ワクチン未接種の家族は80~90%の確率で感染する…小児科医直伝「大流行中の百日咳」から身を守る方法
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激しい咳が長期間にわたって続く「百日咳」が、昨年から大流行している。小児科医の森戸やすみさんは「最近では抗菌薬が効かない耐性菌も出てきているので、ワクチンでの予防が大切だ。定期接種だけでなく、特に就学前の児童と妊婦さんは追加接種を検討してほしい」という――。
長期間にわたって咳が続く百日咳
今、子どもを中心に「百日咳」の患者さんが増えています。2024年半ばから徐々に増え、5月20日現在の患者数は日本全国で1792人。百日咳は2018年から全数把握をする感染症になっていますが、それ以来で最多の報告数です。
そもそも百日咳というのは、百日咳菌によって起こる呼吸器感染症のこと。百日咳菌が飛沫あるいは接触感染で鼻やのどから体内に入ると、およそ7~10日間の潜伏期間の後に風邪のような症状が起こり、特徴的な咳が続く「痙咳期けいがいき」が長く続いたあとに治ります。
百日咳は非常に感染力が強く、1人の感染者が平均で何人にうつすかを表す「基本再生産数」は16〜21と麻疹と同程度です。そして、家族にワクチンを接種していない人がいると、80〜90%の確率で感染します。麻疹のように高熱が出たり、発赤疹が出るなどの派手な症状がないので、「そんなにうつりやすい病気だったなんて」という人も多いでしょう。
ワクチンを導入したお陰で患者数がとても減っていたことも、認知度が低かった原因かもしれません。実際に患者層として多いのは5〜15歳で、学校安全保健法第2種の感染症であることから、登園・登校してよいのは「特有の咳が消失するまで又は適正な抗生物質製剤による治療が終了するまで」です。
百日咳の最大の特徴は、激しい咳が長く続くところ。「百日」咳というくらいですから、大きい子どもや大人でも、数カ月間もの長きにわたって咳が続き、とても苦しい思いをします。さらに乳児の場合は、哺乳意欲がなくなって栄養不良や脱水に陥ったり、呼吸が苦しくなったりして、命に関わることもあります。また、ほとんどの人が軽快しますが、肺炎や脳症を合併する場合があるので注意が必要です。
百日咳にかかってしまったら
では、子どもが百日咳かもしれないと思ったら、どうしたらいいでしょうか。もしも5種または4種または3種混合ワクチンにより百日咳ワクチンを接種していない場合は、直ちに小児科を受診してください。重症化するリスクが高いからです。
一方、すでに百日咳ワクチンを接種している場合は、熱はないのに普段と違う激しい咳が出る、咳が長く続くときに受診しましょう。ワクチンを接種した子は典型的な痙咳ではなく、ひっきりなしに軽い咳が出るというのが、私の印象です。
小児科では、まず検査を行います。百日咳の検査としては「核酸増幅法」が一番感度の高いもの。綿棒で鼻やのどを拭って、PCR検査を行います。院内で検査する医療機関と外注する場合があります。
同じく綿棒で鼻やのどを拭って院内で行う「迅速診断キット」もありますが、感度が低いので陽性だったら確かに百日咳ですが、陰性でも否定しきれません。そのほか「培養検査」もありますが、非常に感度が低いので一般的ではありません。「血液検査」で抗体を見ることもできますが、ワクチンを受けていると解釈が難しいです。症状や診察所見、周囲の状況から臨床診断される場合もあります。