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「決められない子」にしないために。これからの時代に必要な判断力とは
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教育研究家/家庭教師集団「名門指導会」代表
教育研究家/家庭教師集団「名門指導会」代表
教育研究家。家庭教師集団「名門指導会」代表。中学受験ポータルサイト『かしこい塾の使い方』主任相談員。日本初の「塾ソムリエ」として、塾の活用法や塾選びなどの受験ノウハウを世に送る。テレビ、新聞、教育雑誌などで活躍中。おもな著書に『いちばん得する中学受験』(すばる舎)、『中学受験基本のキ!』(日経BP社)、『頭のいい子の育て方』(アスコム)、「中学受験は親が9割」シリーズ(青春出版社)など、20冊を超える著書がある。
40年間たくさんの親子に関わっている教育専門家の西村先生に、これからの時代に必要な「判断力」について書いていただきました。「決められない子」にしないために、親ができることはあるのでしょうか。
勉強を楽しむ子の共通点とは
私は現在家庭教師という形でご家庭に伺っていますが、一斉授業の塾や個別指導の塾で教えていた時期もありました。中学受験の進学塾と聞いて、みなさんはどんな様子を思い浮かべられるでしょうか。
みんな「合格」などと書いたハチマキを巻いてカリカリと勉強している…そんな光景を想像する方もいるかもしれません。
でも実は受験勉強を楽しんでいる子どももいて、そういう子は自分なりの思考力、表現力、そして判断力を身につけています。
今回は、勉強においても大切な「判断力」をつけるために、お子さんが小さいうちからできることについて考えてみましょう。
なぜ判断力が大切なのか
2020年の大学入試改革で、「知識や技能だけでなく、思考・表現・判断力が問われる」とアナウンスされています。勉強において、なぜ判断力が大切と言われるのでしょう。
ここで、小学校高学年のお子さんで、いわゆる「できる子」が問題を解くとき、頭の中はどんな様子かを再現してみます。
「…ここにこう補助線を引けば何か見えてくるかもしれないぞ…う〜ん、違うな…ここまで考えて解き方が見えてこないってことは、全く別の考え方をしたほうがいいのかもしれないぞ。
…あと時間は10分か。よし、いったんこの問題は置いておいて、他にできる問題がないかチェックしてみよう」
彼はここで、この問題はいったん置いておくという判断をしたわけです。こうやって判断できるお子さんは、問題解決に必要なアプローチは1つではないことを経験的に学んでいて、行き詰まったときに「視点を変えてみよう」と自分を俯瞰して見ることができる子です。
これに対して、この判断ができずにひとつの問題にどんどん時間をかけ「時間切れ」になってしまうお子さんもいます。そんな子は「判断する」練習をあまりしてこなかった子です。
親が先回りしないよう注意
「決める練習なんて必要なの?」そう思われるかもしれませんが、必要です。家庭教師という立場でご家庭に伺うようになって、あらためて強く感じるのですが「決められない」お子さんが増えています。
「決められない」原因のひとつは、お子さん自身が決めるという機会がないことです。親が決めた結果を「実行」するだけだと、自分で決める、判断する力は育ちません。いろいろなところでお伝えしているのですが、親がなんでも先回りしてやってしまわないことです。年令なり、成長段階なりに、お子さんに決められること、判断できることはあります。
勉強メニューに限らず、生活時間の使い方も、使う文房具も、何もかも親が決めてしまわず、できるだけお子さんに選択させることです。ごく小さいうちは、二択の質問から始めるといいですね。
「赤いのと青いの、どっちがいい?」
「どうしたい?歩きたい?」
こうした声かけで、お子さんが自分で決める場面をつくってあげましょう。
もう少し大きくなって、勉強が日常生活に入ってきてからも「勉強するの?休むの?どうする?」「勉強は何時から始める?」とお子さんに選ばせ、自分で決める練習をさせましょう。
「決める」実体験を重ねよう
物事の決断を迫られるシチュエーションの多くは、対人関係や実体験の中で生まれます。
たとえば、おともだちに「おもちゃをかして」と言われた場合にどうするか。貸さずにそのまま遊び続ける、という選択肢ももちろんあります。一方で、言われたとおりに貸してあげるという選択肢もありますね。
ここで重要なのは、言われたとおりに貸すかどうかということではありません。貸してあげたら喜んでくれた、おともだちが喜んでくれるのは嬉しいことだ、あるいは乱暴に取り上げようとする子はよくないよね、といったふうに自分なりに判断する経験を積むということです。
誤解がないようにお伝えしておきたいのですが、おともだちに頼まれたらおもちゃを貸すのが正しいのですよ、と言いたいのではありません。
お子さんがおともだちにおもちゃを貸せないことに悩むお母さんもいると思います。でも、たとえばおもちゃを貸せなかったお子さんの代わりに「今は貸せないんだって。ごめんね」とお母さんが相手の子に謝ると、「はい」とスッとおもちゃを差し出したという子もいます。人との関わりの中で、こうやって判断するという経験を積むことが大切です。
判断力をつけるために親ができること
日常生活の中でも、判断力をつけることはできます。
たとえば、お買い物などもそうです。こっちはたくさん入っているけど、値段も高い。1個ずつ買うと安いけど、たくさん買うとどうだろう、といった判断をしてもらうのです。まだ計算ができないうちは、単にどっちが美味しそうかといった判断でもいいですね。
お子さんに選んでもらったら、その都度「どうしてそれを選んだのか」を聞いてあげましょう。そして、それに対するお母さんの気持ち、意見も添えるとよいと思います。選んだ理由、判断基準を明確にし、それに対する他者の意見を聞くことで、お子さんの中に判断基準のようなものができていきます。
幼児期に「判断する」練習を
子ども自身に決めさせるというのは「あなたが全て決めなさい」と放任してしまうことではありません。
子どもは、まだ自分で判断する練習中です。だから親は二択や質問の形で子どもが判断の練習ができるよう、状況を作ってあげてほしいのです。
こうやって小さいころに判断の練習ができたお子さんは、大きくなったときに思い悩むことがあっても
「待てよ、こんなに考えても解決しないってことは、視点を変えてみれば解決法があるんじゃないか?よし、見方を変えてみよう」と乗り越えられることが多いものです。
執筆:西村則康
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西村則康
教育研究家。家庭教師集団「名門指導会」代表。中学受験ポータルサイト『かしこい塾の使い方』主任相談員。日本初の「塾ソムリエ」として、塾の活用法や塾選びなどの受験ノウハウを世に送る。テレビ、新聞、教育雑誌などで活躍中。おもな著書に『いちばん得する中学受験』(すばる舎)、『中学受験基本のキ!』(日経BP社)、『頭のいい子の育て方』(アスコム)、「中学受験は親が9割」シリーズ(青春出版社)など、20冊を超える著書がある。