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「痩せたい」はSOS?体型の変化に見る子どもの声なき声
文部科学省が今年7月に、2020年度の「学校保健統計調査」を発表した。これは、幼稚園児から高校生までを対象に、児童及び生徒の発育及び健康の状態を調べる調査で、肥満、痩せすぎともに増加傾向にあり、子どもの体型の二極化が結果として現れた。この子どもの体型が「痩せすぎ」か「肥満」のどちらかに偏っていることには、どのような背景があるのだろうか。また、子どもが体型を過度に気にすることのリスクとは。国立成育医療研究センターの堀川玲子先生に伺った。
文部科学省が今年7月に発表した、2020年度の「学校保健統計調査」によると、肥満度が+20%以上の肥満傾向児は増加。小中高の学年では痩せすぎの生徒も前年度より微増している。
国立星育医療研究センターの「コロナ×こどもアンケート第5回調査報告書」によると、小学4~6年生の子どもの約3割は自分を「太っている」と認識し、約4割が「痩せたい」と思っているという調査結果も出ている。
子どもの体型が二極化している現象には、どのような背景がひそんでいるのだろうか。そして、自分の子どもが「痩せたい」と口にし始めたら、どのように対応すべきなのか。
子どもの成長障害などを専門とする、国立成育医療研究センターの堀川玲子先生に伺った。
小さな子どもが「痩せなきゃ」と思ってしまう理由
――日本の子どもの体型が二極化傾向にあると言われていますが、これはいつ頃から始まったのでしょうか?
二極化傾向が顕著になり始めたのは、2000年ごろです。
アジア全体では肥満の増加が問題になっていますが、日本だけを見ると、肥満とともに痩せすぎている子どもも増えていきました。
――なぜ日本だけ痩せすぎの子どもも増えているのでしょうか?
アジア全体の中でも、日本の子どもは塾や習いごとをしている割合が高いので、競争にさらされているストレス、親からのプレッシャーなどが他国に比べても強く、子どもの体型を左右する一つの要因として挙げられるでしょう。
韓国や中国でも、都市部だけを見ると、日本と同じように肥満と痩せの二極化現象が起きています。これらの地域でも、子どもたちは受験や習いごとで忙しい毎日を送っています。
ストレスにさらされる環境下では、始めは肥満が増加し、そのあと徐々に痩せが増える現象が見られます。
また、若い保護者の方のなかには、太ることに対する過度な恐怖心を抱く方もいらっしゃいます。
厚労省の「令和元年 国民健康・栄養調査」によると、20代の女性は、ほかの世代に比べてもやせ型の方が多い世代です。さらに文科省の「平成19年度 学校保健統計調査」では、現在20~30代の親世代が思春期だったころに痩身率が年々増加していることが分かっています。
そうした背景から、自分の子どもが太らないよう幼児期に食事量をコントロールしようとする人もいますが、そうすると子どもは、成長してからもたくさん食べられなくなってしまいます。
子どもが太ることに強い抵抗を持っているわけではない場合でも、保護者の何気ない一言を子どもが深刻に取ることもあります。
たとえば、子どもがちょっとぽっちゃりしてくると、悪気なく「ちょっと太ってきた」などと言ってしまうことがありますよね。
これには全然悪気がなく、子どもをかわいがる意味合いで言っていることが多いと思いますが、子どものほうが実は大きなショックを受けて、それをきっかけに体型を気にし始めることもあります。
最近では、幼稚園に通うくらいの年齢の子どものなかにも、はっきりと「太りたくない」と口にする子が増えています。
ほとんどの場合は、大人のまねをして口で言ってるだけで、実際に痩せるための行動を起こす子どもはごく一部だとは思います。
とはいえ、まだ小さい子どもが自分の体型をネガティブに捉えることは、決して歓迎すべき兆候ではないと考えています。
――保護者からの影響のほかに、メディアからの影響についてはいかがでしょうか?
スタイルのいい男女はテレビやネットで好意的に取り上げられ、太っている人はネガティブだったりコミカルに捉えられる風潮があります。これも、子どもへの影響は大きいでしょう。
「肥満はかっこ悪い、痩せはかっこいい」というイメージが定着した結果として、今では女の子だけではなく、男の子にも痩せすぎている子どもが目立つようになってきました。
SNSの影響も看過できないでしょう。海外では、SNSで加工された実現不可能な美しさに憧れる人が出ないよう、写真を加工した際にそれを開示するように求める法律が制定されていますよね。
日本にはまだこのような規制はないので、加工された美しさに憧れを持ってしまう若い人がまだまだたくさんいるのではないでしょうか。
身長が伸びない、骨粗しょう症…ダイエットの弊害
――子どもが必要以上に痩せることは、健康面にどんなリスクが伴いますか?
まず、身長に影響が出ます。身長を伸ばすには、それに伴って体重を増やしていく必要があります。つまり、成長期にダイエットをして体重を落とすと、身長が伸びなくなってしまいます。
ダイエットをやめて栄養を摂り、体重を増やしていけば、それに伴って身長が再び伸び始めることはあります。ただ停滞していた時間が長ければ長いほど、本来その子どもが持っていたポテンシャルには到達しない可能性が高まります。
それから、二次性徴の時期のダイエットにも大きなリスクが伴います。
大人の身体に変わっていく時期にダイエットをすると、ホルモンの分泌が悪くなり、二次性徴の発現・成熟に支障が出てきます。性ホルモンが出ない状態が長く続けば、骨の発育にも悪影響が出てきます。
小児期や思春期は、人生のうちで骨を強くするための大事な時期です。その期間を逃してしまうと、そのあとでいくら頑張ったとしても、骨量は標準範囲の一番下に追いつくかどうかで終わってしまうことが多いのです。
成長期のダイエットが原因で、高齢と呼ばれる年齢になったときの骨折リスクが高まるとは、きっと子どもの頃には想像もしないことですよね。
具体的な年齢では、6~7歳から骨の量が少しずつ上がり始め、思春期の9~11歳くらいからが成長の一番のピークで、その後16歳から20歳のあいだに最大骨量に達します。
この時期の過度なダイエットは、身長の面からも、骨量の面からも望ましくないと考えられます。
――女の子の場合、初潮にも関係してきますか?
はい。性ホルモンが出なければ、生理も来ません。
大人で痩せている人、スポーツ選手で身体を絞っている人でも生理が止まることはありますが、生理が来る前の子どもだと、初潮自体が来なくなる場合もあります。
病気の定義としては、18歳までに初潮がないと原発性無月経とされますが、15歳を超えて初潮がない場合は病気の可能性があるため、病院で診察してもらうのがいいかと思います。
「痩せたい」の裏側にあるさまざまな子どものSOS
――子どもが自分の体型を気にし始めたときに、保護者には何ができるでしょうか? たとえば「あなたの健康が心配だからダイエットはやめてほしい」と伝えたとしても、受け入れてくれないかもしれません。
子どもの状態にもよりますね。
数値からしても明らかに肥満で減量したほうがいい場合は、食生活、運動など、生活習慣に問題のあるケースが多いので、子どもと一緒に生活習慣を見直すのがいいでしょう。気を付けたいのは、「痩せなさい!」と突き放した言い方をするのではなくて、一緒に考える姿勢を見せることです。
肥満でもなく、特に体重を減らす必要のない子どもが、「痩せたい」と言っている場合には、しっかりとした介入が必要になる例もあります。
本人が自分を「太っている」と思い込んでいる場合には、保護者の方や私たち医者が「全然太ってないよ」と伝えても、なかなか本人に届かない場合も少なくありません。
その場合には、医療機関などでカウンセリングを受ける必要があります。なぜかというと、「太っている」と思い込んで自分を否定する背景には、実は何か別の理由があるかもしれないからです。
おそらく本人のなかに何か話したいことがあるけれど、それを上手に表現できていないという可能性があるので、大人の側から根掘り葉掘り聞くというよりは、本人が話しやすいよう聞き役に徹することが大切です。
――そういったケースで、子どもたちは実際にどのような背景を抱えているのでしょうか?
子どもによって原因はさまざまです。
たとえばご両親の仲がよくない場合、子どもはストライキを起こすかのように、食べることを拒否し始めることがあります。
本人にストライキをしている意識はないと思うのですが、勝手に体が反応して、あまり食べなくなってしまうのです。
ほかには、いじめなど学校での問題が影響している場合もあります。また、たまにですが、発達障害が原因のケースもあります。
発達障害や自閉症スペクトラムのお子さん、または診断がついていなくても強いこだわりを持っていて、極端に偏食で、たとえば白米以外は何も食べたくないといったお子さんもいらっしゃいます。
摂食障害(神経性食欲不振症)の調査をしたとき、小学生にも該当者が割といることがわかったのですが、小学生の場合は発達障害を併発していることが多く、そこから摂食行動の問題に結びつくパターンが多くみられました。
そういうケースでは、「痩せてかっこよくなりたい」「太っていると馬鹿にされる」などの話とはまた違うので、保護者としての対処はさらに難しくなります。疑問に感じる行動があれば、早めに医療機関を受診してください。
手作りにこだわらなくてもいい。子どもと一緒に食べる時間を大切に
――ご飯を食べずに痩せていく子どものなかにも、それぞれにさまざまな事情があることがわかりました。子どもの行動に変化を感じたとき、保護者はどう行動すればいいのでしょうか?
たとえば、子どもがアニメのキャラクターやアイドルを見て「〇〇ちゃんみたいになりたい」と言っていたとします。こういう場合は、子どもはただそう口にしているだけで、それほど本気で言っていないことも多いですよね。
それくらいであれば、「そうだね、そのためにがんばろう」と背中を押すようなことはせず、積極的な同意はしない、くらいの距離感でいいと思います。
大きくなるのが子どもの仕事なので、「ちゃんとご飯を食べないと大きくならないんだよ」と教えながら、憧れているキャラクターやアイドルに近づくためにも、まずはご飯を食べて大きくなろうね、と伝えるのがいいかもしれません。
その段階を超え、保護者が言っても子どもが聞く耳を持たず、ご飯を食べないでどんどん痩せていくようであれば、これはもう疾患といって差し支えないでしょう。病気の範疇なので、保護者で何かできるというよりも医療機関に任せたほうがいいと思います。
体重が減少し顔色も悪い、活気がない、などがあるときは、他の疾患が潜んでいる可能性があるかもしれません。まず、かかりつけの小児科医にご相談下さい。
基礎疾患がなく、食事の形態や種類にこだわる(油ものを極端に嫌がるなど)、体型にこだわるなどがあれば摂食障害かもしれませんので、摂食障害を扱っている病院の小児科、児童精神科を受診することをお奨めします。
――子どものダイエットの方法にはやはり食事が大きいと思うのですが、子どもの食事にはどう向き合うとよいでしょうか?
ご飯を食べること自体を楽しいと思ってもらうことは、とても大切だと思います。これは幼児期だけではなく、将来にわたってずっと影響を及ぼし続ける話です。
子ども一人で食事を摂る「個食」をなるべく避けて、家族で食卓を囲む時間を持つのが理想です。
もちろん共働きの家庭が多いなかで、毎日一緒にご飯を食べるのはむずかしいかもしれません。ただ食べる目的の時間じゃなくて、少しでも会話を楽しむ時間を取れるように工夫できるといいですよね。
――そうと頭ではわかっていながら、「楽しい食卓にしたいけど、働いていて時間もないし……」とプレッシャーを感じるお母さんも少なくないかもしれません。
みんなで顔を合わせながら食事に費やす時間は、一日にほんの30分でもいいと思います。
働きながら子育てをする方には、やらないといけないことは山ほどありますよね。洗濯物も片づけないといけない。散らかった部屋を掃除しないといけない。
でも、ほかのことはともかくとしても、食事の時間の優先順位を高いところに持ってきてほしいと、私の立場からはそう思います。
あと、「子どもにはなるべく手作りのものを」とがんばる方も多いかと思いますが、子どもの食に対するイメージをポジティブに保つことに関して言えば、毎回手作りである必要はないと考えています。
要するに、手作りかどうかよりも、家族で楽しく会話をする時間を持つことが大切なんですね。
手作りにこだわるあまり、子どもと過ごす時間を削るくらいなら、栄養バランスが偏らないよう注意は必要ですが、お店で食べるものを買ってきて、みんなで楽しく食べる時間をゆっくり取るほうが、子どもの食卓に対するイメージにはプラスに働くと考えています。
Profile
堀川玲子
国立成育医療研究センター内分泌・代謝科診療部長。東北大学医学部卒業、東京女子医科大学大学院修了。小児科学、小児内分泌代謝学(成長障害、性分化・性成熟、脳下垂体・副腎疾患、糖尿病など)などを専門としている。
<取材、執筆>KIDSNA編集部