マンションポエムはとにかく「奏で」がち…ついに地名を変えて習志野市の谷津が「奏の杜」になるまで
ポエムの地名化の是非
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マンションポエムとしてすっかり定着した感のあるマンションの広告コピー。千葉県出身のライター、大山顕さんは「習志野市の一部がマンションコピーに合わせて正式な地名を変えたのには驚いた。しかし、それでいいのかという疑問も感じる」という――。 ※本稿は、大山顕『マンションポエム東京論』(本の雑誌社)の一部を再編集したものです。
マンションポエムは防災を謳わないのか
2011年の震災後に集めようと思ったものが、「帰宅ログ」のほかにもうひとつある。防災を謳うマンションポエムである。ところがそういうマンションポエムはあまりない。もちろん、どの物件広告ウェブサイトにもある「構造」ページには、免震構造を採用していることなどが説明されているが、トップページのキャッチコピーに防災を謳う文言はほとんど見られない。これは震災前と震災後でほとんど変化していない。
これはディベロッパーが防災に及び腰であるということではなく、広告というものが持つ性質に由来していると考える。つまり、免震について強調すると、見た人の意識が地震に向いてしまい、それはマンション広告がアピールしたいこととはかけ離れてしまう。
もちろん防災は重要で、実際に対策は施されている。しかしそれを言うことは必ずしも宣伝として有利に働かない。注意をひくという広告の基本機能がアダになるわけだ。だから、ことさら強調しないほうがいいということになる。ひととおり立地の素晴らしさについて見た後、「ところで防災についてはどうだろう」と思った購入検討者に対しては「それはこちらに詳しく説明があります」と誘導すればいい。
免震をポエム調でPRするとおかしなことに
とはいうものの、ときおり免震をポエム調で謳う物件はある。これがまた味わい深い。
「地震の備えには、過保護でいいと思う。」(「パークシティ武蔵小山 ザ タワー」三井不動産レジデンシャル/旭化成不動産レジデンス・2019年築)
「免震タワーレジデンスが、神戸をワタシ色に染めてゆく。」(「ジ・アーバネックスタ
ワー神戸元町通」大阪ガス都市開発/大林新星和不動産/大和ハウス工業・2016年築)
「ヴィンテージの資質。洗練の赤坂に、やすらぎの免震。」(「フォレセーヌ赤坂氷川町」
フォレセーヌ・2009年築)
「眺望を日常に。安心を免震で。」(「ノブレス藤沢鵠沼」ナイスエスト・2017年築)
「白金の空と大地に、新たな迎賓を紡ぐ免震タワーレジデンス。」(「ザ・パークハウス
白金2丁目タワー」三菱地所レジデンス/ 野村不動産・2018年築)
「POWER LIFEを堪能する人々に相応しい超高層免震タワーレジデンス」(「グラン
ドミレーニア」住友不動産・2015年築)
一生に一度の高額商品購入にあたって暗い気分にさせてはいけない。あくまで高揚感のあるテイストを保ったまま、地震対策について触れなければならないという、両立しがたい難しい問題に対する回答がこれらである。
難題に対して考えすぎたのか、ちょっと妙なことになってしまったポエムもある。
「日本の災害から逃げないタワー。」(「Brillia Tower 聖蹟桜ヶ丘 BLOOMING RESIDENCE」東京建物/東栄住宅/京王電鉄/伊藤忠都市開発・2022年築)
いや、逃げようよ。