにできなかった(2点)/全くできなかった(3点)の4つの回答から最も当てはまる答えを選び、合計点数が30点満点中、9点以上の場合はうつ病の可能性が高いと判断されます。最終的な産後うつの診断は、他のうつ病の診断基準に基づき精神科医が行います。

1. 笑うことができたし、物事のおかしい面もわかった。
2. 物事を楽しみにして待った。
3. 物事が悪くいったとき、自分を不必要に責めた。
4. はっきりした理由もないのに不安になったり、心配した。
5. はっきりした理由もないのに恐怖に襲われた。
6. することがたくさんあって大変だった。
7. 不幸せなので、眠りにくかった。
8. 悲しくなったり、惨めになった。
9. 不幸せなので、泣けてきた。
10. 自分自身を傷つけるという考えが浮かんできた。
出典:周産期メンタルヘルス コンセンサスガイド 2017 初版/日本周産期メンタルヘルス学会
iStock.com/eggeeggjiew
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相談先は、出産した病院や、各自治体が設置している子育て支援センター、地域の保健センターがよいでしょう。あるいは、心療内科、メンタル科のクリニックで産後うつの対応をしてくれるところで相談することも可能です。ひとりで抱え込まないようにすることが大切です。

夫婦単位での対策が重要

産後うつは、ひとりでどうにかできるものではありません。そのため、パートナーや家族と協力することがかなり重要です。

産後の知識を持ち、対話を重ねる

iStock.com/Cunaplus_M.Faba
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産後は、出産前とは異なり、夫婦関係やライフスタイルが大きく変わるだけでなく、場合によっては、出産後に夫婦仲が悪化する「産後クライシス」が起こるケースも。

ですが、この時期の夫婦関係は、今後の子育てにおいて土台になるもの。そのため、夫婦で対話を重ねることが非常に重要になります。対話の際は、お互いの意見を主張するのではなく、一緒に子どもにとって最適な家庭環境作りをするという共通の目的を持って前向きな話し合いをしましょう。感謝の気持ちをお互いに伝えることも大切です。

また、母親自身だけではなく家族が、産後に起こる母親の心身の変化や、産後うつについての知識を持つことも重要です。母親が何に困っているか、何に不安を思っているか、という気持ちを知っておくと適切なサポートがしやすくなるでしょう。

休息がとれるサポート体制をつくる

産後は、心身ともに不安定で赤ちゃん優先になりやすい時期ですが、出産による体のダメージも大きいため休息が大切です。育児は母親だけの仕事ではありません。父親ができる赤ちゃんの世話や家事などのサポートは、積極的に協力しましょう。
iStock.com/miodrag ignjatovic
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また、「頑張って」という言葉がプレッシャーになり、うつを悪化させる場合も。気分が落ち込む様子がみられるときは、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を取り入れるなどして気分転換を行いましょう。体を動かすと、脳の神経伝達物質のひとつであるセロトニンが活性化して、ポジティブな気分になります。

母親が誰にも頼れないワンオペ育児の場合は、特に孤立しやすく産後うつのリスクも高まります。産後の心や体に異変を感じたら、まずは体調を回復させることを優先し、自分を追い込む前にとにかく休息をとりましょう。

監修:笠井靖代(日本赤十字社医療センター)

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笠井靖代(日本赤十字社医療センター)

笠井靖代(日本赤十字社医療センター)

日本赤十字社医療センター第二産婦人科部長。 医学博士、産婦人科専門医、臨床遺伝専門医。 日本周産期メンタルヘルス学会理事。1988年、東京医科歯科大学医学部卒業。東京大学大学院医学系研究科修了。米国留学を経て、現職。専門は周産期、出生前相談。専門医としてだけでなく、自ら40歳で出産した経験から、多くの妊婦さんに妊娠・出産への不安や悩みに応えている。NHKの子育て情報番組『すくすく子育て』コメンテーター。著書に『35歳からのはじめての妊娠・出産・育児』(家の光協会)など。

2020年11月27日

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