【仁禮彩香/後編】子どもが自分の人生を切り拓くための大人のサポート

【仁禮彩香/後編】子どもが自分の人生を切り拓くための大人のサポート

小学校1年生で学校の設立を働きかけ、中学2年生で起業、高校1年生で母校のインターナショナルスクールを買収した23歳が注目を集めている。若き教育改革者は、現在の教育の課題はどこにあり、教育の本質はどうあるべきだと考えているのだろうか。株式会社TimeLeap代表取締役の仁禮彩香さんにインタビューした。

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教育に絶対に必要なのは“自己認識”。自分がどういう人間か理解する機会を与えられないままでは人生の目標を設定できず、生きる力を育むための本質的な教育はできない。

子どもの特性にあわせた選択肢をもっと増やして、自分の才能を楽しみながら学べる“多様性のある教育システム”を実現したい。

前編でそう語ってくれたのは、株式会社TimeLeapの代表取締役を務める仁禮彩香さん(以下、仁禮さん)。

仁禮さんが子どもの頃に感じた日本の教育の違和感とはどのようなものだったのか。そして仁禮さんの行動力の源はどこにあるのか。後編ではそのルーツに迫る。
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仁禮彩香(にれい・あやか)/1997年生まれ。株式会社TimeLeap代表取締役。慶応義塾大学在学中。中学2年生で株式会社GLOPATHを設立。教育関連事業、学生と企業向け研修などを手がける。高校1年生のときに母校の湘南インターナショナルスクールを買収し、経営を開始。2016年に株式会社Hand-C(現TimeLeap)を設立。2020年に完全オンライン制の起業家教育プログラム TimeLeap Academyを開始。

インターナショナルスクールの経験から自分の人生を切り拓いた

仁禮さんが初めて自分が望む教育の実現のために行動したのは小学校1年生のとき。入学した公立小学校での教育のあり方に疑問を感じた仁禮さんは、母校であるインターナショナルスクールの幼稚園の園長に、小学校設立を訴えに行ったという。

――インターナショナルスクールの幼稚園から公立の小学校に入学して、どんなギャップを感じましたか。

インターナショナルスクールでは、自主性を発揮して、みんなで考えたりディスカッションすることを重視した教育を受けていました。

公立の小学校はそれとは真逆でした。教科書に書いてある答えを当てた人が正しくて、決まったひとつの答えをみんなが求めていく。自分の頭で考える機会が少なかったように思います。

印象に残っているのは、英語の授業で、英語が得意な私に対して先生が「英語でしゃべらないで」といったこと。

英語の授業の目的は“英語を身につけること”。私は当然話せるし、他の子の手本にもなると考えて英語でしゃべっていたのですが、「他のみんなはまだしゃべれないから、彩香も英語しゃべらないでね」っていわれたんです。

ある意味クラス全員が横並びで、同じレベルで授業を受けることを強要されたとも取れます。ただ実際のところ、小学校って、すべての教科をひとりの先生が教えていて、クラスには生徒が何十人もいる。

その子どもたちの統制をとることにいっぱいいっぱいで、私ひとりの個性を生かすことに気持ちや時間を割く余裕がなかったんだろうなとも思うので、先生が悪いということではなく、仕組みの問題ですね。
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――インターナショナルスクールであればあり得ない光景でしょうか。

インターナショナルスクールといってもいろいろな学校があるのですべてがそうだとはいえないのですが、私が知っている中では、自由度があって、生徒の個性を排除するよりは生かそうとしてくれる設計になっているという印象です。

仮に根本的な授業のやり方は公立とあまり変わらなかったとしても、積極的にしゃべろうとする生徒がいたら会話を振って、先生とその子でいっしょに授業を回していったりだとか、そういうライブ感がある授業をやろうとしてくれる。

クラスが少人数なのでコミュニケーションに余裕があったり、先生のマインドセットにもカリキュラムの設定にも柔軟性があると感じますね。実践ベースの学びも多いと思います。
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私の場合、こうしたできごとがあって公立の学校教育のあり方に疑問を感じ、母校であるインターナショナルスクールの幼稚園の園長先生に、当時はまだなかった小学校の設立を訴えに行きました。

園長先生は真摯に私の話を聞いて、実際に小学校を作ってくれて。小学校2年生からはその学校に通いました。

――学校の設立は簡単なことではないと思いますが、なぜ園長先生は小学校1年生だった仁禮さんの訴えに対して、そこまで本気で対応してくれたのだと思いますか?

単純に園長先生がすごすぎるんですよ。「子どもたちが自分の人生を切り拓いていけるようにサポートする」ということに命をかけている。

子どもたちと本当にまっすぐ向き合っていて、年齢がどうだからということで人を判断せずに、対等な存在として話を聞いてくれる方なんです。
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iStock.com/SDI Productions
私というひとりの人間が「この幼稚園の小学校版を作ってくれ」とわざわざお願いにきて、「自分が理想としている“一人ひとりの個性を受け入れた上で、どうやっていっしょに生きていくかを考えさせてくれる教育”が必要なんだ」と訴えている。

「それを無視する方がどうかしている」と思ったと、彼女はいっていました。

学校設立に関しては周囲にすごく反対されたということもあとから聞いたんですけど、「それでも作っちゃった」って話してましたね(笑)。本当に最高の先生と出会えたんです。

この経験から、自ら行動することで誰かの助けを得ながら、自分の世界は変えられると学びました。彼女の意志を受け継いで、私のやり方で教育を提供しているのがTimeLeap Academyだと思います。

――小学校2年生で新設されたインターの小学校に通ってどうでしたか。

最初は生徒が6人くらいしかいなかったので、先生だけでなく生徒もいっしょに学校のあり方を考えさせてもらいました。

その中で先生たちは、私たちがどうしたら学びやすいかということを常に聞いてくれたり、個性に合わせて選ばせてくれました。

たとえば漢字の勉強では、最初に学校にあったテキストをわかりにくいと感じたんです。

なので私と友だちで本屋へ行って、わかりやすいテキストを探して購入し、学校に「これで勉強したいです」と提案しました。そうしたらそれを採用してくれて。

音楽やサッカーを極めたい子がいたらそのための授業を組んでみんなで学んだり、そんな風に話し合っていっしょに教育の形を作っていくということができていました。
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インターナショナルスクールに通う小学校時代の仁禮さん
――中学は公立の学校に入学することを選択されましたが、その後も母校とのつながりはあったのですか?

ずっとありましたね。卒業生同士で仲がよくて、中学校2年生で立ち上げた会社も卒業生のメンバーで作りました。日本の教育に問題意識をもって、新しい教育を提案できないかと考えました。

学校の方でもサタデースクールという土曜日の勉強時間を作ってくれて、そこで卒業生が先生たちと学ぶことができて、もうずっといっしょにいるので、家族のような関係になりました。

高校1年生のときに母校のインターナショナルスクールを買収して経営に着手したのも、そういうつながりがあって、あくまで母校の発展を支援する目的です。

親子の会話で「自分が何者か」を形づくる

――現代の日本の子どもは自己肯定感が低いといわれ、9月のユニセフの発表でも精神的幸福度が先進国の中でかなり低い水準とされています。仁禮さんは教育者としてどう思われましたか?
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あれは衝撃でしたよね。もう本当に悲しかったです。

なんとなくわかってはいたんだけど、改めてああいう風に突きつけられると現実として重く受け止めざるを得ないですよね。

一方で、あの調査では幸せの測り方がすべての国で同じ指標になっているのですが、日本人が感じる幸せのあり方と他の国の価値観が違う部分もあるので、そのまま鵜呑みにして「相当不幸なんだ」と受け取ってよいかはちょっと疑問を持たないといけないと思っています。

とはいえ、子どもの自己肯定感が低いっていうのは普段から感じるところもあるので、衝撃を受けて「これはやばい、何とかしなきゃいけない」と痛烈に感じました。

やっぱり学校でも家庭でも、子どものときに「あなたは素晴らしい」「あなたが存在してくれるだけで幸せ」ということを伝えてくれる人がいたり、何かの成功体験を積んで自分を肯定できる実体験を得る機会があったりすることが大切。
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自分がいったひとことで誰かが動いてくれるとか、作ったもので誰かがよろこんでくれるとか、小さいことでいいんですよ。

そういうことの積み重ねで自己肯定感は育めるので、それをもっとやらないとダメだなと、教育をやってる人間として思いましたね。

――仁禮さんのご両親は家庭でどのように接してくれましたか?

母は言葉でのコミュニケーションを大事にしていて、たとえば先ほどの英語の授業に関しても、怒りを抱えて家に帰り「こんなことがあったんだけど」と話したら、「先生はどうしてそういう風にいったんだと思う?」と質問をして、自分で考えさせてくれる。

親子の会話は、とても多かったです。

あとは、できないこととかやりたくないことは「できない」とはっきりいう性格。それを私や父に正直に伝えてくれるから、助け合うことができていました。

母にはそういう風に、質問を繰り返すことで自己認識をする時間をもらったし、“人は完璧でなくていい”ということを教えてもらいました。
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父は「家族がハッピーなら僕もハッピー」みたいな感じで、いつもみんなが幸せかどうかを考えてくれる人。

教育の考え方などは母に委ねているのですが、キャンプや海水浴などに出かけて、自然に触れる機会をたくさん作ってくれました。

動物や植物に接すると生きものが共存する環境について考えるきっかけにもなるし、建設会社に勤めていて建物や文化的なものに対して関心が高かったので、お城や遺跡の跡地にも連れていってくれたりして、“人がものを作る”ということについても考えさせられた。

いろんなものを見せてもらったのは大きな経験ですね。父には感性の部分を育んでもらいました。母もあらゆる音楽を聴かせてくれて、それも確実に私の感性を磨いてくれたものです。

――仁禮さんは生徒の保護者と関わる中で、家庭学習の必要性について感じることはありますか?

私は教育に関して保護者が全部をやらなきゃいけないとは全く考えていないです。ただ子どもたちの話を聞いてあげてほしいなというのは強く思いますね。
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それも保護者からの「こうしなさい」「ああしなさい」とかではなく、「今日学校で何があった?」とか、映画を見たあとに「これ観てどう思った?」とか、その子が感じてることや思ってることを日々質問してあげてほしいなと。

子どもの考えを聞いてあげることが家庭でできるだけで、子どももどんどん自分のことを知るきっかけになるし、保護者も「そういうことを考えているんだ」と気づける。

こうした自己認識のきっかけを作るだけですごく変わると思います。うちももう質問ばかりされていましたから。

子どもに大人の“不完全性”を見せる

あともうひとつ保護者の方に伝えたいのは、“完璧でなくていい”ということ。

特に今は日本の教育に対して問題意識を持っている方が増えてきて、だからこそより子どものためにと考えて完璧な環境を求めたり、親として完璧でいなきゃいけないと思っている保護者も増えているのではないかなと思っていて。

でも子どもって、完璧でいようとする大人をたくさん見ていると「自分も完璧にならなきゃいけないんだ」って思ってしまう。

余裕がなかったり忙しそうなお父さんお母さんを見たら、頭がいい子は「今はこういうことやらない方がいいかな」と遠慮してしまったりもするんです。

そうするとありのままの自分を肯定することや、気軽にコミュニケーションをとれる関係性も遠のいてしまいますよね。

だから子どもにはあえて“不完全性”を見せてほしいなと思います。
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――子どもの手本でありたいと思って、よい大人でいようと心がけている保護者は多いかもしれません。

でも人って誰も完璧じゃないし、できないことがあって当たり前ですよね。それをちゃんと伝えあって、補いあえる関係を築いた方が生きやすいじゃないですか。

だから子どもたちにもそういう風になってほしくて、私もメンターとして教える立場にはいますが、アカデミーでは生徒たちに素直に「タイムマネジメントができないから誰かこの時間になったら教えて」とか、「返信とかは苦手だからなかなか返せないと思う」と伝えています。なので連絡は他のスタッフにほぼおまかせ。

どうしてもできないこととか苦手なことはちゃんと伝えて、その上で人と助け合ったり代替案を探したりして、“別の形で補えるんだよ”というのを子どもに見せる。

これができると保護者本人も余裕が生まれるし、子どもたちも「補いあって生きていっていいんだ」っていう風になれるのではと感じています。
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――幼児期の子どもを育てる保護者には、小学校入学後の教育環境に不安を持つ方も少なくありません。子どもが通う学校の教育に子ども自身や保護者が疑問をもったとき、保護者はどう向き合い行動するべきだと思いますか?

もし公立の学校で教育を受けて教育環境や体制などに疑問を持った場合、真正面からぶつかって全部変えようとしても、しんどいこともあると思うんですよ。

疑問を伝えて学校が変わってくれればもちろんいいですが、思い通りにいかない可能性が結構ありますよね。

そのときは視点を変えて、子どもといっしょに学校の疑問点に対していっしょに考えたり、問題は何かを認識して、学校のあり方自体をある種の“教材”としてしまえばいいと思うんです。

子ども自身がおかしいなと思ったことがあるんだったら、保護者と子どもは「それは変だね」っていう考えを共有して、「何でこういう風になってるんだろうね」「この問題はどうしたら解決できるんだろう」っていうことをいっしょに建設的に話し合う。

子どもの思考力の部分でいえば、家庭でそういうコミュニケーションを取るだけでも育まれるので十分補えると思います。

あとは、いろいろな人に会わせてあげること。
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TimeLeap Academyのメンターは、ある大人から見れば輝かしい肩書きのあるフロントランナーですが、子どもたちは彼らが社会的な実績があるからではなく、自分の人生を切り拓いている、会ってワクワクする人たちだから、慕うのです。

保護者の周りにも自分の友だちで違う業界で頑張っていたり、いっしょにいて楽しいなと感じる人がたくさんいるんじゃないかなと思いますが、そういう人たちと子どもを会わせてあげることもよい経験になる。うちでメンターに会わせるのと大して変わらないですよ。

たとえばカフェで働いてる友人がいたら実際に行ってみてその仕事をのぞいてみたり、会話をしたりして「こういう仕事もあるんだ」「こういう考えを持っている人もいるんだ」ということを体感させてあげる。

社会の中で生きているいろいろな人たちと子どもを触れあわせてあげることは、すごくよい体験機会になると思います。子どもの教育や実践を学校にすべて依存する必要はないと感じますね。
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――小学校設立を働きかけたり、起業や母校買収などさまざまな行動を起こしてきた仁禮さんですから、一歩を踏み出せない子どもや保護者に対してアドバイスはありますか?

『これはもうちょっと準備できてからじゃないと』と思って走り出せないことは私もあるんですよ。

でも完璧なタイミングなんて、たぶん永遠に来ないですよね。大事なのは“トライ&エラー”の精神だと思っています。

完全に準備ができていなくても、多少の迷いがあっても、とにかく始めちゃった方がいい。その中で見えることが必ずあると思うんです。

たとえば、子どもの才能をどうやって見つけてあげたらいいかわからない保護者がいたら、とにかく習い事でも何かの経験でもいいので、子どもが興味を持ったことにトライさせてみる。

そのなかで本人が「向いてない」と感じたらやめればいいし、またやってみたいと思うことが出てきたらトライしてみればいい。

子どもが小さいうちは本人の意思を確認するコミュニケーションは難しいと思うかもしれないですけど、ずっと問いかけていれば、だんだん答えられるようになってくるんですよ。

TimeLeap Academyのプログラムを保護者も見られるようにしたときに、「うちの子がこんなことを考えてるなんて知りませんでした」とか「こんなことがいえるなんてびっくりしました」という保護者の方がいましたが、家で質問してあげれば同じことが返ってくるはずなんです。

子どもを信じて、コミュニケーションもトライもどんどんさせてあげてほしい。そして“失敗してもいいんだよ” “不完全でいいんだよ”ということを伝えてあげてほしいと思います。

体験を積み重ねる“実践の機会”があれば、子どもは自分の力で成長していけます。

<取材・執筆>KIDSNA編集部

2020年11月06日

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