子どもを狙う性犯罪者の原動力は「性欲」ではない。本当の目的とは

子どもを狙う性犯罪者の原動力は「性欲」ではない。本当の目的とは

世界的に安全な国として位置づけられている日本。だが近年は、小学生をはじめとする子どもの誘拐や連れ去り、性犯罪被害のニュースは後を絶たない。この連載では、親として認識すべき安全対策、子どもへの安全教育について紹介する。第4回は、『「小児性愛」という病――それは、愛ではない』を著書に持つ、大船榎本クリニック精神保健福祉部長の斉藤章佳氏に性犯罪の加害者心理を聞いた。

「子どもを狙う性犯罪の加害者」と聞いて、どんな人物像をイメージするだろうか。

人がほとんど町にいない平日の日中にあたりをぶらつき、見た目に気を配らず、いかにも挙動不審。本性はオオカミのようでありながら、見た目は根暗で非モテな雰囲気で、コミュニケーションが苦手そう。

このようなイメージを持つ保護者は、子どもに「知らない人に気をつけなさい」「あやしい人についていっちゃだめ」と教えているだろう。

しかし実際には、加害者の中には子どもにかかわる職業に就いている、あるいは過去に就いていた人も一定数以上存在するとしたらどうだろう。また、彼らが子どもに向けるまなざしは「性欲」ではなく、「純愛」や「支配」だとしたら……。

私たちが一般に持つ小児性犯罪者のイメージを覆す加害者はどんな思考をして、どのようにして犯行に及ぶのか?そして、保護者がアップデートすべきことは何か?

精神保健福祉士・社会福祉士として、長年、日本で先駆的に性犯罪の加害者臨床を行っている斉藤章佳さんにお話を伺った。

「子ども」だからこそ、誰も気づかない

――子どもへの性犯罪は、大人への性犯罪とどう違うのでしょうか。

まず、事件が表面化されにくいことが挙げられます。

アメリカの研究者ジョナサン・エイブルの有名な性犯罪研究では、未治療の性犯罪者は生涯に平均して380人の被害者に対し、延べ581回の加害行為をしていると指摘しています。

これ自体が驚きの数ですが、私が以前担当していた子どもを対象とした性犯罪加害者のひとりは「僕の場合は、少なく見積もってもその3倍はいると思います」と真顔で言っていたのを思い出します。

つまりは、ひとりの加害者が1,000人を超える数の子どもに加害行為を行い、しかもそのほとんどが誰にも気づかれず、被害者は何をされたかわからないことが多いため表沙汰にならないということです。
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私が所属する榎本クリニック(東京都豊島区)では、2018年より、「小児性愛障がい」と診断され、子どもへの性加害を経験した者に特化したプログラムを行っています。

事件が明るみになって逮捕されたり、そこまで行かなくとも周囲に気づかれてようやくクリニックを受診することになるのですが、彼らが初めて子どもに加害行為をしてから当クリニックを受診するまでの平均は、約14年間です。

平均14年間ものあいだ一度も罰せられることなく、子どもへの加害行為をくり返していたということになります。

――犯行が気づかれにくいのはなぜですか。

まず、幼い子どもの理解力の未発達や脆弱性、生きる世界の狭さから被害をすぐには認識できないこと、また加害者に「内緒だよ」など巧妙に手名付けられ同意したと思い込まされることもあります。

もう少し踏み込んで考えると、性的虐待順応症候群など加害者からの支配的な発言が子どもを無力にさせ、性加害に順応せざる得ない状況を作りカミングアウトが遅れてしまうのも理由のひとつです。

子どもたちに身近な存在である人が加害者である場合もあり、私のクリニックに通う加害者との初診時の職業を見ると、学校の先生を始め、子どもにかかわる職業に現在就いている、もしくは過去に就いていた人が全体の3割を超えます(初診時の職業は16%)。
 
子どもにかかわる職業に携わる加害者は、同僚や保護者からも信頼や人気を集める存在であることも珍しくありません。

そのため、子どもが加害行為をされたときでも、「先生はみんなの人気者なのに、自分のせいで悪者扱いされてしまうかもしれない」と思って被害を周囲に伝えにくく、言ったとしてもきっと信じてもらえないと孤立化し黙ってしまいます。

実際に、子どもが他の先生や保護者に被害を伝えたときに「どうせあの子が先生の注目をひとり占めしたくて、虚言を言っているんだろう」とまともに取り合わないことがあります。

そうして事態が明るみに出るまで、次々と被害が生まれているのです。
 
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関係性を築いてから犯行に及ぶ「グルーミング」

――子どもと普段かかわっている人たちの中に、と思うと、親としてもどう予防すべきか迷ってしまいます。

子どもにかかわる大人だけに注意をしていればいいかといえばそうではなく、もうひとつの特徴として、小児性犯罪の加害者は相手と関係を構築して手名付けてから犯行に及ぶ「グルーミング」を行うというものがあります。

これは、見ず知らずの相手を狙う痴漢や盗撮とは大きく違うところです。

公園などで何度か話しかけて関係性を築き、子どもが断れず言うことを聞くことが分かってから加害行為に及ぶため、子どもは「誰にも言ったらだめだよ」と加害者から言われた通り、何をされても親には黙っているのです。
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――子どもに日ごろから「知らない人に気を付けて」とか「信頼した人にしか身体を触らせてはいけないよ」と言っていても、その意味がないということですね……。

さらに、彼らは子どもが「未熟」であることにこだわるため、男女の身体の特徴が明確になる第二次性徴が現れる前であれば、性別を問わないという加害者もいます。

コロナ禍で特に相談事例として多く挙げられた事例は男の子のものでした。

女の子は小さいころから親や周囲に気をつけるよう言われて育ちますし、最近では「プライベートゾーン」「性的同意」について学ぶ機会も少しずつ増えていますが、男の子には親のガードもゆるくなりがちです。

「男の子は元気にたくましく育てる」といった男らしさを刷り込む教育方針もまだ残っていて、男の子の側もそれを知った上で、外出先の大型ショッピングモールや公園などでも、小学校低学年ぐらいになると母親と女子トイレには入らず、ひとりで男子トイレに行こうとします。

その傾向を把握している加害者が、一瞬の隙を逃さずに男の子に声をかけ、巧妙に接近し距離を縮め、やがて犯行に及ぶのです。
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たとえば、子どもの好きなゲームを遊ばせてあげると言ってスマホを渡し、子どもが手に取った瞬間に画面が消える。

それはあらかじめ画面が消えるように設定されているからなのですが、それを見て「君、俺のスマホ壊したね」と。「これ高いんだよ、弁償できるの?」「お母さんに言うよ」「どこの小学校か教えて、先生に言うから」と畳みかけます。

そうやって子どもを追い詰めながら手名付け、「許してほしいなら、ズボンを脱いで写真を撮らせて」と要求し、子どもは言われた通りにしてしまいます。そのまま個室に誘うなど行為がエスカレートしても逃げ出せなくなってしまうのです。

加害者はこれを、ものの5分程度で行います。つまり彼らは、子どもの誘い方や関係作りに非常に長けているのです。

彼らは、場所・時間帯・相手・状況などを見極めて、巧妙に加害行為をくり返します。いくら子どもに触りたいと思ったとしても、決して交番の前では加害行為に及びません。これもまた、事件が表面化しない理由のひとつです。
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「性欲の発散」ではなく「純愛」や「飼育」が目的

13歳以下の子どもに対して継続的に性嗜好を持ち、本人がその性嗜好を行動化していたり、その衝動により著しい苦痛や機能障害が生じている状態を「小児性愛障がい」といいます。

それはれっきとした精神疾患であり、その反復性や衝動性の高さから嗜癖行動(行為依存)としての側面もあります。

依存症といえば、やめたくてもやめられない病。

ある特定の行動によって、脳にある「報酬系」と呼ばれる神経回路が刺激され、満足感や快感を得るドーパミンが分泌されると、この報酬系は強化されやがて条件反射の回路ができていきます。

小児性愛障がいの場合は、児童ポルノや子どもと性行為をしたいという慢性的な願望や行動が報酬系回路を刺激し、その成功体験が重なるたびに、行動は強化され嗜癖行動へとつながっていくのです。
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――「犯罪だ」と分かっていながら、衝動を止められない状態ということでしょうか。

日本では刑法上、13歳未満の子どもとの性交は、同意の有無に関わらず犯罪です(性行同意年齢)。小児性犯罪者も、子どもとの性的接触が犯罪になることは分かっています。それでも、子どもと性交渉がしたい。

そこで彼らは、自分に都合のよいように現実を捉え、子どもへ性加害したいという欲求を正当化しようとします。この自己正当化理論を認知の歪みといいます。

たとえば、子どもへの性加害を「純愛」や「飼育」だと思い込んでいる例があります。

「恋人同士だった」と児童と真剣に交際していると思い込み、性犯罪の加害者と被害者として引き離されたことに憤慨する加害者や、「子どもが誘ってきたんだ」と思い込むタイプや、「どうせいつか経験するのだから教えてあげた、これは性教育だ」という目的で行為に及んでいた加害者もいます。

もちろん子ども側はそんな認識はなく、巧妙に同意に追い込まれたり、何をされているのか分からず声を出せないままフリーズしていた、または拒否しようとすると声を荒らげる加害者が怖くて言われるがままになっていたということなのですが、それを加害者は「子どもは黙って受け入れてくれた(沈黙=受容)」と都合よく認識しているのです。
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また、3歳の女児に加害行為をした保育士の男性は、逮捕されたあと警察署での面会で「3歳だと記憶に残らないじゃないですか。Win-Winですよね」と言いました。幼いために被害を認識できないとしても、トラウマは身体が記憶しているため大きくなった時にフラッシュバックすることもあります。

このように、自分の欲求を完遂するために、また加害行為を続けるために、自らの都合のよい方へ考えを正当化することこそ認知の歪みの本質なのです。

――相手が何もわからない子どもだということが、余計に認知の歪みを加速させているのですね。

この「認知の歪み」自体は、多かれ少なかれ誰にもあるものです。たとえば、赤信号だから渡らずに待たないといけないところを、「ちょっとの距離だし、車も来てないし」と判断して渡ってしまうことも、自分の都合に合わせて現実を勝手に解釈したひとつの例です。

これと同じように小児性愛障がいの人々もその歪みを持っていますが、彼らの場合はいくつもの歪みを抱えており、しかも、自分のしようとしていること、していること、してしまったことを、それぞれの段階で正当化しながらエスカレートさせていくのです。

こうした認知の歪みを背景に、小児性犯罪はほかの性犯罪と比較しても再犯率が高いことが分かっています。
 

社会から排除しても性犯罪者は減らない

――小児性愛がいのような精神疾患は、治療して完治するということはできるのでしょうか。

同カテゴリーの行為依存であるギャンブル依存症や窃盗症(クレプトマニア)にも言えますが、嗜癖性障害に完治ありません。

私たちが「梅干しを見ると唾液が出る」という条件反射の回路を持っているように、小児性愛がいの人々は「子ども」という存在自体がそのトリガーになり、だめだと分かっていてもその衝動や行動の制御ができないのです。

だからこそ、その欲求や衝動とうまく付き合いながら、社会に適応できるような行動様式を身につけていくことが治療になります。

その方法のひとつが「認知行動療法」。自身のハイリスク状況や犯行のパターンを知ること、引き金の同定、そしてそれらへの具体的な対処行動を決め、反復練習することがポイントです。

さらに、自分のなかに根強くある認知の歪みに対してどのように反応するかをあらかじめ決めておいて、セルフトークを訓練しながら自分でその歪んだ認知を否定して行動する練習をくりかえすのです。これはまさに、いつも右手で使っている箸を、左手に持ち替えてうまく使えるように練習することと似ています。
 
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――精神疾患とはいえ、子どもを持つ親としては、性犯罪者とはかかわらないようにしたいと思ってしまいそうです。

幼い子どもが犠牲となった性犯罪では、「一生、刑務所から出すな」といった強い論調が世論から噴出します。そう思うのも無理はありませんが、実際にこれは現実的ではありません。

性犯罪者の処遇の方法は、世界的に見てもさまざまです。

アメリカには、再犯の危険性がある性犯罪者の名前や住所、犯罪歴などの個人情報を住民に公開することを定めた「メーガン法」という法律があり、韓国にも性犯罪の前科がある者はGPS装着する「電子足輪法」が定められています。このGPSが内蔵されている足輪を付けた性犯罪者が自殺する問題も起きており課題は山積しています。

しかし、どの対策も再犯率を大きく改善はしてはいません。

そこで、私たちのクリニックでは、「彼らの再犯を防止するのは、環境調整をして孤立させないこと」だと考え、小児性愛障がい者に特化した再犯防止プログラムを日本で初めて立ち上げました。

犯罪のなかでも子どもを狙った性犯罪者は、言うまでもなく様々な場面で排除される傾向にあります。刑務所のヒエラルキーのなかでも最下層で、社会にふたたび戻ってからもいちばん排除される存在であるといえます。

そこで共通の問題を抱え、同じ罪を犯した者たち同士が仲間として集まり、今まで誰にも言えなかった体験を正直に分かち合う「グループミーティング」を行います。
 
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コップの中の濁った水をそのままにしておくと何も見えなくなってやがて泥水のようになるものですが、仲間たちと自分の体験を言語化し分かち合うことで、定期的に入れ替える作業をするのが治療の場所です。

彼らにも社会で生きていくうえでこういう場所が世界に一つは必要なんです。それがやがて再犯防止につながります。

――自分は孤独ではないということが、性加害の欲求を抑えてくれると。

人が過ちを繰り返さず、そこに踏みとどませるものには3つあると思うのです。

ひとつは社会の中にちゃんと自分の居場所があって、「いろんなことがあったけど自分はここにいていいんだ、ありのままの姿でいていいんだ」と思えること。

そしてふたつめが、裏切ってはいけない大切な人がいるということ。孤独はその逆で、人とのつながりがないと人は自暴自棄になるため、大切な人が歯止めになるわけです。

最後は希望があること。これらは小児性愛障がいの人でなくても、同じ過ちをくり返さないために大切なことです。
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斉藤章佳(さいとう・あきよし)/精神保健福祉士・社会福祉士。大船榎本クリニック精神保健福祉部長。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践・研究・啓発活動を行っている。著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)、『「小児性愛」という病-それは、愛ではない』(ブックマン社)、最新刊に『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)など多数。
<取材・執筆>KIDSNA編集部

2021年09月24日

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