【染矢明日香】子どもの性教育は幼児期から

【染矢明日香】子どもの性教育は幼児期から

子どもをとりまく環境が急激に変化している現代。小学校におけるプログラミング教育と外国語教育の必修化、アクティブ・ラーニングの導入など、時代が求める人材像は大きく変わろうとしている。この連載では、多様化していく未来に向けて、これまで学校教育では深く取り扱われなかったジャンルに焦点を当て多方面から深掘りしていく。今回は、性の健康に関する啓発活動を行うNPO法人ピルコンの染矢明日香さんに話を聞いた。

「私はどうやって生まれてきたの?」「どうしてパパとママの体はちがうの?」

子どもに何気なく聞かれたとき、どう答えているだろうか?

すぐに答えられなかったり、あいまいに返事をするパパやママも多いかもしれない。

けれど今や、子どももインターネットを使ってSNSやメディアに触れるのは当たり前の時代。まずは、子どもがふだんどんな風に性情報に接しているかを見てみよう。

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間違った性情報を信じてしまう子どもたち

幼児期の子どもは、人間の体や命に興味津々。

親がまだ早いと感じて「コウノトリが赤ちゃんを運んできてくれるんだよ」「もう少し大きくなったら教えてあげるね」とあいまいに答えたとしても、現代は、さまざまな性情報にあふれている。そしてそれは、家庭以外のところで、子どもたちは容易に手にしていくことになる。

こんな時代だからこそ、子どもの興味や成長スピードに合わせて、性について家庭でしっかり伝えていくべきではないだろうか。

NPO法人ピルコンの染矢明日香さんは「間違った性情報に触れたり、性に対して否定的なイメージがつく前に、身近で信頼できる大人から子どもに正しい知識を伝えることが大切です」と語る。

染矢明日香/
染矢明日香/NPO法人ピルコン理事長。自身の経験をきっかけに、日本の望まない妊娠・中絶の多さに問題意識を持ち、中学校、高校、大学等で性教育講演を実施するほか、保護者や教育関係者向けの性教育講座や政策提言、海外の性教育動画「Amaze」の日本語翻訳プロジェクトの統括を行う。著書に『マンガでわかるオトコの子の「性」 思春期男子へ13のレッスン』(合同出版)。中学生・高校生が抱える性のモヤモヤにこたえるwebメディア「セイシル」のアドバイザーも担当。

――学校や家庭で、子どもたちがどう性と向き合うべきか悩む親もたくさんいると思います。性に対する課題のひとつは、子どもの情報の取り扱い方でしょうか?

「日本の性に関する課題は、望まない妊娠、不妊、性感染症、デートDVやセクハラなどの性被害と山積みですが、その背景にあるのは『性の知識不足』『当事者意識不足』です。

さらには相手にどう伝えるか、というコミュニケーションや、そもそもお互いに対等で尊重しあえる関係か、といった関係性の問題もあります。

性に関する情報は今や氾濫しており、インターネットやスマホが普及した今、メディアやSNSは不確かで偏った情報でいっぱいです。SNSを通した10代の性被害は年々増加し、警視庁が2018年に発表した調査によると2017年は過去最多になっています」

たとえ積極的に性への関心を持っていない子どもでも、自分が意図しないところで性情報に触れてしまったり、性的な関心を向けられることもあるかもしれない。

また、スマホをいつ持たせるかといった問題や、たとえインターネットの使用を制限するフィルターをかけて持たせたとしても、子どもをとりまく性の情報が完全に遮断できるわけでもないとなると…子どもが小さいころから最善を尽くしたいと思う親も多いだろう。


性知識不足を背景に、社会的リスクが連鎖

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iStock.com/Wako Megumi

――性についての正しい知識を得ることができない子どもたちには、どんなリスクがありますか?

「インターネットやSNSの発達により、偏った性情報を鵜呑みにしたり、人間関係がうまく築けない子どもが増えています。

家族や親との関係が希薄になることにより自尊心が下がり、居場所探しや自分探しが安易な性行動や不確実な避妊につながることも。そうすることで、若年妊娠や性感染症のリスクが増え、家庭内暴力や貧困、虐待などの被害にあう可能性も高まります。

望まない妊娠は、さまざまな社会問題と密接にかかわっているので、このリスクの連鎖に歯止めをかけることが重要です」


身近な若者が伝える講演活動

冒頭に示したアンケートの調査結果では、性の情報源で「友だちとのコミュニケーション」と答えた割合が大きい。どこからか得た間違った性情報が、友だちづたいに広がっていく、それを子どもが信じ込んでしまったら、自分や、ほかの友だちを傷つけることになるかもしれない。

「ピルコンでは、中・高校生向けに、自分の将来を守るために必要な性と、ライフプランニングの知識をわかりやすく伝える出張授業『LILY』を行っていますが、授業のはじめに、性知識の正答率をはかる問題をやってもらうことがあります。

すると、この〇✖問題の正答率が極めて低いものが多くみられました

【高校生に実施した正誤問題の一部】

排卵はいつも月経中に起こる(✕)

正解率:18%

低用量ピルは月経痛や月経不調の改善の効果がある(〇)

正解率:19%

避妊に失敗したとき、72時間以内に使える緊急避妊薬がある(〇)

正解率:21%

精液がたまりすぎると、体に悪影響がある(✕)

正解率:24%

このように、排卵や射精の仕組みや、避妊、性感染症についても知らない子どもが多かったのです。ふだん、インターネットで見る情報や友だち間で話していることが、どれだけ不確かなままで子どもたちに吸収されているかが分かります」

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出張授業「LILY」では、性の健康をテーマに、思春期におこる心身の変化、妊娠・ライフプランニング、性感染症、男女交際(デートDV)、性情報との関わり方について、正しい知識と体験談や体験型ワークショップを交えて子どもたちに伝えている。

――子どもたちの反応はどうですか?

「子どもたちは、性について大人と同じように多様なイメージを持っています。ただ、性=非日常のもの、タブーであるというイメージ持つ子が多いと感じています。授業のはじめも、特に男の子は、そわそわしたり、ふざけてにやにやする子も。

『LILY』では、大学生や若手社会人が先生となり、身近な立場から伝えるピア・エデュケーションという手法を活用しています。子どもたちは大人に教わるより仲間意識を感じやすいので、『この人がそうしてるなら』と自分ごと化し、行動変容が起きやすい仕組みです。

授業を受けた後は、『正しい情報を得られてよかった』という声がとても多い。高校生の場合は、『もっと早く知りたかった』という声もありました。

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NPO法人ピルコンが2018年にアンケートを実施した調査では、34歳以下の若者から接触機会が広がるアダルトコンテンツに対して、「相手を傷つけない性行為」について学ぶ機会を求める声が、保護者からも性教育は必要だという声が多く寄せられた。

こんな風に、子どもたちが感じる性のタブー感は、彼らが接してきた社会や学校、家庭の価値観そのもの性を肯定的に学ぶ場所がないことが、大きな問題のひとつです」

子どもが誰にも相談できず悩まないように、自分自身を、そして他人を傷つけないで済むように。子どもに一番身近な存在である親自身も性を肯定的にとらえ、正しい知識を持つことが必要なのだと目の当たりにさせられる。

世界のスタンダードと日本の差は大きい

性教育に否定的な日本

――日本の性教育に足りないものは何でしょうか?

「海外といってもさまざまですが、たとえば『子どもが世界一幸せな国』として有名なオランダは、国が内容や目的を細かく定めたガイドラインがあり、0歳から性教育がはじまります。

世界のスタンダードと日本を比べてみると、海外では性教育で扱う内容の最低基準が設けられているのに対し、日本はありません。それぞれの学校の裁量に任されている面も多く、海外では年12~20時間、幼少期からくり返し学ぶのに対し、日本の中学校ではおよそ年に3時間だけと、性に関して学ぶ時間が圧倒的に少ないのです。

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iStock.com/monkeybusinessimages

また、海外では、性行動が活発化する中学生くらいまでに具体的で実用的な内容を学ぶのに対し、日本では、小学校では『受精に至る過程は取り扱わない』、中学校で『妊娠の経過は取り扱わない』という『はどめ規定』があり、セックスについては教えてはならないと解釈する学校の先生も多くいます」

――たとえ授業で扱わなかったとしても、現代の子どもたちは容易に性情報を目にしたり、調べることができるのに。

「私たちに性教育の講演を依頼してくる学校でさえ、『性行為を助長させないためにも、リスクや恐怖を生徒に教えてください』という先生方もいる。学校教育においては、まだまだ性や性教育に対するネガティブなイメージが強いです。


新しい性教育はもう始まっている

一方で、現在の世界のスタンダードは『包括的性教育』。科学的に正確な情報を幼少期から文化・年齢に応じて与えながら、子どもが自分で考えて決められる力を育むことが目的とされています。

性を性交や出産だけではなく、人との関わり方や相手の立場を考えることとしてとらえ、適切かつ健康的な選択をするための知識や態度、スキル、価値を学びます。ジェンダー平等や性の多様性を含む人権尊重に基づいているのも特徴で、性を肯定的にとらえること、そして必ずしも一つの正解があるわけではなく、多様なあり方が存在することを前提とするという考え方に基づくものです。

5歳から18歳まで各年齢に応じた学習目標がまとめられた指針が公表されており、5歳から教えるのは早すぎると考える人も多いと思います。ですが、早い段階で多くの情報を与えてしまうことで、子どもが性に活発になるというのは誤解です。

世界中の性教育の研究を調査し、性教育後、性行動を早めたとする研究は0%でした。そして37%は性行動を遅らせるという結果をもとに、『包括的性教育は若者の性行動を促進することはなく、むしろ責任感を高め、性行動をより慎重化させる』『年齢に応じた適切な性教育により思いがけない妊娠や性感染症等のリスクを減らす』ということが示されています。

性にはさまざまな側面があり、妊娠・出産という生殖の役割もあれば、支配や暴力など、傷ついたり傷つけてしまうことも起こり得る。だけど本来は、人と人のあたたかい関係を深めるものでもありますよね。“性の健康”において、知識だけでなく自分を大切にし、相手を尊重することができることも重要なファクターです」

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幼少期から子どもに教えておきたいこと

ここまで、子どもをとりまく性情報、日本と海外の性教育の比較と話を聞いてきた。では、子どもが間違った性情報に触れたり、性に対して否定的なイメージがつく前の幼少期の段階で、子どもにどんなことを教えるとよいのか。実践編として、言葉の選び方や伝え方のポイントなどを含め、レクチャーしてもらった。

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プライベートゾーンと性的同意

「子どもから出てくる質問で多いのが、『どうしてパパとママは違う体をしているの?』や『赤ちゃんはどこから生まれてくるの?』といったもの。性的な欲求を感じる前から体や性器、命の誕生について疑問や興味を持つのはとても自然なことです。

性に対していやらしさやエロといったイメージがつく前の小さいときから、科学的にやさしく伝えることは、自分の体や成長を含め、性を肯定的にとらえることにつながります。

まずは子どもの質問に対し、どんなきっかけで疑問に思うようになったのかを逆に質問したり、絵本なども活用してみてください。

特に、幼少期からの性教育で大切なのは、プライベートゾーンという考え方。アメリカで生まれた言葉で、口や胸、おしりや性器など水着で隠れる部分、“自分の体の大切な場所”のことを指します。

自分と相手との境界線をきちんと持つためにも、『他の子には見せないようにね』『他の子の大切なところだから触らないようにね』『自分のプライベートゾーンはひとりの時に手でやさしく触っていいんだよ』と伝えておくといいですね。

“自分の体は自分のもの”という感覚を持たせるためには、性的同意も日々の生活の中で伝えられる大切な考え方だと思います」

――日本は“空気を読む” “言わなくても伝わる”といった文化があり、性的同意に関してはピンとくる人が少ないかもしれません。どんな風に教えるとよいですか?

「たとえば、パパとママがちょっとしたスキンシップを取るときに、『手をつないでいい?』『いいよ』と許可を取り、同意し合っているところを見せてみてはどうでしょう。

『ちょっと今はイヤかな』と言われたときにはやめたり、『腕を組むのはどう?』と違う提案をしてみるのもいいですね。子どもへのスキンシップも同様です。

もし返事がなかったり、はっきりしないときはYESではないことや、たとえ過去に一度同意をしたとしても、その後のすべてを同意するわけではないこと、途中で気が変わってもいいんだよということも伝えたいですね。

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iStock.com/kohei_hara

お風呂やトイレトレーニングでは、性器を『汚い』や『恥ずかしい』という言葉は言わずに、『(ほかの体のパーツと同じように)大切なところ』という言い方をしたり、服を脱がせる前に『脱がせていい?』と聞いたりできます。

また、子ども自身が相手に許可をとるとき、NOと言われることは『あなたが嫌い』という全否定の意味ではないことや、悲しい気持ちになるかもしれないけれど、相手のNOはNOと受け止めよう、といったことも伝えたいですね」


思春期の心身の変化に寄りそう

「これに加えて、女の子の場合、小学校で初経や月経について教わりますが、仕組みやナプキンの使い方について習うだけで、月経痛や月経不順になった時の対処法については触れられないことも。

幼少期には、お風呂にいっしょに入ったときに、生理について『赤ちゃんはお母さんのおなかの中で大きくなるのは知ってる?』『女の人のおまたには命の通り道があるんだよ』『ここから血が出ることがあるけど、ケガで出る血とは違うよ。おなかにある赤ちゃんのお部屋の掃除をしてるんだよ』と伝えられます。

小学生になったら、『生理中に学校にいけないくらいお腹が痛くなることや、生理は月に1回くらいあるけど、3ヵ月以上こなくなることもあるかもしれないよ。そうなったら体が健康かどうか調べるためにお医者さんに行こうね』と伝えてみてはどうでしょうか。

さらに男の子は、学校で精通について十分教えられていないのが現状です。そのため、急な射精や夢精に恐怖や戸惑い、嫌悪感を覚える子もいます。

『思春期になると寝ている間に精液という白い液体が性器の先から出てパンツが濡れることがあるかもしれない。それは恥ずかしいことじゃなくて、大人の体に近づいてるって証だよ』『そうなったら、パンツを洗って洗濯機に入れておいてね』と一言かけることもできます」

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――映画やテレビ番組の性的なシーンも、チャンネルを替えるべきか、悩みます……。

「子どもにアダルト動画を見せるのは性的虐待になるので避けるべきですが、ドラマのベッドシーンなど線引きが微妙なものもありますよね。

子どもから遠ざけたり、隠したりするよりは、いっしょに話し、考えるきっかけにしてみてはどうでしょう。『このシーンをいっしょに見て、どんな風に感じる?』と聞いて、感じ方を共有する。親自身も意見を言うし、子どもの意見も聞いてあげることで、自分自身の理解にもつながります。

また、家庭によって伝え方はさまざまなので、『うちではこういう話をするけれど、お友達のおうちでは違うかもね』『人によっては性に関する話が苦手な人や聞きたくないって人もいるよ』ということも教えておくといいですね」

何でも言い合える親子の関係に

――スマホやインターネットの使用に関しても、制限をかけるだけでなく、私たちが子どもと向き合って伝えていくのをセットで行わないといけないですね。

「子どもの行動を一方的に制限するのではなく、子どもが自ら考えて選択できるように支え、そしてその選択をジャッジするのではなく、応援することが豊かな人生につながっていくものだと思います。

私が日本語翻訳プロジェクトとして現在携わっている海外の性教育動画『AMAZE』では、保護者へ向けたポイントとして子どもから性についての質問があるまで待つ必要はないといい、その一方で、子どもとの性の会話は始めるのに遅すぎることはない、子どもと性の会話をはじめることで、子どもの生涯を通じた性の健康を実現する手助けにつながるともいっています。

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iStock.com/Yagi-Studio

保育園児や幼稚園児の場合は、子どもが興味を示し、疑問を投げかけてきた瞬間がチャンスです。後回しにしたりあいまいに答えたりせず、『よく気づいたね!』と知りたい気持ちを受け止め、きちんと答えてあげてください。そうすることで『パパとママはちゃんと質問に答えてくれるんだ』という安心感が育まれ、次からも質問しやすくなります。

また、小学校の高学年くらいになると、体に生じた変化を子どもから親に言うのはとてもハードルが高いです。親の方から事前に『こういう変化があるんだよ』と伝えておくことで、性に関する疑問や悩みを話し合える、あたたかい信頼関係ができていきます」

性情報から子どもを遠ざけるのではなく、まずは私たち保護者が意識を変え、正しい知識を伝えること。そのためには、幼少期から何でも聞ける、何でも言い合える関係づくりが必要だ。

子どもが将来、自分や大切な人を本当の意味で大切にできるように、今からできることはたくさんある。

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家庭ではこう教えたい「性教育」

子どもが興味を示したその瞬間がチャンス!

家庭の中に、あたたかい性の会話を


<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部

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