薬の山の中から分厚い"銀行封筒"が出現…どんどん深刻になる認知症80代母が隠していた「福沢諭吉の枚数」
介護に奔走する60代娘の骨密度は老母と同じだった
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【前編】おびただしい数の「ハッピーターン」の外袋が散乱…認知症疑いの母がゴミを溜めに溜め捨てられなかった理由 認知症が日々悪化する80代の母親は「女の子とお母さんが来てたでしょ?」と真顔で答えるなど、幻覚を見ることもしばしば。保険証や財布など大事なモノをよくなくすようになった。ある日、60代娘は山のような薬の中から、厚みのある銀行の封筒を発見する。その中に入っていたのは――。(後編/全2回)
【前編のあらすじ】中部地方在住の七尾純子さん(仮名・60代)は25歳の時に、勤務先の小売業の会社に出向してきた22歳の男性と出会い、社内恋愛を経て26歳で結婚。2人の子どもに恵まれた。しばらくして、次男の中学校の入学式に両親が参加した1週間後の朝、父親は玄関で倒れ亡くなった。74歳だった。そして2018年の夏。85歳になった母親が「そろそろ1人暮らしは無理になってきた」とぼやくため、同居することを提案するが、気乗りしない様子。2022年の秋。89歳の母親が電話で、「最近家の掃除ができないので、どこかにお願いしたい」と言うので、要介護認定を受け、介護保険を申請。結果は要介護1で、すでに認知症が始まっていた――。 |
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タンス預金と石油ストーブ
中部地方在住の七尾純子さん(60代・仮名)はこれまで母親(90歳)の“タンス預金”のことには触れずにいた。だが、要介護1の認定を受け、実家にヘルパーさんが計4人出入りすることになり、「さすがに不用心ではないか?」と不安になった。
母親に「通帳はいくつある?」と訊ねたところ、「知らない」との返答。七尾さんが探したところ、全部で4行の通帳と10個の印鑑が見つかった。
これらを滅多に開閉しない「金庫にしまおう」と提案すると、一度は納得したものの、金庫を閉めた途端、
「やっぱり通帳を持ってないと不安だから出して」
と言い出す。
「なぜ出しておく必要があるの? 押し入れか金庫かの違いで家にはあるでしょう?」
と説得しても、本人は納得いかない様子。
「母は以前、転倒してから足が悪くなり、5分も歩けなくなっていました。なので仮に銀行に行くとしたら、私か弟が連れて行くことになるので、金庫に入れても何の問題もないはずです。それぞれけっこうな金額が入っているので、四六時中持たせておくのは危険すぎます。中でも、一番大金が入っている信金の通帳を『肌身離さず持ってるから金庫から出して』と懇願するのです。通常なら『馬鹿じゃないの? 襲われたり盗まれたりしたら全財産失うよ!』と怒鳴り散らすところですが、認知症の母に怒鳴っても意味がありません」
結局、3〜4時間ほど押し問答した挙げ句、一番残高の少ない銀行の通帳を1つ残し、後の3つは金庫にしまった。
また、母親はエアコンがあるのに石油ストーブを好んで使った。七尾さんは火事を起こさないか心配で「石油ストーブは使わないで!」と注意するが、こっそり使っているようだ。
2023年4月。暖かくなり、ストーブを使うことはなくなったが、ヘルパーさんと病院に行くたびに保険証をなくす。母親は5個以上の財布を併用していたため、どの財布に入れたのかを忘れてしまうようだった。
やがて、七尾さんは母親からの電話に怯えるようになっていく。なぜなら、話す内容が意味不明だったり、会話が通じなくなったからだ。
何度言っても忘れてしまうため、七尾さんの疲労感はすさまじい。
「何度言っても曜日を認識していないので、カレンダーにペケをつけていけば? と提案したら、『カレンダーが汚れるから嫌』と。汚部屋に住んでいながらよく言うよと呆れます。挙げ句の果てに、4人のヘルパーさんの顔を覚えられないから、『知らない人が来た!』と大騒ぎしたり、ヘルパーさんに部屋のものを触られることを極端に嫌がり、後をついて回っていちいち『あなた、今何してるの?』と聞いているらしく、ヘルパーさんたちが困っていました」
物盗られ妄想も激しく、保険証をなくすたびに「だから他人が出入りするのは嫌なのよ」とヘルパーさんを疑っていた。