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外出自粛のストレスでPMSが悪化?メンタル不調が大きいPMDDも
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田園調布オリーブレディースクリニック院長/医学博士/東海大学医学部客員講師/日本産科婦人科学会専門医、指導医/母体保護法指定医/女性ヘルスケア専門医/日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医(腹腔鏡・子宮鏡)/日本内視鏡外科学会技術認定医/がん治療認定医
田園調布オリーブレディースクリニック院長/医学博士/東海大学医学部客員講師/日本産科婦人科学会専門医、指導医/母体保護法指定医/女性ヘルスケア専門医/日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医(腹腔鏡・子宮鏡)/日本内視鏡外科学会技術認定医/がん治療認定医
信州大学医学部卒業。東海大学医学部客員講師、日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医。長年、大学病院で婦人科がん治療、腹腔鏡下手術を中心に産婦人科全般を診療。2017年田園調布オリーブレディースクリニック院長に就任。患者さんのニーズに答えられる婦人科医療を目指し、最新の知識や技術を取り入れています。気軽に相談できる優しい診療を心がけています。
新型コロナウイルスの感染拡大を機に、多くの人が生活の変更を余儀なくされました。以前よりもストレスが増えた生活の中、生理前に頭痛や眠気を感じるほか、イライラしたり、悲しくなったりすることはありませんか?田園調布オリーブレディースクリニック院長の杉山太朗先生に、女性特有の症状「PMS」について聞きました。
ストレスと「女性特有の症状」の関係
新型コロナウイルスの流行から2度目の夏を迎えています。長引く外出自粛や、リモートワークなどの環境変化、感染リスクなど、多くの人がストレスを抱えていることでしょう。
女性の中には生理前になると、頭やお腹の痛み、むくみ、乳房が張ったりするほか、イライラしたり、眠気や集中力の低下、食欲不振や過食、倦怠感を感じやすくなったという人も多いでしょう。
このような生理前の症状……それはPMS(Premenstual Syndrome:月経前症候群)と呼ばれるものかもしれません。
女性をサポートする健康情報サービス『ルナルナ』の調査によると、新型コロナウイルス感染症の影響により労働環境への変化があったかをたずねたところ、60%以上の人が何らかの影響を受けていることがわかりました。
働く環境に変化があった人のうち、生理痛などの症状が悪化したという女性が30%にのぼったことから、女性特有の症状はストレスの影響を受けやすいことが読み取れます。
また、これらの症状は、コロナ禍で通勤や体を動かす機会が減ったことによる運動不足も関係があるようです。
運動不足に起因して体重が増え、生理前の頭痛や腹痛、倦怠感や情緒不安定といったPMSの症状が現れたり、以前より症状が重くなる人もいます。BMIの値が平均値より高い、つまり肥満傾向にある人の方が症状が出やすいことがわかっています。
毎月生理前になると現れる心と体の不調「PMS」
PMSが起こるしくみ
なぜ生理に関する症状が表れるのか、正確な原因は分かっていませんが、PMSは女性ホルモンの変動が関わっていると考えられています。
排卵のリズムがある女性の場合、排卵から月経までの期間(黄体期)にエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)が多く分泌されます。
この黄体期の後半に卵胞ホルモンと黄体ホルモンが急激に低下し、脳内のホルモンや神経伝達物質の異常を引き起こします。つまり変動するふたつの女性ホルモンが影響して、PMSを引き起こしていると考えられているのです。
卵巣から分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)の増減により、「GABAレセプター」という興奮を抑制する脳の受容体や、心の安定をもたらす「セロトニン作動性ニューロン」に影響がおよび、生理前になるとイライラするといわれています。
しかしその一方で、PMSは女性ホルモンの変動だけが原因ではなく、ストレスや、タバコやコーヒー、アルコールなどの生活習慣、真面目で几帳面な性格など、多くの要因から起こるとも考えられているのです。
200を超えるPMSの症状
主な症状は以下の通りです。
<体の不調:身体的症状>
- おなかや乳房の張り・痛み
- 頭痛や腰痛
- 肩こり、むくみ
- 体重増加
- めまい
- 肌トラブル
- 疲れ、だるさ
- 眠気または不眠
- 過食または食欲不振
<心の不調:精神的症状>
- 情緒が安定しない
- 憂鬱な気分になる、自己評価の低下、泣きたくなる
- 集中力の低下
- 家族や身近な人にイライラしてしまう
上に挙げた症状は、ほんの一例です。黄体ホルモンは体の中で、さまざまな現象を引き起こし、200を超える症状として現れるとされています。
たとえば、ホルモンの働きで水分を体に溜め込んでしまうと、むくみとなって症状が現れます。その水分が乳房に溜まれば乳房が痛み、頭に溜まれば頭痛になり、体全体に水分が溜まることでだるさや倦怠感となるのです。
黄体期に分泌されるプロゲステロンは、インスリンの効きを悪くすると考えられており、血糖値が上昇しやすくなります。
上がった血糖値を下げるために、いつもより多くのインスリンが分泌されるため、逆に血糖値が下がりすぎてしまうことがあります。
こうして下がりすぎた血糖値を上げようとして、身体が自然と糖分を求めてしまい、甘いものが食べたくなるなどの症状が出ることも。
また、生理前の黄体期には脳内のセロトニンの分泌が減少するといわれています。そうすると、疲れが取れにくかったり、ネガティブな思考になったり、情緒が不安定になります。
日本では、月経のある女性の約70~80%が月経前に何らかの症状を感じているようです。また、生活に困難を感じるほどの症状が出る人も5%ほどいるといわれています。
「排卵前から月経開始までの不調」がPMSのサイン
PMSは、WHOの国際疾病分類「ICD‒10」に記載されており、米国産婦人科学会(ACOG)ではこのような診断基準がきちんと設けられています。
- 前3回の月経周期において、月経開始前5日間のうちに1つ以上の身体症状、精神症状がある。
- 症状が月経開始4日以内に軽くなり、少なくとも月経周期13日目までに症状の再発がない。
- 症状の発症は、ホルモンの摂取や薬、アルコールの乱用によるものではない。
- PMSを疑ってからの後の、月経2周期にも症状の再現を認める。
- 日常生活に支障をきたしている。
出典:産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2020(176ページ)
American College of Obstetricians and Gynecologists: Premenstrual Syndrome.Guidelines for Women’s Health Care. A Resource Manual, Fourth Edition, 2014; 607―613(Guideline)
基本的にPMSは、毎月排卵前に症状が現れ、月経開始とともに症状が和らぐことが特徴です。そのような症状の周期が確認できたら、ほとんどの場合でPMSと診断されます。
また、PMSと似た症状を示す精神神経疾患でないことを確認するため、精神状態についても問診を行います。
メンタルへの影響が強く現れる「PMDD」
PMSの症状の現れ方は人それぞれです。PMSの症状の中でも、身体的症状は軽い一方で、精神的症状が重く深刻な場合はPMDD(Premenstrual Dysphoric Disorder:月経前不快気分障害)に該当します。
PMDDの場合は、症状が似ているうつ病などの精神神経疾患との見極めが難しいため、精神科医や心療内科医の診療が必要な場合もあります。
精神的症状が出ていると感じていても、「精神科や心療内科に行くほどではない……」と思われる方もいるかもしれません。
月経前にだけ精神的症状が重くなることがわかっている場合は、比較的診療を受けやすい産婦人科やレディースクリニックを受診してみるとよいでしょう。
婦人科の場合は、ピルの処方が主な治療法です。
年齢や本人の希望に応じてですが、脳内の活性物質セロトニンを維持するため、精神神経症状や自律神経症状に対しては精神安定剤や、セロトニンの再取り込みを阻害することでうつ症状の改善を計る抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害薬物療法)が処方されることもあります。
PMSと上手に付き合っていくためには
女性は、毎月訪れるホルモンバランスの変化を避けることはできません。PMSと上手に付き合っていく方法を探しましょう。
女性の強い味方「ピル」による治療
排卵が起こり女性ホルモンの大きな変動があることが、PMSのそもそもの原因です。そのため、排卵を止め女性ホルモンの変動をなくすことで症状が軽くなります。
少量のホルモン量で排卵を止めることができる薬は以下のふたつ。
- 低用量経口避妊薬(OC、低用量ピル)
- 低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)
これらの薬は副作用が少なく、服用中のみ一時的に排卵を止めるものなので、服用を止めるとすぐに排卵が回復します。その後の妊娠に影響することもありません。
日本では主に「ヤーズ」というピルが処方されています。
また、日本では現状「PMS」という診断でピルが保険適用されることはありませんが、少しでも生理痛などの症状がある場合には、「月経困難症」と診断されるため保険が適用される可能性があります。
保険適用については、クリニックに問い合わせて確認しましょう。
ピルを飲んでいる人はホルモン量が十分なため、更年期障害になりにくいとされています。ただし、40歳を過ぎたあたりから年齢とともに、ピルの使用により血栓症のリスクが上がるため、エストロゲンを補う飲み薬、貼り薬、塗り薬などを使用するホルモン補充療法へと移行していきます。
特定の症状を和らげる「漢方」
ピルは身体症状だけでなく精神症状にも効果が期待されていますが、本人の希望や体質によっては、漢方薬を使用することもあります。
たとえば、体力があまりない女性のむくみやめまいには「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」という漢方を用います。
そのほか、よく使用される漢方薬は以下の通りです。
- 加味逍遥散(かみしょうようさん)…イライラ、ほてり、月経不順など
- 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)…体格がよい人の頭痛、冷え、肩こりなど
- 桃核承気湯(とうかくじょうきとう)…貧血気味の人の便秘、めまい、月経困難など
- 抑肝散(よくかんさん)…神経の高ぶり、怒り、不眠など
症状記録をつけ、自分のリズムを把握
基本的に、婦人科ではピルによる治療を行いますが、日常生活のアドバイスを行うこともあります。
たとえば、症状の記録をつけること。PMSの症状と付き合うために、自分のリズムを理解し把握することで、セルフケアやリラックスの時間を意識的に作ることができるでしょう。
また、カルシウムやマグネシウムを積極的に摂取し、カフェインやアルコール、喫煙は控えたほうがよいといわれています。症状が重い場合には、仕事の負担を減らすことが治療になる場合もあります。
生理周期で不調を感じたら我慢せずに受診を
新型コロナウイルスの影響により、ストレス要因は増えています。PMSやPMDDはストレスとの相関関係があるとみられているため、この1年あまりで月経前の不調が重くなったと感じている人は増えているかもしれません。
しかし、症状の現れ方や重さは人それぞれで、他の人と比較することが難しく受診を控える女性も多いようです。
受診を控えると症状悪化につながることもあるほか、最悪の場合、不妊の原因や、子宮体がんなどの重い病気を見逃すことにもなりかねません。
PMSやPMDDは、「この症状が現れたら」というような、はっきりとした診断基準はありません。日常生活を送る中で、困っていたり大変だと感じることがあれば、我慢せずに婦人科に相談してみてください。
<取材・執筆>KIDSNA編集部
監修:杉山 太朗(田園調布オリーブレディースクリニック)
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杉山太朗
信州大学医学部卒業。東海大学医学部客員講師、日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医。長年、大学病院で婦人科がん治療、腹腔鏡下手術を中心に産婦人科全般を診療。2017年田園調布オリーブレディースクリニック院長に就任。患者さんのニーズに答えられる婦人科医療を目指し、最新の知識や技術を取り入れています。気軽に相談できる優しい診療を心がけています。
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