放っておくと危険な子どもの便秘と治療法

放っておくと危険な子どもの便秘と治療法

2021.01.27

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保科しほ

保科しほ

医療法人社団 敦保会 恵比寿こどもクリニック

日本小児科学会専門医・指導医。麻酔科 標榜医。久留米大学医学部卒業後、横浜市立大学附属病院、国立成育医療研究センター、東京女子医科大学八千代医療センター、国立感染症研究所勤務を経て、医療法人社団 敦保会 恵比寿こどもクリニック院長に就任。専門は小児感染症、小児救急、アレルギー。

子どもの便の量や頻度は人それぞれですが、子どもの便秘は放っておくと悪化して、治療が必要な慢性便秘症におちいることも。そこで今回は、子どもの便秘の原因と対策、さらには慢性便秘症になった場合の治療方法について解説します。

子どもが便秘で苦しむ姿は、自分のこと以上につらいもの。とくにオムツのとれない幼いうちは、少しの便秘がきっかけで便意を不快なものと感じて、ひどい便秘に陥ってしまうことはよくあります。

乳児でオムツ着用の間は排便の頻度や量などをチェックすることができますが、トイレトレーニング以降、子どもの排便習慣を把握できない間に悪化している場合もあるため、注意が必要です。

年齢で異なる子どもの便秘原因

子どもの便秘は、体の発育に関するもの、食べ物の変化に関連するもの、環境や精神的な因子によるものなどが挙げられます。

個人差もありますが「うちの子便秘かも?」と感じる方は、以下の項目をチェックしてみてください。


年齢別の便秘になりやすい原因

0歳~6歳児の便秘になりやすい原因は以下のとおりです。


生後0カ月~2カ月の便秘

母乳育児の場合、母乳が不足しているときに便秘になる傾向にあります。


生後4カ月〜5カ月の便秘

便とは本来、取った栄養の余剰分が便となって排出されるもの。生後4ヵ月~5カ月の赤ちゃんは、体が急激に発育するため、母乳やミルクが消化される際に余るものが少ないために便秘になる子もいます。


生後5カ月~10カ月(離乳食開始)の便秘

水分から固形の栄養に赤ちゃんの消化管が慣れるまでの間、食材が変化するため便秘になりやすいようです。


1歳〜2歳(トイレトレーニング時期)の便秘

トイレトレーニング
MIA Studio/Shutterstock.com

トイレトレーニングがきっかけで便秘になる子は少なくありません。親の声掛けやプレッシャー、排泄する場所(トイレ)の変化などの精神的な因子により便秘になることもあるようです。


幼児期(3歳~7歳)の便秘

集団行動が始まり、他の子どもとの関係やトイレの場所などにより、トイレに行きづらいと感じると便秘がちになる傾向があります。また、転園や引っ越しがきっかけで便秘がちになるケースもあるようです。


排便が週2回以下は便秘症の可能性

  1. 排便のない日が5日以上続く
  2. 週に2回以下しか排便がない
  3. 便が出ないことによる腹痛
  4. 便が硬くなることによる排泄時の痛み
  5. 排泄時に出血する

さらに、この状態が1か月以上続く場合、「慢性便秘症」となり、深刻な場合は数カ月から1年以上も治療が必要になる場合もあります。

子どもの便秘と大人の便秘の違い

大人は直腸の手前のS字結腸に便がたまり、便が直腸に降りてくると直腸の壁が押され、脳に伝達されることで便意を感じます。

一方、子どもはの便は肛門のすぐ手前の直腸にたまります。

子どもが一度便秘になり、直腸に便がたまり続けると、直腸がのびきった状態が続き、便意を感じることができません。

さらに、便が何日分もたまると、水分の少ない硬い塊となり、自力で出すことが困難に。

子どもは一度排泄で痛みを感じると心理的に恐怖に感じ、便意が起きても無視する→便がたまる→便秘が悪化する…という負のスパイラルに陥ることに。


便がたまり直腸が伸びると脳は便意を感じなくなる

大人の場合、体調不良やストレスなどで一時的に便秘になっても、一度詰まった便が出れば改善します。

しかし、子どもはそもそもの排便の仕組みが大人とは違うため、便秘になるメカニズムも異なります。

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子どもの便秘症状と小児科受診の目安

毎日よく見ているつもりでも、知らなければついつい見逃してしまいがちな便秘。

お子さんに以下のような症状が見られたら、便秘の可能性があります。


いきむ

子どもが一生懸命いきみ、それでも便がでない場合は便秘の可能性が高いです。とくに小さい子はいきむ力が足りず便秘になるケースが見受けられます。


足をクロスさせる

ひどい便秘症の子どもは、痛みから、排便の際に足をクロスして肛門に力を入れ、便が出ないようにすることがあります。


おならが多い

いつもよりおならが多いときも便秘かもしれません。なかなか便が出なくてガスが溜まっている状態です。「いつもよりおならが多いな」と感じたらよく様子をみましょう。


おなかが張る

お腹 パンパン
iStock.com/kwanchaichaiudom

ふだんの排便の回数よりも極端に少ない状態で、おなかが張っているときも便秘のサインのひとつです。「便秘かもしれない」と疑わしいときは、おなかをさわって確認しましょう。


食欲がない

腸に便が残っていると胃の中の食べ物が流れず、消化されないため食欲が落ちることがあります。熱や病気ではないのに食欲がないときは要注意。


便に血がつく

便秘だと便が硬くなり、排便の際に肛門が切れて便に血がつくこともあります。


便秘症状が続く場合は小児科を受診

2〜3日排便がない状態で、子どもの様子がふだんと変わりがなければ、さほど心配する必要はありません。

しかし、上記の症状やそれ以上の日数の便秘が続くようなら、一度かかりつけの小児科医に相談しましょう。

放っておくと慢性便秘症を引き起こすだけではなく、別の病気を見逃してしまう可能性もあります。

病院での便秘治療

では、実際に小児科ではどのような治療をおこなっているのでしょうか。

現在の便秘治療は、基本的に子どもの症状に合わせて投薬、もしくは投薬と浣腸の二つを合わせておこないます。

薬も浣腸も「使うとくせになる」「自然排便ができなくなる」という話を耳にしたことがあるかもしれませんが、まずは薬などの力で排便習慣を取り戻すことで、自然な排便習慣が身につくものなので心配ありません。


薬による便秘治療

便秘で小児科を受診する場合、便に水分を含ませ柔らかくする酸化マグネシウム、乳酸菌の仲間のラックビーなどの整腸剤などが処方されます。

また、麦芽糖で排便を促すマルツエキスや、場合によっては下剤が処方される場合もあります。

軽い便秘の場合は薬のみで改善が見られますが、薬を飲んでも2~3日排便がない場合は浣腸を使うよう勧められます。


浣腸による便秘治療

薬を飲んでも効果が見られないひどい便秘の場合、おなかの中の便を出し切ってしまうために浣腸を使います。

浣腸は、診察時に医師がしてくれる場合もありますが、長期の治療となった場合、自宅で保護者がおこなう必要があります。

慣れない浣腸は子どもが怖がり、保護者も苦労してしまうものですが、続けることで必ず自然排便できるようになるので、根気強く続ける必要があります。


排便記録をとる

長期の便秘治療となった場合、便が出た時間、量、形状などの記録をとることを医師から依頼されることがあります。

月1程度の受診の際に記録を見せることで、今後の治療方針がスムーズに決まります。

また、記録をつけることで「何日出ていない」と瞬時に把握することができるため、「3日出てないから今日は浣腸しよう」「昨日出たから今日は薬だけで様子をみよう」など、自宅での治療も円滑におこなえます。

専用のノートに記載する場合もありますが、スマートフォンの写真管理アプリなどを使うとより簡単に把握することができます。

家庭でできる便秘予防

現在は便秘ではない場合も、治療が終わった場合も、便秘になりにくいライフスタイルを心がけることは重要です。

毎日の生活でできる予防法を、ぜひ取り入れてみてください。


生活リズムを整える

早起き 女の子
iStock.com/kwanchaichaiudom

便秘の予防には、生活のリズムを整えることがとても重要です。

決まった時間に起床や食事をすることで、必然的に排泄の時間が整い、便秘予防につながります。

厚生労働省の乳幼児を対象にした生活調査でも、早起きの子どもは毎日便が出ている割合が多い、という結果が報告されています。


せんい質や麦芽糖をとり入れる

野菜嫌いの子どもは、どうしても繊維質が不足する傾向にあります。

便秘解消のためにも、繊維質が多く取れるよう、食事メニューを工夫しましょう。

おすすめは、繊維も栄養も豊富なおから。ハンバーグやクッキーを作る際にまぜて「おからハンバーグ」や「おからクッキー」などにすれば、子どもも喜んで食べてくれるでしょう。

また、麦芽とでんぷんを合わせて作った甘味料である麦芽糖は、前述したとおり赤ちゃんの便秘薬にも含まれている成分。

普段白砂糖で味つけしているものを麦芽糖に代えてみるなど、料理に取り入れてみてください。


ストレスを減らす

リラックスする親子
takayuki/Shutterstock.com

便秘は精神的なストレスも影響しやすいもの。

小さな子どもは引っ越しや入園、入学など、生活環境が変わったことがきっかけで便秘になってしまうことも多々あります。

いつもよりこまめにコミュニケーションをとったり、子どもと寝る前に10分多くおしゃべりするなどしてあげてください。

とくに「おなかの『の』の字マッサージ」は、スキンシップをしながら便秘解消にもつながります。

子どもの日頃の生活のリズムや便の回数を把握しておくことで、便秘のサインをいち早くキャッチし、対応することができるでしょう。

もしも慢性便秘症になってしまったら、まずはかかりつけ医に相談し、治療が長期になる場合は便秘外来なども視野に入れて、就学前に治してあげたいですね。

出典:第2部(3)排便の状況/平成 27 年度 乳幼児栄養調査結果の概要 / 厚生労働省

監修:保科しほ(医療法人社団 敦保会 恵比寿こどもクリニック)

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保科しほ

日本小児科学会専門医・指導医。麻酔科 標榜医。久留米大学医学部卒業後、横浜市立大学附属病院、国立成育医療研究センター、東京女子医科大学八千代医療センター、国立感染症研究所勤務を経て、医療法人社団 敦保会 恵比寿こどもクリニック院長に就任。専門は小児感染症、小児救急、アレルギー。

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