「つらい思いをするのは母なら当然だ」産後の母親たちを追い込む“極端な母乳育児推進”の危うさ

「つらい思いをするのは母なら当然だ」産後の母親たちを追い込む“極端な母乳育児推進”の危うさ

母子の健康を損なってしまっては本末転倒だ

赤ちゃんは「母乳で育てるべき」なのか。小児科医の森戸やすみさんは「確かに母乳育児には母子へのメリットがある。だが、極端な母乳育児推進はむしろ母子の健康を危険にさらす」という――。

写真=iStock.com/Ceneri※写真はイメージです
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粉ミルクを与えるのが「先進的で合理的」だった1970年代

以前、私が病院に勤務していたとき、妊娠中の女性たちに「赤ちゃんが生まれてから気をつけてほしいこと」などをお話しする機会があり、質疑応答もしていました。ある日、一人の妊婦さんから「私はお腹の中にいる子供が生まれたら、母乳を止める薬を飲んで、粉ミルクだけで育てたいんです。母乳育児をすると胸の形がくずれると聞くし、粉ミルクは栄養たっぷりですから」と言われ、内心「1970年代の考え方? また反対側に揺り戻しがきたの?」と驚いてしまいました。そのときには、すでに粉ミルクよりも母乳がいいと言われていたからです。

粉ミルクは1917年に初めて国内で作られ、以降は改良を重ねながら、たくさんの母子を助けました。一方で母乳育児率は減少していき、第2次ベビーブームの1970年代に、粉ミルクの消費量はピークを迎えます。当時は子供の数が多かったこと、高度経済成長期には新しいものが注目を集めたこと、消費は美徳だと考えられていた時代の名残があったことなどが原因だったのではないでしょうか。赤ちゃんに粉ミルクを与えることは、母乳を与えるよりも先進的で合理的、栄養面でも優れていて、しかも母親の体型をよりよく維持できると思われていたのです。

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