「あぶらとり紙」だけでは会社が潰れる…京都土産の定番になった「よーじや」、35歳の5代目が抱いた強烈な危機感
1日の売り上げが1746円の時もあった
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あぶらとり紙で知られる「よーじや」(京都市下京区)が、60年間利用し続けた企業ロゴを変更し、ネット上で大きな話題となった。その狙いはどこにあるのか。よーじやグループ5代目の國枝昂さんに、フリーライターのマエノメリ史織さんが取材した――。
「正直、あぶらとり紙は宝くじに当たったようなものでした」
黒髪でおちょぼ口の手鏡に映る女性――「よじこ」という愛称で親しまれてきたロゴマークは、長年にわたり京都土産の定番として、多くの人に愛されてきた。
その「顔」が、この春、大きく変わることになった。
2025年3月26日、よーじやは60年ぶりとなる企業ロゴのリニューアルを発表した。手鏡の中にいた「よじこ」の姿は消え、デザインはシンプルな文字と手鏡のシルエットに変更。そして、「よじこ」が手鏡から抜け出した新キャラクターも誕生し、大きな話題を呼んだ。
このニュースを受けて、ネット上には「昔のデザインが京都っぽくて好きだったのに」「新キャラは修学旅行生にウケそう」「ロゴを変えるなんてリスキーでは?」といった、賛否両論が飛び交った。
それほどまでに人々の反響を呼ぶよーじやの代名詞といえば、あぶらとり紙である。1店舗で1日1200万円を売り上げたこともあるという。そのほとんどがあぶらとり紙の売り上げだった。
しかし、その繁栄の裏で、実情は大きく揺らいでいた。
「正直、あぶらとり紙は宝くじに当たったようなものでした。僕がこの会社の実情を知って最初に思ったのは『うっすい会社だな』ってことでした……」
そう率直に語るのは、よーじやグループ5代目代表・國枝くにえだ昂こうさんだ。國枝さんは、家業を継ぐ以前、監査法人に勤めながら公認会計士を目指していた。家業に関して、父からはほとんど何も知らされておらず、「よーじや」に関する情報はどこからも得ていなかったという。
そんな折、2018年末、銀行から「経営状況が悪化している」と連絡を受けたことで、初めてよーじやの危機を知った。実は、それまで赤字が続いていることを内部で認識しているにもかかわらず、誰も手を加えなかったという。
経営の内情を知るにつれ、國枝さんは「うっすい会社だな」と感じざるを得なかった。しかし、まだ自分が戻るタイミングではないと思っていた。よーじやに戻るとしても、10年、20年先のことだろうと考えていた。
ところが、2019年2月に先代である父が病に倒れ、状況は一変。同年8月、國枝さんは29歳という若さで代表取締役に就任することとなった。
家業を継いで、会社の現状を知る
「父が倒れなければ、公認会計士の最終試験を受ける予定でした。僕はずっとよーじやの蚊帳の外で、なんにも会社のことを教えてもらえなかったんです。でも、呼び戻されたとき、『自分を必要とされている』と感じて、本気でよーじやを立て直そうと思いました」
ただし、現実は想像以上に厳しかった。
売り上げの問題だけではない。改革を進めようとしても、社内の空気は重かった。古くからの幹部たちは、國枝さんの話に無反応。反発すらなく、沈黙だけが広がっていた。
「当時、よーじやのことを本気に思っている人もいなくて、残念でしたよ」
社長が代替わりすることは受け入れられていた。けれど、それ以上の変化を期待する空気はなかった。