夫と別れたくても別れられない妻がいる…「1泊1000円のゲストハウス」に900人以上がやってきた"本当の理由"

夫と別れたくても別れられない妻がいる…「1泊1000円のゲストハウス」に900人以上がやってきた"本当の理由"

法律や制度だけでは人を救えない

【前編】警官は「ここはホテルじゃないから」と拒絶した…警察署に助けを求めた18歳少女が最後に行き着いた場所 DVや孤立、困窮で、誰にも頼れず生きづらさを抱えた人たちが、長野県上田市の「やどかりハウス」にたどり着く。10代から中高年まで、2020年の発足以来900人以上が利用してきた。なぜ彼らはここに逃れてきたのか。法律や制度があっても“助けられない現実”と、世界を変えていく“人間の力”にフリーライター・ざこうじるいさんが迫る――。(後編)

公的支援を受けられなかった40代女性

「行政による支援が届かない場所」にいるのは、10代の若者だけではない。DVや貧困、障害のある子どもを抱えた母親たちもまた、逃げ場のない日常に苦しんでいる。

重い自閉症の子どもがいる40代の綾乃さん(仮名)は、50代の夫から子どもの障害について「お前のせいだ」と言われ続けてきた。

夫は子育てにはまったく関わろうとせず、夫婦間での会話は途絶えて久しい。にもかかわらず「お前は俺のものだ」と言って昼夜構わず不同意性交を強要する。夫は経済力があったが綾乃さんには十分なお金を渡さず、性的にも経済的にも支配する状況が長年続いていた。

公的支援では離婚する前提でなければ保護の対象にはならないが、子どものことや経済的なことを考えると離婚は難しい状況だった。やどかりハウスの相談員である秋山さんは、綾乃さんの複雑な心境を次のように話す。

「支配によって、ここでしか生きられないとか、自分には力がないと思わされてしまっているんです。それがDVだと気づいたとしても、やっぱり大事な家族だという気持ちもあるので、混乱するんですよ。怒りを感じたり、自分がどうしたいかということに意識が向く段階になるまでには、時間がかかるんです。すぐに離婚を決められる人はほとんどいません」

綾乃さんは家庭から距離を置くために、やどかりハウスをたびたび利用するようになった。元来明るくてエネルギーのある綾乃さんは、複雑な思いを抱えながらも、自立のために資格をとったり、お金を貯めたりするようになる。そしてついに先日、「家を出ました」という報告が届いた。

「誰かがサポートしてくれると思えれば、力が戻ってくる」と秋山さんは言う。綾乃さんは、「いつかやどかりに集まってくる女の子たちとスナックを開きたい」と夢を語る。

就労、生活保護だけが支援なのか

やどかりハウスの利用者は、劇場を兼ねたゲストハウス「犀の角」に身を寄せる。「宿泊の理由を問わない」という当初からの方針で、駆け込んで来る人たちの背景は、暴力被害に限らず多様だ。

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筆者撮影 やどかりハウスの宿泊スペース。1泊1000円。2020年12月の開始から4年間でのべ971人、4429泊を受け入れてきた(2025年3月時点)

引きこもりがちな青年や、家庭に閉塞感を感じている母子、派遣切りに遭って住む家がなくなった人……。公的支援との違いは何なのか尋ねると、秋山さんは「決めつけないこと」と話してくれた。

「行政はそれが就労なのか生活保護なのか家なのか、みたいに分類して決めないと関われないんですが、本当はそのどれにもあてはまらないし考える時間が必要なだけっていう例がたくさんあるんです」

利用者たちは、やどかりハウスで現実から一時的に離れる時間を持つ。自分と向き合う時間を過ごすこともあれば、旅人や街の人、劇場を訪れた文化人とともに賑やかな宴会に参加することもある。

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筆者撮影 相談員の秋山紅葉さん。相談したことでむしろパワーを奪われてしまうことがあるという
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2025.07.16

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