若い人でも「スマホ認知症」のリスクはある…コミュ力低下、情緒不安定など「老人認知症」とそっくりな5大症状
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長らく続く体調不良、突然訪れた気力の低下……。それらの原因は「スマホの使いすぎ」にあるかもしれない。スマホが人体に与える悪影響を、専門分野で活躍する現役医師が分析。現代病の処方箋を読者に届けよう。
医療の現場でスマホは「危険な依存性物質」
移動中の電車内や休憩時、待ち時間など、少しでも空き時間があるとスマホに触れているという人は多いのではないでしょうか。スマホを絶え間なく使い続けていると、脳はかなり疲弊します。スマホの使いすぎによる脳過労は、仕事のパフォーマンスを低下させ、健康にも悪影響を及ぼします。
脳過労を一言で説明すれば、脳内物質(神経伝達物質)のバランスが崩れている状態です。主要な脳内物質として、集中力を高めるノルアドレナリン、「快楽物質」といわれるドーパミン、そのバランスを調節するセロトニン、覚醒作用を持つオレキシンなどがあります。
これらのバランスが保たれている状態が、脳が健全な状態です。スマホを使いすぎると、バランスが崩れ、脳過労の状態になります。
そもそも、私たちがスマホを使いすぎてしまうのは、スマホを通じて新しい情報に触れることでドーパミンが分泌され、手っ取り早く快楽を得られるからです。ドーパミンは、人間特定の行動に対して、その報酬として「気持ちよさ」を与えます。私たちはそれを味わい続けたいために、その行動を繰り返すようになります。それが行きすぎると、やめたくてもやめられなくなる依存症へとつながります。
医療の現場では、スマホは酒やタバコ、薬物などと同じように、依存症を引き起こす危険な依存性物質と認定されています。依存性物質には、5つの共通点があります。「気持ちよさをもたらす」「飽きない」「無限性」「確実・手軽」「一見すると安全」です。
この5つの特徴をバランスよく満たしているのが、スマホにほかなりません。特に厄介な要素が「一見すると安全」です。危険性が広く知られている酒や薬物などと違い、スマホは安全だと見られているため、電車内でも病院でも、どこででも扱うことができます。それだけに、つきあい方に気を配りたい存在といえます。
スマホ依存症になると、スマホをやらないとドーパミンが出ないような体質になっていきます。本当はもっと大事なことを考えなければならないはずなのに、我を忘れてスマホをやるような状態になるのです。
スマホを使いすぎて脳過労になると、次のような症状が現れます。
まず「全身の疼痛」です。スマホを使いすぎて脳が疲れると、体のさまざまな部位に原因不明の痛みが現れることがあります。すでに完治している古傷が痛んだり、慢性的な腰痛や頭痛などがある場合は、脳過労が影響している恐れがあります。
脳が疲れすぎると、なぜ痛みを感じるようになるのでしょうか。痛みは体の末梢部分から電気信号となって脊髄の後角という部分に伝わり、脊髄を経て脳へと伝わります。それと同時に、脳内ではノルアドレナリンが分泌され、過剰な痛みに抑制をかける信号が後角に送られます。この仕組みによって、多少の痛みがあっても感じずに済むようになっているのです。しかし、脳過労によりノルアドレナリンが枯渇すると、痛みの抑制が利かなくなり、慢性疼痛のような原因不明の痛みに敏感になります。
そして、「不眠症」も招きます。スマホを使い続けると、オレキシンが過剰に分泌されます。オレキシンは、動物が自分の身を守るために不可欠な覚醒作用をもたらす物質です。スマホから発せられる光や動画、不安を煽る情報などが、オレキシンの分泌を促します。一方で、睡眠作用をもたらす脳内物質のメラトニンは、外部環境が明るいと十分に分泌されません。これらの作用から、夜にスマホを見すぎると、寝つきにくい、眠りが浅い、朝早く目覚めてしまうなどの症状が現れます。