妻が子どもを「心配」する気持ちを「過保護」と理解しない夫【高濱正伸】
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読者からお悩みを募集し、子育て、教育、健康など各分野の専門家にご回答いただく人生相談コーナー。今回は花まる学習会代表の高濱正伸先生が、夫婦の育児に対する価値観の違いに関するお悩みに答えます。お悩みはオンラインで随時受付中。
【お悩み】子どもに対して過保護だと夫から言われます。
【高濱先生の回答】見守りは過保護ではなく適切な親の役目。夫にはデータやファクトを伝えると効果的
まず、今の時代、子どもの送迎や見守りを徹底することは、過保護とはまったく思いません。むしろ、それらができない場合、防犯ブザーを持たせたり、いざというときどう命を守るかを教えたりするなど、なんらかの安全対策をとらなければいけない時代です。
世の男性の大半は、自分の経験から、危険な目に遭ったことがないし、加害しようと思ったことがないため、性被害などを自分ごととは思えず「自分は大丈夫だったから大丈夫だろう」「大げさだ」と考えがちです。
一方で女性側は、男性と比べ、脅威を身近に感じた経験がある人が圧倒的に多いため、「わが子に何かあっては……」と心配が絶えません。
この過去の経験の差から、「いくら夫に訴えても話がかみ合わない」という現象が生じてしまうのです。
もっとも怖いのは人間ですから、自分が考える以上に気をつけるくらいでちょうどいいのは確かですが、夫を納得させるためには、感情に訴えるのではなく、冷静にデータやファクトを示すことをおすすめします。
たとえば、タバコをやめられない夫に「あなたのことを心配して言っているのよ!」と言っても、残念ながらほとんどの夫は変わりません。
それよりも、「タバコを吸い続けたネズミの肺」の写真や、「喫煙習慣のある人のほうが死亡リスクが〇%高い」といったエビデンスやファクトのほうが効果絶大です。
今回のお悩みであれば、「13歳未満の子どもの性被害認知件数は1,000件を上回る(平成30年度警察白書)」といった犯罪件数のデータなどを共有し、夫の価値観をアップデートするしかありません。
私自身、これまで野外体験で数多くの子どもたちに同行し、一緒に川遊びなどをしてきました。
そこで安全に過ごすために、子どもの事故にはどんなものがあるのかを徹底的に分析した結果、原因のほとんどが油断と目切り(目を離した隙)であると分かったのです。
近年はSNSの発達で、水深10センチであっても水難事故が起こることや、水を飲んでしまった場合、暴れたり助けを求めたりする間もなく静かに沈むという情報も広まりつつありますが、それでも毎年くり返し悲しい事故が起きています。
だからこそ、大人は子どもに対して目を切ってはいけないのです。
当然、子どもの年齢によって目を切ってはいけない範囲は変わります。たとえば乳児は室内にいても絶えず確認する必要がありますが、3歳になれば室内ではある程度自由に行動させてOKです。ただし、家の外では少なくとも小学生の間は、目を切らないよう気にかけたほうがよいでしょう。
だから相談者さんは、子どもを心配する自分の気持ちは変えようとしないでよいのです。夫と話がかみ合わないときに、その根拠を示して理解してもらいましょう。
そして同時に、夫側にも認識を変えてもらう必要もあります。私は父親学級を開催する際、「母親は心配する生き物。相談をされたら、解決策を言わなければとか、いいことを言わなければと思わずに、ただうなずいて寄り添ってください」と伝えています。
見守りは過保護ではなく、適切な親の役目です。
逆に私が過保護だと感じるのは、子どもの勉強や習い事などに対しての「過剰な口出し」。子どものやる気を削ぐ口出しはせず、子どもを見守る目は切らない。これができていれば大丈夫です。
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10歳の長女が塾に通い始め、夜暗くなってから帰ることが増えました。
高学年とはいえ、まだ小学生なので帰りが心配で迎えにいくのですが、夫に「過保護」と言われました。
また、3歳の下の子を連れて大きな公園で遊んでいる際も、遊具での遊びを見守りつつも目を離さず、なるべくそばについているようにしていますが、同じくこれも過保護だと言われます。
事故だけでなく子どもの性被害なども心配なので、何かあってから後悔するくらいなら、過保護だと思われようと、子どもを守れたほうがいいです。私の行動は過保護なのでしょうか?