スマホで超キレイな写真がすぐ撮れるのに…「チェキ」を売上1500億円超に育てた富士フイルムの経営術
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発売すぐにヒットするも2年で10分の1に急減
一枚の写真が記憶を鮮やかに蘇らせる。インスタントカメラ『instax チェキ』(以下、チェキ)は、感動を届ける製品として富士フイルムの業績を力強く支えています。2021年に私が社長に就任し、「チェキにも力を入れていく」と宣言した時は、コロナ禍で売り上げが落ち込んでいたため、投資家から疑問の声がありました。しかし、23年度には、チェキの売り上げは1500億円を達成し、イメージング部門の柱として確固たる地位を築いています。チェキの成功は、富士フイルムの祖業であるフィルム事業から生まれた革新と伝統の象徴として注目を集めていますが、その道のりは決して平坦ではありませんでした。
後藤 禎一(ごとう・ていいち) 富士フイルムホールディングス代表取締役社長・CEO。1959年、富山県生まれ。83年関西学院大学社会学部卒業後、富士写真フイルム(現・富士フイルムHD)入社。2020年富士フイルム取締役専務執行役員メディカルシステム事業部長などを経て、21年より現職。
チェキの初号機が誕生したのは1998年です。当時は「写ルンです」やプリクラのブームを背景に、瞬時に写真をプリントできるというユニークさが若年層にウケました。アイドルの滝沢秀明さんをイメージキャラクターに起用したことでも注目を浴び、2002年には年間販売台数100万台を超えるヒット商品になったのでした。
しかし、2000年代初頭にデジタルカメラや携帯電話のカメラ機能が急速に普及・進化したことで、チェキを含む銀塩フィルムの市場は縮小を余儀なくされました。ヒットから2年後の04年には販売台数が10万台程度に落ち込むほどの縮小ぶりでした。