【助産師監修】「産後クライシス」は防げる?原因や解決策、チェックリスト

【助産師監修】「産後クライシス」は防げる?原因や解決策、チェックリスト

2022.05.12

Profile

河井恵美

河井恵美

エミリオット助産院 看護師/助産師

看護師・助産師の免許取得後、大学病院、市民病院、個人病院等、様々な診療科を経験し、助産師歴は25年。青年海外協力隊でコートジボアールとブルキナファソに赴任した後、国際保健を学ぶために兵庫県立大学看護学研究科修士課程に進学・修了。現在は、シンガポールの産婦人科クリニックに勤務し、日本人の妊産婦さん方のサポート。世界にいる親御さんを応援するため、インターネット上でエミリオット助産院も開設している。

出産後に夫婦関係が悪化してしまう「産後クライシス」。具体的にどういった状態をさし、なぜ起きてしまうのでしょうか。今回は、産後クライシスとは何か、原因や判断のためのチェックリスト、解決策、パパの産後クライシス、ママたちの体験談についてご紹介します。

産後クライシスとは

※写真はイメージ(iStock.com/PixelsEffect)
※写真はイメージ(iStock.com/PixelsEffect)

産後クライシスとは、今まで仲良く過ごしていた夫婦の関係が、出産後に急に悪化してしまう状態のことを言います。

特に、ママの方でパパに対しての愛情が一時的に低下してしまうケースが多く、「本当に愛しているのか」実感できなくなってしまうこともあるようです。

出産後は、本来であれば一番幸せな時期のように思えますが、産後クライシスはどの家庭でも起こり得るもので、一般的には産後から子育てがひと段落する約2年間に起こりやすいと言われています。

最悪の場合は、長期にわたって産後クライシスの状態が続き、離婚に至ってしまうケースも。

一方で、この産後クライシスの時期を乗り越えることによって仲が深まり、今後の夫婦生活でもし危機が生じても「あの時期に支えてくれた」と感じて喧嘩や離婚を防ぐこともあるでしょう。

また、産後クライシスと混同しがちなものとして、うつ病があります。うつ病は、ストレスや病気、環境の変化、脳で働く神経の伝達物質の働きが悪くなるなど、さまざまな原因が重なって発症すると考えられています。

うつ病にかかると、気分の落ち込みといった精神的な症状のほか、体のだるさやしびれなどの身体的な症状がみられ、一方の産後クライシスは、出産後に配偶者と不仲になることを指し、うつ病と同じく誰でもなる可能性があります。

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産後クライシスか見極めるチェックリスト

どのような状態だと産後クライシスだと判断できるのでしょうか。ママが「産後クライシス」に該当しているか、チェックできる項目をご紹介します。

チェックリスト

上記の項目で当てはまるものがあると、産後クライシスが訪れているかもしれません。

産後クライシスの影響でママがイライラや不満を抱えていると、パパが家庭での居場所を感じられず、ママや赤ちゃんではなく仕事、友人などを優先してしまうことも。

それに対してママがますます不満を持ち、夫婦間のコミュニケーション不足が悪化すると、修復不可能になってしまう場合もあります。

産後クライシスの原因

産後クライシスの原因には、どのようなものがあるのでしょうか?産後クライシスの原因として考えられる内容についてご紹介します。


ホルモンバランスの乱れや体の負担

※写真はイメージ(iStock.com/staticnak1983)
※写真はイメージ(iStock.com/staticnak1983)

産後は、妊娠中に増えていたプロゲステロンやエストロゲンといった女性ホルモンが急激に低下し、ホルモンバランスが乱れます。

また、妊娠で大きくなった子宮が出産後は元に戻ろうと収縮したり、会陰切開などによる傷の痛みがあるなど、ママの体には大きな負担がかかるため精神的にも不安定になりやすいでしょう。それが産後クライシスの原因となることがあります。

さらに産後すぐの時期は、里帰り出産をしたり実母が来てサポートしてくれたりすることもありますが、その後は本格的に夫婦だけでの育児が始まるという家庭も多いでしょう。

慣れない育児への不安や、赤ちゃんのお世話による睡眠不足からストレスを抱え、それが産後クライシスの要因となることもあります。


出産や子育て、家事に対するパパの配慮不足

ママは産後、出産による体の負担や赤ちゃんへの授乳など、産前とは異なる生活の変化を受け入れなければなりません。

産前は仕事をして色々な人とコミュニケーションをとっていたママも、産後は家にこもって赤ちゃんと2人きりの生活となる方もいるでしょう。

そのため、今までと変わらないパパの生活を目にすると、ママが自分ばかりに負担がかかっていると感じてストレスになる場合があります。

ママに配慮せず、パパが仕事のあと飲み会に行ったり、休日は友人と遊ぶ、赤ちゃんの夜泣きに対応せず寝続けている、家事に非協力的といったことが続くと、ママが幻滅して愛情が薄れてしまい産後クライシスの要因となるでしょう。


夫婦間のコミュニケーション不足

出産後、ママが赤ちゃんにつきっきりになったり体調不良の状態が続いたりすると、夫婦の会話やコミュニケーションが不足して産後クライシスの原因となることもあります。

また、産後のママのホルモンバランスの変化などによって性欲が減り、セックスができないことでパパが不満を感じてしまうこともあるでしょう。

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産後クライシスの解決策

産後クライシスの解決策についてご紹介します。


パパが育児の当事者意識を持つ

※写真はイメージ(iStock.com/miodrag ignjatovic)
※写真はイメージ(iStock.com/miodrag ignjatovic)

産後、ママがストレスを感じたら我慢をせずに、パパや家族、親戚などに赤ちゃんを見てもらって、ゆっくり休める時間を持つようにしましょう。

パパの方からも、ママがつらそうなときに「自分が面倒を見るから少しでも寝てきて」「自分が赤ちゃんを見るからランチに行ってきて」など言ってあげる気遣いが必要かもしれません。

特に、ミルクをあげる、沐浴、散歩など、パパ1人で赤ちゃんのお世話をしてもらう時間をあえて作ることは、父親としての自覚や責任感を持つためにも大切。

出産前に、両親教室などのイベントに参加してもらうのも、パパが妊娠や出産・育児について深く学ぶ機会になります。

パパが赤ちゃんと同じ重さの荷物を持ってお腹の大きい妊婦さんと同じ体験をしたり、赤ちゃんのお世話のやり方を学ぶことで、ママの大変さを実感しやすいでしょう。


妊娠中から夫婦間のコミュニケーションを大切にする

妊娠中など夫婦関係の良好な時期から、意識的にコミュニケーションを大切にするようにしましょう。

お互いにどんなことに不満を感じやすいかをはっきり伝え合い、子育てや家事に対する思いを共有し価値観をすり合わせておけば、産後クライシスがもし起きたとしても解決しやすいかもしれません。

夫婦はもともと他人なので、考え方が違っていて当たり前です。

「パパが育児や家事を手伝ってくれない」などイライラして受け入れられない点があっても、ただ否定せずにまずは態度や意見を尊重できるよう努力しましょう。

パパも悪気があって手伝わないわけではなく、「どう手伝えばよいかわからない」という場合もあります。ママは妊娠・出産を経て精神的に成長できることも多いですが、パパの方はそれについていけないこともあるでしょう。

ママからパパに何かお願いする時は、上から目線で言うのではなく「こうしてくれたらありがたい」とリクエストするかたちで言うと伝わりやすいかもしれません。


信頼できる第三者に相談する

産後クライシスで悩み、夫婦だけでは解決が難しい場合は、信頼できる第三者に協力を頼むのもひとつの方法です。

ママやパパそれぞれの家族や友人に間に入ってもらうと、スムーズに解決することもありますし、その他にも子育て・夫婦カウンセリングを受ける、自治体の女性相談や育児相談を利用するというママもいるようです。

人生経験の豊富な方に相談ができると、解決のヒントを得られたり気持ちが楽になることもありそうですね。

どの方法が合っているかはその夫婦によって異なるため、効果的な方法を選ぶことが大切です。

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パパの産後のストレスにも注意

※写真はイメージ(iStock.com/imtmphoto)
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産後の時期は、慣れない育児に夫婦とも不安定になりやすく、ママだけではなくパパも産後にストレスを感じることがあります。

原因としては、子育て・仕事に対する不安やプレッシャー、夫婦間のコミュニケーション不足などが考えられるでしょう。

出産後、家族のそばにいたくても、会社の方で育児休暇が取りにくかったり残業を断れない風潮があり、ストレスになっていたというパパの声もありました。

また、ママは出産後にホルモンバランスの変化で、赤ちゃんを育てる本能が高まるのに対しパパは変わりません。

そのため、パパよりも赤ちゃんへの愛情の方が上回ってしまうと、ママが赤ちゃんにしか目を向けず自分を放置している、ママに夫婦関係を求めても拒否される、ママの機嫌を取ろうとしても怒られるといった不満から、パパがストレスを感じやすくなるでしょう。

産後クライシスについてのママたちの体験談

ママたちに産後クライシスの体験談について聞いてみました。

 
 

第一子出産後に、産後クライシスがありました。産後の夫は、絵に描いたように自己中心的で、赤ちゃんが生後2カ月の時点で当時発売されたゲームを徹夜でクリアしてリビングで爆睡していました。

それを見て当時、赤ちゃんが全く寝なくて寝不足のピークだった私は、ショックでその足で駅に向かって新幹線のチケットを買っていました。そのまま赤ちゃんを連れて7時間近くかけて実家に戻り、「もう夫とはやっていけない、離婚しよう」と思いました。

その時は、かなり感情的に電話やメールでやりとりしていたと思います。結局、夫が謝ってもとに戻りましたが、その後もこういったことは何度かありましたね……

 
 

第二子出産の際に、それまでは夫婦仲が良かったのに産後クライシスになったことがありました。

もともと私は専業主婦でしたが、出産での体の負担からの回復を待たずに、それまでと同じように動くことはできません。にもかかわらず家事育児のほとんどを私が担い、手伝うそぶりを見せない夫に不満を感じました。

さらに夫が金銭問題を起こしたことで「夫ではなく一緒に子どもを育てる他人」としか思えなくなった時期が2カ月程ありました。

最終的に離婚届に必要事項を記入しましたが、夫は焦って提出しないよう私を説得しました。離婚の代わりに、今不満に思っていることをすべてぶつけ家事育児の分担をすることに。そこから夫は本当に人が変わったように家のことや子どものことをやるようになりました。

その後もいろいろと問題が起きていますが、今では何かあってから話し合うのではなく、常日頃からコミュニケーションを取るようにしています

 
 

出産後の日々は、夫婦2人とも慌ただしくなり夫婦関係が悪化する暇もなかった気がします。逆に、子育ての終わりが見えてきて2人だけの生活が見えてきた今の方が、とくに会話もなくクライシスな状況です

子どもの誕生前に産後クライシスの対策をしよう

※写真はイメージ(iStock.com/Yagi-Studio)
※写真はイメージ(iStock.com/Yagi-Studio)

産後は、慣れない育児で夫婦とも不安定になりやすく、ママのホルモンバランスの乱れや、出産や育児・家事に対する夫婦の価値観の違い、夫婦間のコミュニケーション不足なども関連して、産後クライシスが訪れることがあります。

その対策として特に、パパが出産後のママの状態に配慮し、育児や家事を分担する姿勢を示すという点はとても大切かもしれません。

また、ママがパパに対して子育てのパートナーとして信頼する点も重要です。産後は、赤ちゃん中心の生活になりがちですが、赤ちゃんだけに愛情を注ぐのではなく、パパに対しても感謝や気遣いなどの愛情表現をかかさないことが大事でしょう。

もし産後クライシスが訪れても、少しずつ夫婦の時間を確保しながらお互いにサポートしあい、夫婦の絆を深めるチャンスとなればよいですね。


監修:

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河井恵美

河井恵美

看護師・助産師の免許取得後、大学病院、市民病院、個人病院等、様々な診療科を経験し、助産師歴は25年。青年海外協力隊でコートジボアールとブルキナファソに赴任した後、国際保健を学ぶために兵庫県立大学看護学研究科修士課程に進学・修了。現在は、シンガポールの産婦人科クリニックに勤務し、日本人の妊産婦さん方のサポート。世界にいる親御さんを応援するため、インターネット上でエミリオット助産院も開設している。

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