小泉八雲の"息子"すら理解不能…「ばけばけ」妻セツだけに通じた、英語+日本語+出雲弁がまざる「神秘の言葉」

小泉八雲の"息子"すら理解不能…「ばけばけ」妻セツだけに通じた、英語+日本語+出雲弁がまざる「神秘の言葉」

NHK「ばけばけ」では、ヘブン(トミー・バストウ)が辞書を引きながら、妻のトキ(髙石あかり)と会話するシーンが描かれている。モデルとなった小泉八雲とセツは、どうだったのか。ルポライターの昼間たかしさんが、文献などを基にひも解く――。

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1889年のラフカディオ・ハーンの写真(写真=Gutekunst/PD US/Wikimedia Commons)

“子供たちさえよく解らない”八雲とセツの会話

NHK朝の連続テレビ小説「ばけばけ」。ヘブン(トミー・バストウ)とトキ(髙石あかり)の夫婦の会話は常に微笑ましい。とりわけ、ドラマの特徴となっているのがヘブンの言葉。時には辞書を引きながら日本語で話すシーンが、そして、英語でまくしたてて字幕が流れるシーンが現れる。

こうしてみると気になるのは、八雲とセツの夫婦がどのように会話をしていたかということだ。常に英語を解する人が傍にいるわけではない。

そんなコミュニケーションが不自由な中で、夫婦が生み出したのが「神秘の言葉」であった。詩人・萩原朔太郎は随筆「小泉八雲の家庭生活」の中で、こう記している。

夫婦の会話は女中や下僕にはもちろんのこと、子供たちさえよく解らなかった。「内のパパとママとは、誰にも解らない不思議な言葉で、誰にも解らない神秘のことを話している」と、学校へ行っている男の子が、自慢らしく仲間の子供に語ったほど、それは別世界の会話であった。

(萩原朔太郎『萩原朔太郎全集』第10巻 小学館、1943年)

言語習得より「日本文化の本質を掴むこと」を優先

それは、まさに夫婦の愛が生んだものであった。

実のところ、日本を愛した八雲であったが、日本語の習得となると話は別だった。体系的に学ぶことはなく、生涯、正確な日本語を身につけることはなかった。

理由は明快だ。仕事以外の時間は日本関係の著作執筆に没頭。そもそも人付き合いが得意ではなく、交友関係も限定的。これでは上達のしようがない。

来日時、八雲は既に40歳。今さら一から日本語を学ぶより、「ある程度会話できれば十分。あとは翻訳や通訳に任せればいい」と割り切っていたのだろう。それよりも、日本各地への訪問や取材に時間を使いたい……そんな八雲の優先順位が透けて見える。

考えてみれば、合理的な判断だ。限られた時間で何を優先するか。八雲は「日本語の完璧な習得」ではなく、「日本文化の本質を掴むこと」を選んだのである。

だが、そう割り切れないのが夫婦生活というものだ。日々の雑事について話さなければならない。それに、言葉が通じなければ愛情だって十分に伝えられない。何より……肝心の怪談が理解できないではないか‼

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