なぜAmazonの「買うボタン」はオレンジ色なのか…脳科学者が解説する「売れる色」のつくり方
ヒトの視覚は意外に「騙されやすい」
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売れる商品をつくるには、何が必要なのか。東北大学の川島隆太教授は「特にネットを介した購買行動は、『中のヒト』によってコントロールされている。消費者のこころを動かすニューロマーケティングの仕掛けを理解し、利用すればいい」という――。 ※本書は、川島隆太・岡田拓也・人見徹『欲しがる脳』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
「見る」ことに脳の大部分が使われている
私たちはレオナルド・ダ・ヴィンチの、「五感は魂の僕しもべである」という言葉どおり、五感すべてを使って外界を認識しています。しかし、それぞれの五感から脳が受け取る情報量には大きな差があります。
中でも最大のデータ帯域を占め、「第一の感覚」として利用されるのが視覚です。網膜から視覚中枢へ伝わる信号は毎秒およそ1億ビットと推定され、これは聴覚系の100倍〜1000倍前後に相当します。
こうした膨大な情報を処理するため、ヒトの大脳皮質の約20%は視覚関連領域で占められていると推定されており、後頭葉全域に加え、側頭葉・頭頂葉の一部まで広がる巨大ネットワークを構成しています。
情報を取捨選択するフィルター
哺乳類、特にヒトの視覚系がここまで肥大化した背景には、視覚情報が生存の可能性を大きく左右することがありました。肉食動物のような危険な捕食者を避け、安全に獲物(食物)を見つけるための感覚器が必要不可欠だったのです。そこで視覚系は、遠距離からでも「敵か餌か」を瞬時に判断できるよう、情報を取捨選択するフィルターとして進化していきました。
逆にいえば、危険を瞬時に判断できなかった個体から命を失い淘汰されていくわけですから、当然その視覚情報の処理は高速であればあるほど生存の可能性が高まります。そのためには、網膜から受け取る膨大な視覚データすべてを緻密に処理することはあまりに非効率的です。
そこで網膜からの信号は脳内で10分の1以下に圧縮され、さらに前頭眼野の担うトップダウン処理によって「いまもっとも重要そうな信号」に選択的に注意資源を配分します。言い換えれば、視覚系は大量の情報を能動的に捨てながら、限られたリソースを生存価値の高い刺激へ集中させているのです。