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マンガで性教育を発信するヲポコさんが「大人こそ性教育を学ぶべき」と語る理由【やらかし性教育番外編】
KIDSNA STYLEにて性教育にまつわる自身の失敗と学びをマンガにした「やらかし性教育」を連載中の漫画家・ヲポコさん。子どもに向けた性教育を学ぶうち、ご自身にも前向きな変化があったと語るヲポコさんに、マンガで性教育について発信し始めたきっかけや、大人が性教育を学ぶ意義について伺いました。
知識がなければ子どもも加害者になりうる
――ヲポコさんにはKIDSNA STYLEで「やらかし性教育」を連載いただいていますが、それ以前から性教育をテーマにマンガを描いて公開されていますね。性教育をマンガで発信し始めたきっかけはありますか?
2020年にあるツイートを見たのがきっかけです。それはとある保育園で起きた子ども同士の性暴力事件で、被害を受けた子どもの保護者によるものでした。現在は削除されているので詳細は伏せますが、概要だけお話しすると、被害を受けた子どもが病院に行くほどのケガをしたにもかかわらず、保育園側がそのトラブルに対して真摯に対応してくれなかった、という内容でした。
その一連の話を見て、これは特殊な例ではなく、きっとどこの保育園でも起こりうることだなと思って衝撃を受けました。こういった事件を防ぐために何かできることはないだろうかと考えてみたところ、他人のプライベートパーツを触ってはいけない/触らせてはいけない、というような、性教育の基本的な知識を子どもに伝えることが大事だと思い至ったんです。
わたしはもともと保育士として働いていたのですが、当時は社会全体もわたし個人も、子どもへの性教育に対する意識が今ほど高くありませんでした。今だったら「おしり触っちゃダメだよ」「スカートめくっちゃダメ」などのような声がけをすると思いますが、当時はわざわざそういうことを言っていなかった。なので、今もまだ意識が更新されていない保育園では、ことさらそういった注意をしていないはず。では、わたしにできることはないだろうか、と考えました。
ちょうどその頃包括的性教育(※1)の本が出始めていて、そういった本を読んで学んだことを「自分だったらこう伝えるかな」と考えて、マンガにまとめてネットで公開し始めたのが、2020年の6月のことでした。
<※1>包括的性教育
身体や生殖の仕組みに関する知識だけではなく、人権意識を基に、ジェンダー、多様性、人間関係、性暴力の防止なども含めた総合的な教育を指す。
――文章だけではなく、マンガにすることで間口が広がっていると思います。
まだうちの子どもが小さかったときのことを思い出して、片手で子どもを抱っこしながらでも読めるようなマンガにしたいと思いました。絵のタッチも、育児中のしんどい時でも抵抗なくスッと入るようなものがいい。それでいて、「読んで視点が変わった」「ためになった」と思ってもらえるようなマンガを描けたらいいですよね。それは今も日々励んでいるところです。
――ヲポコさん自身が包括的性教育を学ぶ中で、特に参考になった本は?
『あっ!そうなんだ!性と生―幼児・小学生そしておとなへ』(エイデル研究所)ですね。
性教育の本は、ほんの数年前に書かれたものでも「今はこういう書き方はしないな」と感じることがよくあります。この本は2014年に出ていますが、その意味で今読んでも違和感がなく、内容もわかりやすくまとめられていてオススメです。
あとは、先日記事でも紹介させていただいた『だいじ だいじ どーこだ?』(大泉書店)。
性教育のおかげで「呪い」が解けた
――子どもの被害や加害を防ぐために性教育を学び始めたということですが、ご自身にはどんな気づきがありましたか?
子どもに向けた性教育について深掘りすればするほど、自分がいかに正しい知識を教えられてきていなかったか、と実感することばかりでした。これまでに言われたりされたりして嫌だったことなんかも思い出すようになって。
――特に嫌な記憶として残っていることを伺ってもいいですか?
特に嫌だったのは「女子力」の押し付けですね。わたしが一番多感だった学生時代を振り返ると、その頃「女子力」という言葉がすごく流行っていました。当時は、身なりをきれいにすることに加えて、料理が出来たり人に気遣いできたりすることが「女子力」と呼ばれていました。
わたしにとってはそういう価値観がとても窮屈で、中でも父親から「そんな女子力ゼロでこれからどうすんねん」「嫁のもらい手ないぞ」みたいな言い方をされるのが本当に苦痛でした。
――それは嫌ですね……。
「嫁のもらい手がないぞ」って言い方も若い人が今聞いたら「別に結婚しなくてもよくない?」という感覚かもしれないですよね。
でも当時は、「未婚は売れ残り!」「結婚して寿退社出来たら勝ち組!」みたいな価値観が社会全体にあって、結婚やモテに関わる「女子力」の重要性を当てこすることが親子間、友人間でも起こっていたんです。
――そういう時代でしたね。そういえば、最近「女子力」って聞かなくなった気がします。
今は当時よりもジェンダー平等の意識が浸透してきて、さすがにあまり聞かなくなった言葉ですよね。そもそも当時「女子力」とくくられてきたものの多くは、つまりは「生活力」だ、という指摘もされるようになりました。料理、洗濯、掃除などの家事スキル、身だしなみやマナーなどは、女性だけが持っているべきものではなくて、男性が身につけることでもスムーズに生きていけるようになる能力です。
今そういう認識が広まってきて、さらには性教育を学ぶことによって、ようやく呪いが解けたなと思います。身体的な性別は女だから、世間の言う「女らしさ」に沿わないといけないと思っていた世代なので、性別で行動を縛られることなく、あなたはあなたらしくいていいんだよ、というメッセージを受け取って救われました。
――性教育を入り口にジェンダーのことも学んでいかれて、ご自身の過去の呪縛からも解き放たれたと。
わたしの場合は学んで楽になりましたが、逆に「もっと早く知りたかった」という思いもありますね。それこそ、結婚前や出産前に知っていたら全然違っただろうなと。
ジェンダーやフェミニズムはわたしにとって「意識が高い人のもの」という認識があったんです。だけど性教育をきっかけに、ジェンダーやフェミニズムにも触れるようになって、見識が広がった気がします。自分が楽になっただけではなくて、世の中のあらゆる事件に対しての認識も変わりました。
ーーどんなふうに変わりましたか?
たとえば、親の子どもへの虐待のニュースには「最低の親だな」とか「そんなことするなら産むなよ」といったコメントがよく寄せられますよね。だけど、ジェンダーを学んだことで、虐待するまでに追い込まれた親の背景を想像できるようになったんです。
母親が子どもに虐待したとして、その背景には父親である夫からのDVがあるかもしれない。そしてその夫にも背景があり、もしかしたら激務から抜け出せずにいるかもしれない。そもそも、母親が家事育児をしなければならない、父親が稼がないといけない、という性別役割分業が根強いことが本人たちのプレッシャーになって追いつめられたのかもしれないし、こういった事件で母親だけが責められるのもおかしいと思います。
報じられた加害者だけを叩いても社会はよくならない、もっと大きな構造に目を向けないと、と思うようになりました。
たとえ50歳でも性教育を学ぶには遅くない
――ところで、大人のための性教育の本はまだあまり多くないと思うのですが、先日『50歳からの性教育』(河出書房新社)を読んでいらっしゃるとお話しされていましたね。
――特にヲポコさんにとって印象的だった部分は?
「はじめに」のこの部分はとても刺さりました。
「性についての知識が不足し、自分の性とはどういうものであるかを深く考える機会が用意 されてこなかったというのは、たとえるなら人の目には見えない大小の石が散らばった道 を歩くようなものだと思います。現在50歳のみなさんなら、それに何度もつまずいてきた のではないでしょうか。大きく転倒して、怪我をした人もいるかもしれません」
「50歳になって性教育が必要なの?」と思う人に向けて、その重要性に気づくような一文だと思いました。
――「今さら性教育?」と思う人はきっとたくさんいますよね。
そうなんですよ。だけどこの本は、実際に50歳前後の方たちが抱えがちな悩みを幅広くカバーしているんです。
50歳前後の方が抱きがちな「セックスの完遂=射精」という思い込みについて、一般に茶化されがちな更年期障害の症状といった、知ればそのあとの人生を楽に、そして豊かに過ごせるような知識が詰まっていました。
「50歳」と謳われていますが、30代、40代の方にもおすすめしたい内容です。
子どもがいる/いないで分断されない社会に
――これまでにお話を伺って、適切な知識がいかに大事か、と痛感させられました。
なかなか学ぶ機会がないからこそ、マンガで発信を続けていって興味を持ってくれる人が増えたらいいなと思いますね。
――そういうことで言うと、実はわたしも知りたいことがあります。
なんでしょう? どうぞどうぞ!
ーーありがとうございます。ヲポコさんの編集を担当してきたわたくしIには子どもがおりません。だけど、ヲポコさんの発信をはじめ、育児中の方の声に触れるたび、日本で子どもを育てることがいかに大変か理解できるようになりました。そこで、子どもがいない自分にも何かできることはないかと思うようになったんです。
おおお、そうなんですね!
ーーSNSを見ていると、子どもがいる/いないで分断されて、いがみ合ってるのをよく目にしますが、実際にはわたしのように思う人もいるんじゃないかと思うんですよね。だけど、バズりにくい話だし、わざわざ発信するようなことでもないし。
なるほど、たしかにそうですね。わかりやすい話の方が注目されやすいですからね。
ーーたとえば電車や街中でベビーカーを押していて大変そうな人がいたら、手助けしたいなと思うんです。だけど、かえって迷惑かな、とか、どうやって声を掛けたら不自然じゃないかな、とか考えてしまって何もできずにいて……。
――だけど、社会で子どもを育てる意識で動きたい。そのためには、どうすれば役に立てるか知りたい、知識がほしい。それで当事者の声と非当事者の声を結ぶ架け橋のようなマンガを作れたらと思って……。
それはぜひやりましょう! 子どもがいない方の子どもに対する視点って、それこそイヤなものばかりが目につきがちだけど、Iさんのようなことを考えている人は潜在的にいると思います。
――ありがとうございます! では次回は、子どもがいない立場と子どもがいる立場をつなぐ、社会で子どもを育てるためのマンガを一緒に作りましょう。ヲポコさん、引き続きよろしくお願いします!
こちらこそ、よろしくお願いします!
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