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先進国で進む男性のHPVワクチン接種と10代でのワクチン接種の重要性
Profile
田園調布オリーブレディースクリニック院長/医学博士/東海大学医学部客員講師/日本産科婦人科学会専門医、指導医/母体保護法指定医/女性ヘルスケア専門医/日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医(腹腔鏡・子宮鏡)/日本内視鏡外科学会技術認定医/がん治療認定医
田園調布オリーブレディースクリニック院長/医学博士/東海大学医学部客員講師/日本産科婦人科学会専門医、指導医/母体保護法指定医/女性ヘルスケア専門医/日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医(腹腔鏡・子宮鏡)/日本内視鏡外科学会技術認定医/がん治療認定医
信州大学医学部卒業。東海大学医学部客員講師、日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医。長年、大学病院で婦人科がん治療、腹腔鏡下手術を中心に産婦人科全般を診療。2017年田園調布オリーブレディースクリニック院長に就任。患者さんのニーズに答えられる婦人科医療を目指し、最新の知識や技術を取り入れています。気軽に相談できる優しい診療を心がけています。
2020年12月から日本でも9歳以上の男性の接種が可能になったHPVワクチン。男性が接種することで女性へのHPVの感染を防ぐだけでなく、男性自身のさまざまながんも予防することが明らかになっています。
ヒトパピローマウイルス(以下、HPV)は、性交渉のある女性の実に50%が生涯に一度は感染するといわれ、子宮頸がんの原因の90%以上がHPVといわれています。
女性特有の子宮頸がんを予防するためのHPVワクチンの重要性については以前解説しましたが、実はアメリカやイギリスなど20以上の先進国で、男性も10代からHPVワクチンが定期接種に組み込まれていることをご存じでしょうか。
男性接種の効果と意義を知ることは、女児の保護者だけでなく、男児を持つ保護者のみなさんにとっても重要です。
HPVワクチンの基礎知識と必要性についてはこちらの記事もご覧ください。
男性もHPVワクチンを接種すべき理由
子宮頸がんの90%を防ぐといわれているHPVワクチン。
日本ではこれまで、HPVワクチン=子宮頸がんを防ぐためのもの=女性が接種すべきもの、という認識が一般的でした。
しかし、HPVは男性がかかるがんにも大いに関係していることが明らかになっています。
HPVワクチンが防いでくれる病気
日本国内の男性を対象とした臨床試験で、HPVワクチンは子宮頸がん以外に、
- 中咽頭がん
- 肛門がん
- 陰茎がん
- 咽頭がん
などのがんも防ぐことが実証されました。
とくに近年、先進国では咽頭がんの増加が指摘されており、HPVを原因とする咽頭がんの患者の25%近くは男性だといわれています。
HPVの感染経路は性交渉
HPVのおもな感染経路は性交渉。性交渉をすれば、男性から女性、女性から男性へと感染してしまうため、女性だけがHPVワクチンを接種するのは非効率的です。
そのため、男性も女性も初めて性交渉をする年齢までにワクチン接種をすることが理想的です。
2007年に12~13歳女子のHPVワクチン接種を定期接種化したオーストラリアは、2013年から男子にも拡大。結果、HPV感染が77%減少したというデータが報告されています。
世界中で進む男性のHPVワクチン接種
2020年12月、日本でもようやく男性の接種が可能となったHPVワクチン。
欧米では、2006年に女性、2011年から男性にも接種が推奨されるようになり、現在130か国で承認され、40か国以上の国で助成による接種がおこなわれています。
世界の男性のHPVワクチン接種率とその効果
ワクチン接種の効果として、2011年の接種スタートから2016年までに、世界のHPV感染率はなんと90%以上も減少しているという報告もあります。
なかでもHPVワクチン接種先進国のオーストラリアは、15歳時点の女性で80%、男性で75%の接種率を誇り、現時点で世界でもっともHPVワクチンの接種率が高い国となっています。オーストラリアのほかには、
- アルゼンチン
- イギリス
- アメリカ
- カナダ
- スイス
- イタリア
- オーストリア
- ノルウェー
- フランス
などの国々でも男性への接種を推奨しています。
アメリカでは、11~12歳の男子に対する定期接種が積極的推奨され、イギリスでは定期接種の対象で、25歳まで無償接種が可能です。
一方、日本では2013年に厚生労働省が女性へのHPVワクチンの「積極的な接種の勧奨」を中止し、一時は70%にものぼった接種率がわずか1%未満と低迷し、大きな問題となっています。
日本国内では年間1万人以上の女性が子宮頸がんと診断され、約3000人が亡くなっている現実を踏まえ、厚生労働省は2030年までにHPVの接種率を9割まで上げることを目標としています。
接種前に正しい知識を
HPVワクチンの種類や接種の際の懸念点などを押さえておきましょう。
2価ワクチン、4価ワクチンの違い
HPVの種類にはおもに
- 子宮頸がんや陰茎がんとなる高リスク型(HPV16型、18型)
- 尖圭コンジローマになる低リスク型(HPV6型、11型)
の二種類があります。
それらを防ぐHPVワクチンには
- 高リスクのみを防いでくれる2価ワクチンの「サーバリックス」
- 低リスク、高リスク合わせて防いでくれる4価ワクチンの「シルガード9」
があります。
日本では女性に対してはすべてのワクチンが承認されていますが、男性の接種が承認されているのはガーダシル4価のみです。
任意接種のため自己負担費用
現在は男性の接種は任意接種のため、費用は自己負担となります。価格はクリニックなどにより多少異なりますが、3回接種で5万円前後は必要。
詳しい価格については接種をおこなっているクリニックに問い合わせてみましょう。
任意接種とはいえ、万が一副作用などが発生した場合は、国からの補償を受けることが可能です。
また、国は今後公費で接種できる定期接種への追加を検討中です。
既往歴がある場合
以下の項目に当てはまる場合、ワクチンの接種ができないこともあります。
- 血小板減少症、凝固障害
- 心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患、発育障害等の基礎疾患
- 過去の予防接種で接種後2日以内に発熱及び全身性発疹等のアレルギーを疑う症状があった方
- 痙攣
- 近親者および本人の免疫不全
HPVワクチンの副反応
HPVワクチン接種後に現れる可能性のある副反応には以下のような症状があります。
- 注射部位の赤み、痛み、腫れ…10%程度
- 注射部位のかゆみ、出血、頭痛…10%未満
- 注射部位のしこり、筋肉の硬化、手足の痛み、腹痛、下痢…1%未満
このほかにも、
- 寒気
- 疲れ
- だるさ
- 血腫
- ふらつき
- 湿疹
- 筋肉痛
- 嘔吐
などの症状がみられることもあります。
さらにごく稀に
- 呼吸困難
- 気管支痙攣
- じんましん
- 麻痺
- 知覚障害
- 運動障害
などの症状が出ることも。そのような場合はすぐに医療機関にご相談ください。
ワクチンリテラシーを世界基準にするために
日本では現在、男性のHPVワクチンの接種は任意であり、強制するものではありません。
しかし、多くの先進国では男性の接種へ舵を取り始め、遅れながら日本もこれに続こうとしています。
男児の保護者にとって、HPVワクチンはこれまでどこか他人ごとだったかもしれませんが、子どもの将来のパートナーのためはもちろんのこと、男児自身にとっても、さまざまなリスクを軽減してくれます。
これらの話題をきっかけに、HPVワクチンの接種が先々の生活にどのような効果をもたらすのか、ワクチンの意義についてパートナーとも話し合ってみてはいかがでしょうか。
監修:杉山太朗
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杉山太朗
信州大学医学部卒業。東海大学医学部客員講師、日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医。長年、大学病院で婦人科がん治療、腹腔鏡下手術を中心に産婦人科全般を診療。2017年田園調布オリーブレディースクリニック院長に就任。患者さんのニーズに答えられる婦人科医療を目指し、最新の知識や技術を取り入れています。気軽に相談できる優しい診療を心がけています。
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