首都直下地震「犠牲者最大2万3000人」は楽観的すぎる…地震工学の権威がはじき出した「最悪の被害シナリオ」
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首都直下地震が起こると、犠牲者はどれくらい出ると推定されるのか。山口大学名誉教授の三浦房紀さんは「国は2013年段階で、犠牲者は2万3000人と試算しているが、あまりに少ない。実際は10万人を超える死者が出るだろう」という――。 ※本稿は、三浦房紀『これから首都直下、南海トラフ巨大地震を経験する人たちへ』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
国がまとめた首都直下地震の被害想定
首都直下地震の被害想定は、過去何度も行われています。前回の被害想定は2013年12月にまとめられています。それから10年以上が経ち、その見直しをすべく、2023年から内閣府によって首都直下地震の再検討が行われています。
しかしながら被害想定結果の公表はまだ行われていませんので、ここでは2013年12月に、国の中央防災会議の中の「首都直下地震対策検討ワーキンググループ」が取りまとめた『首都直下地震の被害想定と対策について』(最終報告)にあるものを用いて説明を進めていきます。
このワーキンググループは、1600年以降の関東地方で起こった地震を詳細に調べ、それに基づき今後起こる可能性があるM7クラスの地震を19種類に分類して想定、そしてそれぞれに対して震度分布や予測される被害を算出しています。図表1にその19の地震の震源(活断層など)を示します。
国の試算「死者2万3000人」は少なすぎる
それら19の地震の中で最も被害が大きいと想定されるのが、「都心南部直下地震」で、その震度分布と震源となる断層の位置を示したのが図表2です。これによると地盤の軟らかい東京湾の沿岸部、そして荒川水系や多摩川水系周辺では内陸の方まで高い震度が分布しています。
この地震が「冬・深夜」、「夏・昼」、「冬・夕」の3つの季節・時間帯に起こったとして、原因ごとに死者数をまとめたのが図表3です。南海トラフ巨大地震との大きな違いは、津波による犠牲者がいないこと、その反対に火災による犠牲者が多いと予想されることです。
「冬・夕」に地震が起これば、最悪の場合約2万3000人の死者が出るという結果(表の⑦)になっています。この数字を皆さんはどう思われるでしょうか。
私は首都直下地震についても2万3000人の死者数では到底すまないと思っています。