「高齢者は血圧が高くてもいい」を本気にしてはいけない…医師が警鐘「無症状だからと放置」で起きる怖いこと
脳出血、心筋梗塞、慢性腎臓病、血管性認知症…
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高血圧は症状がないことが多く、きちんと治療せず放置してしまう人もいる。内科医の名取宏さんは「高血圧の治療は、重大な疾患を予防するためにとても重要。適切な治療を受けてほしい」という――。
症状のない高血圧の何が問題か
高血圧は患者数が多く、また家庭でも容易に測定できることから、多くの人の関心を集めやすい疾患といえるでしょう。週刊誌やウェブ記事にも、頻繁に取り上げられています。しかし残念ながら、医学的に正しい情報より、「血圧200を5年間放っておいたが問題なかった」といった極端な話のほうが人気があるようです。
そもそも、高血圧は何が問題なのでしょうか? 高血圧の方の多くが自覚症状もなく、ふだんの生活には何の支障もありません。ところが、高血圧の人は、そうでない人に比べて、脳出血や心筋梗塞といった命に関わる病気をはじめ、慢性腎臓病や網膜症、さらには血管性認知症などのリスクが高くなることがわかっています。
いまだに「収縮期血圧は年齢プラス90が目安」「高齢者は血圧が高くてもよい」といった説を見かけることがありますが、これは何十年も前の知識です。現在では、複数の疫学調査によって、高齢者においても高血圧はさまざまな病気のリスク因子になることが明らかになっています。そのため、現時点では、診察室で測定した血圧が「収縮期140mmHg以上」または「拡張期90mmHg以上」であれば、高血圧と診断されるのです。
昔より基準値が厳しくなった理由
高血圧の治療の目的は、将来の脳血管障害や心血管系疾患による死亡や生活の質の低下を防ぐことです。どの程度の高血圧を治療するかは、臨床試験の結果を踏まえて判断されています。リスクが低い人ほど治療から得られる利益は小さくなるので、副作用や費用対効果の面からどこまで治療するかは議論があってもよいでしょう。
ただ、基準値や治療目標が厳しくなってきたことに対して、「製薬会社の策略だ」「医者が金儲けするためだ」と断じる声もありますが、そうではありません。基準値が厳しくなったのは、疫学研究や大規模臨床試験の結果から、以前は正常とされていた血圧の範囲でも、心血管疾患などのリスクが高まることが明らかになってきたからです。
だいたい、降圧薬はさほど高価な薬ではありません。後発品であれば、1錠あたり10円未満のものも多く、費用負担は比較的軽い部類に入ります。こうした薬代を削って医療費を節約しようとしても、高血圧によって起こる病気が増えれば、かえって医療や介護にかかる費用がふくらむでしょう。特に脳血管障害の場合は、一命をとりとめても後遺症が残ることが多く、介護負担が長く続くかもしれないという現実を忘れてはなりません。