孤独のまま、不安のままでいい…芥川賞作家・田中慎弥「自信も学歴もないから曲がり角はこうやって進んできた」
順風満帆で自信満々の"作品"なんてつまらない
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自分のやりたい道に挑戦するには何が必要か。『孤独に生きよ 逃げるが勝ちの思考』(徳間書店)を上梓した作家の田中慎弥さんは「臆病になっても継続さえできていればいい。その先の実現が肝心なのだから、あえて不安を払拭する必要はどこにもない」という――。
創作の核をつくるための孤独
なにかをなそうとするとき、孤独がついてまわる。それは必要だからついてまわるのです。
わたしの場合でいえば、こうなります。まず小説を書く準備段階で、編集者と顔をつき合わせて、さまざまなやり取りをする。テーマや方向性を確認し、どのような舞台設定にするのか、取材は必要か、必要なら手筈てはずはどうするのか、どのくらいのボリュームの作品になりそうか、完成のめどはいつになるのか――。
そういう細々したことを摺すり合わせたうえで、いざ執筆にとりかかる。こうなればあとは独りです。だれもいない部屋で机の前に座り、来る日も来る日もひたすらねちねちと書いていくしかない。
いったん原稿を書き上げたら編集者に見せて、そこでふたたび、ここはもう少し書き足したほうがいい、ここの書き込みは長すぎる、という具合にやり取りする。そうした作業を何度か繰り返して作品を仕上げていきます。
人と一緒にいる時間、独りきりの時間。この両方が必要なのですが、創作の核は、孤独な時間のうちにあります。
思考を強化するための孤独
こうした構図は、なにも作家にかぎったものではないでしょう。
会社勤めの場合なら、あなたには上司や部下とこまめなコミュニケーションをはかる時間があり、一方で、自分なりにプランを練って黙々と業務を遂行する時間がある。二種類の時間を絶え間なく行き来する。
作家に較べれば、独りの時間は少ないのかもしれませんが、それでも孤独抜きに仕事に取り組むことはできないという点で同じです。
孤独とは思考を強化する時間でもあるので、その時間が足りないと、建設的な提案や、あるいは反論ができなくなる。生産性を高められなくなるし、無理筋な要求を唯々諾々いいだくだくと受け入れるはめにもなります。
いずれにしても、あなたなりの考えを練っておくことは非常に大切です。なにかしらのチャンスが訪れたときにものをいいます。